第36話 キラキラな豊かさが齎したもの 〜 最終章プロローグ 〜
仲間たちが美味なるモノを取り込んで、美しくキラキラ光り、満足げに舞い踊る。
『たくさーんあるのねぇ』
『久々だねー』
『美味なるにゃぁ』
どこからともなく現れた不可視の仲間たちが、口々に囁き合いながら至上の光を帯びて浮遊する。
もっと欲しい。
もっと輝きたい。
美味なるもの、美麗なるものは精霊の存在を強くする至高のエネルギー。
取り込めば自我を強く出来る上に、自身も同じ光り輝く美しさを手に入れられる。枯渇と欲を満たすものに仲間たちが引き寄せられるのは、当然すぎる自明の理だ。
そんなキラキラの素を作り出せるのは、嘘や作り物でない美貌を纏う《《人》》だけ。至高の想いを込めて《《人》》に創り出されたモノだけ。
一見して美しいもの、美味なるものにもキラキラの素は在る。けれど、当たり前にあちこちに散らばる『それ』は、ひと舐めして消える砂糖粒くらいの満足度しかない。不可視の仲間たちが満足できるキラキラは、遠い昔に世を去ってしまった『シャレード』なる乙女と、『オズ』なる青年から得られたが、その後久しく人の世から得られる術は無くなっていた。
ところが今——再び王国中の精霊の元へ、心が喜びに打ち震え、本能的な高揚感を湧き起こさせる『美味なるもの』の気配が伝わったのだ。
『キラキラねー』
『われもわれも』
『キラキラするのー』
精霊らがこぞって一人の乙女に群がるが、美味なるものは無くなる気配は無い。
『礼返しするねぇ』
殆どの精霊は、柔らかく小さな輝きとなって瞬きながら、乙女の喜びそうな奇跡を振り撒いてゆく。
乙女の近くの植物が、生き生きと背筋を伸ばして大輪の花を咲かせ、周囲の空気に芳香を纏わせ、小さな変化をもたらす。
『たくさん、たくさん! もぉっとたくさん! 一番いっぱい欲しいのぉ』
集まる精霊が増えれば、競争心を持ったもの、欲を膨らませたものも増えてゆく。
どんどん取っても減らないキラキラの素に、自分だけは礼を返さなくても大丈夫と、勝手な理屈を持ち出す輩も現れる。
『恩知らず』
どの精霊ともなく呟かれた言葉にも、耳を貸さずに、ただ貪欲に取り込んで、飲み込んで——
純粋な気持ちの塊である精霊は、本能に呑み込まれて、終いには貪欲さそのままの存在に変容する。
こうなったら、もう元には戻れない。
『あーぁ、あのコ変わっちゃったよ』
同族が闇獣へ堕ちたのを見て、精霊が無邪気に告げる。
もともと嫌な存在だったモノが、単に完全なワルイコになっただけの変化。
憐憫はなく、ただ「あーぁ」といった感想だけ。
良質なキラキラの素を持つ人が現れれば、闇落ちする精霊も増えて、次々と闇獣が誕生する。
遥か昔、精霊使いシャレードと共に、勇者オズが活躍した時代と、同じ流れが繰り返される。
巡り巡る。
恩恵と破滅は背中合わせ。
皮肉な因果はまたしても、奇跡の皮を被った災厄の姿を隠し、人々の世界を侵食する。
素晴らしい奇跡をもたらす聖なる乙女の本質とは別に、地上では着実に闇獣たちが数を増やしていた。
欲望のままの姿となった闇獣たちは、さらなる欲に駆られて押し寄せる——キラキラ乙女の元へと。




