第4話 品行方正愛されキャラは無理!? レディの寝室にキラキラ男子×2!
「詰んでるわ……。か弱い美少女一人が今更ジタバタして何とかなるものなの!? くっ」
両手で頰を左右にぐぐぐと引っ張りつつ、項垂れる。痛い。現実だ。
「ふぅん、君って意外とモノを考えてるんだねぇ」
現実逃避したいあまり、思考から存在を勝手に追い遣っていたキラキラ天使が、眼前で微かに低めた声を掛けて来る。
「はっ! そうだ、不審者少年っ!! 貴方何者よっ」
声を聞くまですっかり忘れてた相手にキッと強めの視線を向けるけれど、キラキラ天使様はキョトンと小首を傾げる。
うん。可愛い。
この天使様、とんでもないことやってるのに可愛さで許したくなっちゃう。ルチルと同じで、庇護欲そそらせて我儘を通す属性の持ち主ね。小説通りの欲しがりルチルだったら『素敵な物は全部わたしのもの』思考で、こんな状況も喜んだんだろうけど、今のわたしはそうじゃない。
前世と今世の記憶が混じり合って、考え方が変わったから。
それに何より、この世界『キミハナ』で『ざまぁ』される未来を知っているから!
ここが『キミハナ』の世界なら、父さんの証言では『母親の夢小説』でもある。としたら、誰かはおかあさんが自己投影していたキャラクターなんだけど、それは『ざまぁ』されるわたしじゃない。物語がエタっていても分かる、わたしは間違いなく物語を盛り上げる負けキャラだ。
このまま漫然と物語と云う名の運命に流されれば、破滅の未来しかない。
「わたしが自力で運命を捻じ曲げるしか、破滅を回避する道はないのよ! 今更、品行方正愛されキャラにはなれないだろうけど、一般人に迷惑をかけない程度に更生する道くらいはっ……きっと残されているはず!」
「ルチル!?」
両頬を引く手に力を込めて、ガバリと上半身を起こしたわたしに、エリオッツが困惑も顕な声を上げる。だけど、わたしの破滅の未来を回避するには、些細な反応などを気にする余裕はない。
「そのためには、何でも欲しがる我儘ルチルは卒業しなきゃなのよ! 手始めに、レディの寝室にキラキラ男子たちを引き込んでる、このとんでも状況と戦わなきゃ! ってわけで、あなた誰!?」
「ふ、ふふふ」
至極真剣に聞いたのに、目の前の金髪天使は悪戯好きな油断ならない猫の目で笑いを零し続ける。
「面白いね。ルチル嬢は。エルから話を聞いて、彼を見限る前に一度君たちを観察してみようって、興味本位で来てみたけれど。
なかなかどうして、想像以上に面白いものを見せてもらったよ。これから楽しくなりそうだ。よろしくね、ルチル」
「二度も面白いって言ってるし!? そんな、おもしれーオンナ枠なんて狙ってないからっ! って言うか、ホントに貴方だれ!?」
再度詰め寄るも、キラキラくんは天使らしからぬ腹黒いニヤリ笑いを浮かべるだけだ。その上「じゃあまたね」なんて嬉しくもない言葉を残して、さっさと部屋を後にする。見た目は天使でも、中身は傍若無人な自己中少年らしい。
「あ、待ってください! 見限るって一体っ!?」
なにやら血相を変えたエリオッツが、大慌てでその後を追い、家令もその様子を見て急いで扉の向こうへ消えた。
唐突に、呆気なく静けさを取り戻したルチルの寝室だ。
「なんなの? あのキラキラ傍若無人くんは」
すっかり人気の無くなった寝室で、わたしの声は思いのほか大きく響いた。独り言のつもりだったけど、ひっそり部屋の隅に控えていた侍女と目が合ったから、取り敢えず問う視線を向けてみた。けど「申し訳ございません」なんて、滅茶苦茶恐縮して答えられたから、慌てて「問題ないわ」ってフォローしておいたわ。
ルチルの我儘被害は使用人たちにも及んでいるのかもしれないわねー。そこんところも何とか挽回しなきゃね。人望大事。
それはさておき、侍女も知らされていない婚約者の付き添いの少年も、要注意と言ったところだろう。あの煌めかしい風貌は、絶対に無害なモブであろうはずがない。
「まぁ、ここがウェブ小説の世界なら、悪役に近付く綺麗なものは大概が破滅へ導く要素よね。なら深入りせずに、距離を置くのが一番ね。
くっ……。神様、なんでわたしをこんなハードモードに陥れるのよぉ」
神様に訴えるべく、勢い良く頭上を仰ぎ見る。
ひょこんっ
まだ頭上に居たらしい黄色い毒キノコが、振り落とされそうになって、慌ててバランスを取っている。
「こんな設定だって無かったはずよね?」
ぐぐぐと眉間に皺を寄せつつ侍女を見遣るが、彼女はルチルの独り言に若干の訝しさを滲ませるも、キノコに対する驚きは浮かべていないようだ。
ぶるぶると首を大きく左右に振れば、ひゅんと飛ばされた毒キノコは侍女の目の前に飛んで行き、宙に浮かんで静止する。けれども侍女は何の反応も示さない。先程のキラキラ男子たちも、この目立つ毒キノコに言及はしなかったから、きっと見えていなかったのだろう。
「わたしにだけ見える毒キノコ……?」
考えれば考えるほどオリジナルの小説には無かった、不可解で異なる展開が続いている。うーんと首をひねっても、出ない答えを考えるのに飽きたわたしは、頬を左右にむにりと引っ張って勢い良く放す。
「ま、悪役らしいアイテムだから、悪役ルチルに憑いてるのかもね」
まさかまさかの連続で疲れきったわたしは、早々に考えることを放棄した。
後にこの現実に振り回されることになろうとは――面倒回避を考えるばかりのわたしは、気付きもしなかったのである。




