第31話 姉妹の絆にニヨニヨしつつ、集合体の恐怖再び!?
「何が節穴だ、大袈裟に過ぎる表現だな。私は、世界を正しき姿に導こうとしているだけだ。お前だって本来の役割を思い出した時、きっと私に同意するだろうさ」
ミカエルが、困った子供を見る優しさを含んだ表情で、ラファエルを諭す。同時に、忌々しげな視線をわたしに投げつけるのも忘れない。落差が酷いわ。けれど、即座に反論の気配を見せたのは、わたしではなくラファエルだった。
「そんなことだから、こんな席を設けることになったのでしょう。僕の気持ちを勝手に決めつけないでくれませんか」
心底呆れた調子を声音に潜ませつつ、ラファエルは天使の笑みを貼り付けている。しかし、空色の瞳は冷え冷えとした色を隠さない。
「やれやれ、しばらくぶりに顔を合わせたかと思えばこれだ……」
苦笑交じりの声が、張り詰めた場の空気を断ち切った。柔らかな声ではあったが、そのひと言は、王子らの主張を途切れさせるには充分な威厳を持っている。
「今までの話は聞かなかったことにする。それぞれの主張は正式な開会宣言の後からのみ判断材料として採用する。異論は認めんぞ。お前たちは放っておくと勝手ばかりするからな」
声の主は国王陛下だ。髪と瞳はラファエルと全く同じ色彩で、彼が年を経ればこうなるだろうと思えるよく似た面立ちではある。一見穏やかな表情ではあるが、心の底を見透かせない老獪さをも併せ持って見えるのは、さすが国王と言うべきか。
この場の最高権力者の一言で、王子たちの主張のぶつけ合いは一時休戦となった。そして仕切り直しとばかりに、この場の開会を宣言した宰相の一言により本来の目的――セラシアを王家で保護するべきかの議論が始まった。
「どれだけ言葉を尽くすよりも、今目の前で起こっている事象が何よりも雄弁に私の主張を裏付けております」
第一王子が、大きな身振りと、話慣れた言葉の抑揚を交えて持論を展開する。
わたしより二つ年上の16歳でしかないのに、彼の話ぶりは中堅どころのサラリーマンのプレゼンを見ている様で、妙な違和感がある。
「ご覧ください。このグランフィルド家が嫡女、セラシア・グランフィルドの神々しい姿を。精霊に愛された精霊使いシャレードの血をより強く継ぐ者でなければ、このように精霊が集まることなどありません。文献や伝承を紐解いても、ここまで精霊の光に護られる人間は、シャレードその人以来出現していないのです! 彼女こそが、この国――いや、精霊らの希求する尊き存在なのです!」
第一王子の主張を受けて、部屋に集ったものたちが一斉にセラシアに視線を移す。会が始まる前に出現した細やかな光の粒達は、未だセラシアに纏わりついて離れてはいない。
けれど、光に包まれたセラシアの様子はと言えば、困惑も顕に眉尻を下げ、肩口に触れる光を揃えた指先で払い除けている。
『むー! んむむむーっ、むむーっ!!』
何やら精霊が言葉にならない抗議の声を上げている。虫かフケ扱いでは、さすがに食いしん坊精霊も気を悪くしたのかも知れない。
『パワパワ乙女? 納得した顔してるみたいにゃけど、花にされた子たちは喋れないって文句言ってるにょ。わっちが羨ましいにゃ』
「なんですって!?」
たらふくセラシアのキラキラを吸収し、わたしの頭上に戻って来たキノちゃんと小声で会話を交わせば、斜め前から第一王子ミカエルの鋭い視線が飛んでくる。
「ふん、お前たちの様に心が濁っている者には、精霊の光も見えてはおらんだろう。だが、お前たち親子が虐げて来たセラシア嬢は、今まさに尊き精霊の加護の光に包まれているのだ!」
第一王子が、朗々と通る声を張る。けれど、セラシアの周囲に無数に漂う桜吹雪状態の精霊らが『むーぅ! むむむぐぅー』なんて口々に
叫んでいるから、半分も聞き取れない。
「んもぉ、何言ってるのか分からないんですけど?」
見ず知らずの精霊さん達の煩さに、コッソリと注意したはずだった。
「何だと!?」
なのに、何故か第一王子が気色ばんでしまった。
「え、いえ、そうじゃなくって! ちょっと待ってください! 煩すぎて言いたいことが分からなくてですねっ」
「まだ言うか!」
言い訳するも、更に王子のメラメラに油を注いでしまったらしい。隣のラファエルが、わたしとミカエルのすれ違いに気付いて、何かを言い募ろうとする。
が、理知的に整えられた声が発せられる前に、本能的にわたしを庇う存在が居た。
「わたくしの可愛いルチルさんを、恫喝するような真似は止めて下さいませんか!」
セラシアが、辛抱堪らずと言った様子で腰を浮かせて声を上げ続ける。
「何度も申し上げておりますよね、貴方の思い違いですと!
わたくしが特別な存在だなんて世迷い言を、出逢った最初から何度も仰ってますけど、都度否定しているのですよ⁉
貴方が王子でなかったら、わたくし然るべき機関に訴えてますわ!」
噛み付く勢いで繰り出される嫌悪の言葉を、庇護したい対象から向けられて、ミカエルはひたすら狼狽えている。ちょこっとだけ同情するけど、セラシアお義姉さまからわたしに向けられる温かな想いに、込み上げる嬉しさが勝ってニヨニヨしそうだ。
「だがっ、セラシア嬢が特別な存在なのは真実だ! 精霊の気配に聡い者達には、今も貴女の周囲を漂う、神々しい光の粒が見えているのだから」
ミカエルの言葉に、彼の背後の腕章集団の半数と、ラファエルの隣に座る大臣がそっと首肯する。王様と宰相は、どちらなのか特に反応は示さず、話の行方を静観する構えだ。
そんなミカエルの主張も虚しく、セラシアは呆れ返った視線を彼に返す。
「精霊と仰るなら、わたくしのルチルの方が凄いです。今もあの様に沢山の精霊に囲まれているではありませんか!」
優美な腕の振りで示されたわたしの元に、室内中の人々の視線が集まった。
まずわたしを見る人の彷徨う視線が留まるのは、頭上。キノちゃんの鎮座する場所だ。次いで困惑も顕わに移動した視線は、再びわたしの足元に辿り着いて硬直することになった。
あぁ、メラメラ王子——いえ、ミカエルが戦慄いているわ。
「なん……だ?」
その呟きは、何処まで見えているからなのか。
そう、桜花の形を取った精霊達が口々に、喋れるキノちゃんが羨ましいだなんて煩く言うから、ならば望みを叶えてしまえと思っちゃった訳よ。
そしたら案の定、わたしの創造力が仕事をして——今現在、漂ってた精霊達の半数は毒キノコ形状に変化したわ。お陰でわたしの足元には今やキノコの絨毯が形成されつつある。
集合体の恐怖、再びの危機ね。




