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わがまま義妹ルチルの悪役離脱計画!~転生先は、おかあさんの夢小説~  作者: 弥生 知枝(やよい ちえ)
第3章 小説から覚める時――今世の家族と前世の家族

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第39話 平坦平凡平穏が一番なのに、創造力が仕事をしたがる!


 改めて、キッパリと自分自身の想いを言葉に表せば、セラシアは余程意外だったのか、大きく目を見開いた。


「そんな、だって “ ▓▓▓ ” は何年も会話がなくって辛かったよね。ルチルさんは、権力者に謂れのない罪で責められて怖かったよね。本当の姿にも気付いて欲しかったよね」


 確かめる様に、セラシアの中の『わたしが抱いているはずの感想』が並べられる。


 けれど、ね。


「わたしはもう、何にも怒ってないし、傷付いていないわ。ただ、わたしの知る皆が平穏に、波風立てず生きることを望んでいるだけなの」


 そう、物語に描かれる至高の愛と成功を掴み取るヒロインや、巨悪を倒すヒーローみたいな運命は望んでない。むしろ、生命の危機を感じない平坦平凡な人生こそ最高の到達点だと思ってる。命の終焉によって、永遠に離れ離れになったと信じて疑わなかった家族が、再び同じ世界に存在している()となっては、余計に!


 余程意外だったのか、セラシアは表情が抜け落ち、呆然としてわたしを見詰める。


「ルチルさんは、もう良いの? 何年も寂しい思いをさせちゃったけど、もう、良いの?」


 セラシアが言うのは、前世で遺した “ ▓▓▓ ” の想いの確認だろう。そっちも、もう何も問題ない。おかあさんが去った後、父さんと二人きりでもそれなりに楽しくやっていたもの。だから、わたしは当時を想い出しつつ微笑んで答える。


「うん。一緒におかあさんのパソコンを見ながら、夢小説だとか、色んなこと聞いたよ」


 安心させるつもりの言葉は、セラシアに意図しない衝撃を与えてしまったらしい。「夢っ!? っく、いいわ。それは今は置いておきますわ」と、若干赤面しながら眉間に皺を寄せて何かを堪えている。


「ルチルさんは、とうに赦していたのね。それなのにわたくしに想像力が足りないばかりに——ごめんなさい」


 力無く、寂し気にセラシアが項垂れた。


「ううん、わたしもハッキリと言わなかったのが悪いから。だって、物語の世界で悪役だなんて、最弱な立場の持ち主なんだもの。目立たず平坦に、波風立てない人生を送ろうとしてたから、色々ちゃんと言葉にして表さずに我慢してたところはあるもの。

 だから、ちゃんと伝えなくてごめんなさい」

「ルチルさん……」


 感慨深げに、今のわたしの名前を呟くセラシアは、安堵に瞳を潤ませている。

 ようやく本当の気持ちを伝えることができた。やっと、親子同士の人間同士としてのスタートラインに立てた。そんな気がする。


「けど、これでお互いスッキリしたよね。わたしたちは、それそれが現実を生きて考える一個の人間だって」


 言えばセラシアも「そうね」と、憑き物の落ちた柔らかな笑みを浮かべた。彼女も思い悩んで苦しんでいたんだろう。

 今回の何年にも亘る鬱屈した関係性の問題は、親子とは言え、同じ人間、同じ考えでないからこそ起こったすれ違いが原因だ。だから、わたしは自分にも言い聞かせるつもりで言葉にする。


「もちろん、お互いの考えは伝え合わなきゃ分からないのは、ただの現実世界も変わらないけど。世界は誰か一人の想像の範囲で収まる物語とは違うのよ」

「——物語」


 スッキリ終わらせるつもりが、セラシアに引っかかる単語を与えてしまったらしい。呟いたセラシアは、焦った様子で口を開いた。


「そう、そうだったわ! 違うのよ! この世界は、ただの『キミウタ』に似たWeb小説の中ってわけじゃないのよ!」

「えっ?」

「わたくしが “ ▓▓▓ ” を産んだ世界の前に居た世界が()()なの! 『キミウタ』は、前世で偶然お父さんと再会できたわたくしが、ここでのお父さんと、わたくしの想い出を元に、その後の世界を空想して物語として書いていたのよ!」


 狼狽えるしかないわたしに、セラシアは興奮しきった様子で早口にとんでもない情報を列挙してゆく。

 ポカンとして口を開けたエリオッツはもちろん、貴族らしい崩れない表情を身に付けているラファエルもが、いつもの微笑をわずかに強張らせている。たまたま周囲に居合わせた生徒たちは言わずもがな、だ。


 セラシアを止めなければ、とんでもないことを口走り兼ねない⁉

 そう気付いた時には、既に手遅れだった――


「そこに居たときの、わたくしの名はシャレード!」


 まさかの伝説的存在、『ヒュアツィンテ王国』開国の祖の名前が飛び出した。


「お父さんの名はオズ!」


 もう一人の伝説の勇者も、まぁ当然の様に付いてくる、わよね。うん、もぉそんな気がしてた!


「わたくしたち夫婦は、何百年も前にこの世界に生きてたの! この世界は、 “ ▓▓▓ ” が産まれた前世よりもずっと前から存在するのよ!」


 って⁉

 思わず、ぐるりと首を巡らせて、ラファエルを見遣る。いつもと変わらない、人を食ったような平常心溢れる天使の微笑を見たら、わたしもちょっとは落ち着けるはず!


「――っひ⁉」


 まさかの天使の愕然顔ーーーーーーー! 思わず喉の奥から出ちゃいけない声が出たわ!


「は? ならばセラシア嬢と兄上は、開国の祖が転生したのだと言うのかい? セラシア嬢は、異なる世界で物語を作っていて、それが今ここの世界だと?」

「それこそ夢でも見たんじゃないのか⁉ セラシアは、ここのところ……ほら、色々あって大変だったから。私の勉強を見てくれたりだとか、それ以上の成績をいつも取れるくらい頑張っていたりだとかで疲れているのかもしれないし。あ、私が頑張っていないって訳じゃなくて……ってそうじゃなくて! そんな奇跡みたいなことなんて、早々起こるものじゃないし」


 困惑も顕わなラファエルに引き続き、彼の侍従エリオッツは更に上の混乱を見せている。うん、分かるわ。わたしも混乱してるから。キノちゃんみたいな超常の存在をいつも見ていてさえ、今の異世界二度転生なんて奇跡みたいな話は信じられないもの。

 そんなわたしの困惑を見計らったように、キノちゃんが「エヘンにょ」と柄を逸らして目の前にふわりと浮かんだ。


『キラキラ乙女の望みは、精霊たちが礼返しで叶えるにょ』


 キノちゃんの言葉に同調してか、周囲に集まって来た精霊たちが『そうそう』『礼返しするのー』『恩知らずにはなりたくないの』と口々に囁きつつ、ちゃっかりセラシアのキラキラの素を摂取して柔らかく光る。

 精霊の姿が見えない者が殆どの中、キノちゃんをはじめとした精霊たちを光として視認できる者は多い。だから、エリオッツをはじめとした生徒たちの多くには、セラシアの周りを光の欠片が取り囲むのが見えたのだろう。驚愕や、尊崇(そんすう)の視線が彼女に集中して行く。


「奇跡だ……! そうか、セラシアは、精霊に愛される証である光を纏ったと伝えられる、精霊使いシャレードと同じ! 奇跡を起こす存在だったのか!」


 エリオッツの感動に打ち震える声が、殊の外はっきりと周囲に響いた。


『わっちらに初めてたっぷりのキラキラをくれたキラキラ乙女は、また愛するメラメラと一緒に生きたいと強く願ったにゃ。その次の生でも、また家族で生きたいと願ってしたためていたにょ。だからわっちらは全力で叶えたにゃ』


 キノちゃんが、相変わらずの毒キノコのままの容姿で――けれど、神様めいたとんでもない奇跡の告白を続ける。一瞬、その姿が崩れて別の形に見えかけたけれど、わたしはギュッと頬を左右に引っ張って、おかしな相棒の姿をもう一度よく見た。

 この世界で “ ▓▓▓ ” の記憶を取り戻してからずっと、共に頑張り、助け合って来た愛着ある悪役ルチルのための存在『毒キノコのキノちゃん』だ。

 気持ちが落ち着くと、キノちゃんの形はまたしっかりと元通りになっている。


 こちらは落ち着いたが、気付けば周囲に我も我もと精霊たちが集まり始めていた。


『キラキラ乙女のしたためる通りねー』

『頑張って近付けたのよ。王子様はひとり多くなっちゃったけど、メラメラだから仕方ないのね』


 小さな光のなかでも、より強く大きな光となった精霊たちが、無邪気に事の顛末を語り合う。彼らの言葉は、わたしにしか聞こえない――もしかしたら、わたしがシャレードとオズの子供なんて、まさかのハイブリッドな存在だったからかもしれない――聞こえたら更に大騒ぎになりそうなことを口走っている。


 けれど、ようやくその騒がしい声を拾って、わたしがこの世界に悪役ルチルとして生まれて来た理由が分かったわ。

 おかあさんは、シャレードとして生きた次の世に、夫婦ともに転生して生まれた娘を愛し、再び一緒に生きたいと願ってくれていた。

『キミウタ』は、おかあさんが前世を懐かしんで作り上げた元の世界のその後を想像して書いたものだった。


 ところが、おかあさんの精霊愛され特質が、とんでもない働きをしたのよ。


『キミウタ』の世界観全てを、礼返しと称した精霊らが、全力の奇跡の力でフォローアップして導き、辿り着いたのが――現在。


 はぁぁあああああ!???


 精霊使いシャレード、恐るべし!

 いや、それよりも、精霊たちの奇跡の万能が恐ろしすぎるわ!!


『 や っ ぱ り そ う だ っ た ー 』

『 み ー つ ー け ー た ー 』

『 極 上 の 、 キ ラ キ ラ 』

『 何 百 年 も ま っ て た ー 』


 精霊たちの甲高い声とは違う、ひび割れて間延びした声が、周囲に低く響いた。


『恩知らずが来たにゃ』


 キノちゃんの見遣る方向へ視線を向ければ、そこには黒く濃い靄が一塊となって漂っている。


『 シ ャ レ ー ド 』


 太古の昔にこの世を去ったはずの名の再来に、黒い靄たちは歓喜の波動を伴って、その名を呼ぶ。


 この世界の流れを作り変えてしまうくらいの力を持つのが精霊なら、恩知らず――その力を独り占めして私利私欲に走る存在の闇獣(あんじゅう)って、そうとうやばい奴なんじゃない!?


 そう思った瞬間、創造力が仕事をしてしまったらしい。





 黒い靄がはっきりとした形を持った。

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