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わがまま義妹ルチルの悪役離脱計画!~転生先は、おかあさんの夢小説~  作者: 弥生 知枝(やよい ちえ)
第2章 この世が夢小説であるならば、出会う相手は虚像か実像か!?

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第28話 繋がる想いと、ルチルの創造力


 ラファエルに(いざな)われ、準備されていた馬車に乗って辿り着いた先は、学園外の邸宅だった。


 都市部にも関わらず広く敷地を取った屋敷を見れば、その主人が如何に大きな力を持っているのかが分かる。馬車は真っ直ぐ、その白く輝く屋敷の正面に向かい、入り口まで続く大理石の美しい階段の前で停車した。


「ラファエル様? ここはどちらなのでしょう」


 馬車から降りて大通りまでのアプローチを振り返れば、芝生と丈の低い花のみで左右対称な幾何学文様が象られた中央を、白い敷石を敷き詰めた、太い直線通路が貫く美しい庭園が広がっている。


「ここは、僕の持つタウンハウスの一つだよ。兄上と違い、僕には王城に居場所らしい所は無いからね。伝承が途絶えていた幾つかの隠し通路の情報と引き換えに、落ち着ける場所を賜ったんだ」


 言いながら、ラファエルが馭者によって開けられた扉から真っ先に降りて、わたしの手を引く。王子様が「賜る」相手なんて、国王くらいのものだろう。扉の前に恭しく礼を取りながら立つ使用人の姿を見れば、洗練された身の熟しで、一目で高貴な身分の人間に仕える者だと分かる。使用人が居並ぶ玄関ホールに足を踏み入れると、ラファエルは扉前で出迎えてくれた最も年嵩の使用人に何か小声で指示を出し、わたしには笑顔を向けた。


「ルチルにはこんな形で近付いたりしたくなかったんだけど、兄上の強引なやり様には納得いかないから」

「ううん、そんなことないわ! わたしの力になってくれる人が、この世界に居てくれるだけで、本当に信じられないくらい嬉しいんだから!」


 しかも、味方に付いてくれたのが天敵王子様なのだ。これほど心強いことは無い。けれど、その答えを聞いたラファエルは僅かに顔を曇らせる。


「僕は、いつもルチルに寄り添っているつもりだったんだけど……伝わってなかったみたいだね」


 しゅんとした天使の顔に、罪悪感がチクチクと突き刺さる。そうか、敵だと思っていたから、不条理な纏わり付きだと捉えていたんだけど、好意的に懐かれていたんだとしたら、悪いことをしていたかもしれない。

 けどそんなこと、考える余裕なんてなかったもの。わたしは破滅の回避を考えるだけで精一杯で、この世界での対人関係は悪役ルチルを不利にするか、そうじゃないかって考え方しか出来なかったから。


「ごめんね。あと、ありがとう。本当にラファエル様……ううん、ラフィーには感謝してる」


 初めて出会った、家族以外で自分の身を真摯に案じてくれる存在に、「様」を付けて距離を取るのも寂しい気がして。以前に彼が主張した愛称で呼び掛けてみれば、ラファエルは大輪の花の開花を思わせる、満面の笑顔を浮かべる。


「――! ルチルっ、初めて僕の愛称をっ……」


 感極まって目を潤ませる美麗天使。見惚れるよりも、これまでの自分の鈍感ぶりに罪悪感が増すから止めて。


「ラファエル様、……そろそろ」


 微かな咳ばらいの後、声を掛けて来たエリオッツだ。良かった、煌めく天使の笑顔に、頭上のキノちゃんだけじゃなく、わたしまで小躍りしそうだったわ。

 エリオッツの言葉に、ラファエルも状況を思い出したんだろう。若干赤く色付いた頬を誤魔化すように、口元に手を当ててコホンと咳ばらいをしてみせる。


「ルチルは、急な話と移動で疲れたでしょ? ゆっくり、寛いでいて」


 そう告げたラファエルは、エリオッツを引き連れて長い廊下の奥へ姿を消した。

 わたしはと言えば、そのまま客間の一つに案内された訳だけれど。一人で着くには大きすぎる6人掛けテーブルの上に、紅茶と、菓子が次々に運ばれてくるのを、ただ唖然と見ていれば、あっという間にテーブルの上は色とりどりの菓子で埋め尽くされる。


 紅茶は、わたしの分の、一杯だけ。

 澄ました様子で、紅茶ポットの乗ったトレーの側に控える使用人は、他の二人の茶を用意する素振りもなければ、ティーカップすら無い。


「あの、二人は一緒ではないのですか?」

「お嬢様は、何もお気になさらず、お茶をお楽しみになっていらしたら良いですよ。王城に戻られたラファエル様が、よしなに取り計らって下さいますから」


 安心感を与える、ひたすら柔らかな笑みを乗せて答えが返ってきた。どうやら天使は、わたしを保護しつつ、本拠地に舞い戻って断罪回避の工作を進めてくれているらしい。


『どうしたにょ? いつも、わっちと取り合ってるにょに食べないにゃ?』


 頭上から声が響く。いつもの、公爵邸での菓子なら確かにそうだ。セラシアを助けるたびに、木苺ジャムの菓子を作ってキノちゃんに提供する傍ら、わたしも大好きな味に舌鼓を打つのが習慣になっている。

 けどそれは、おかあさんの思い入れの詰まったヒロイン『セラシア』を助け、おかあさんとの想い出の味を食べて、懐かしさを噛み締めるからこそ意味のある行為なのよ。


 ——今目の前にあるのは、セラシアを助けて並べたお菓子じゃない。


 むしろ、セラシアは第一王子の元へ向かい、どうなっているのか分からない状態だ。


「お義姉(ねえ)さまがどうなってるのか、分からない状態でお菓子を並べたって……口にする気なんて起きないわ」


 ポツリと呟く。食いしん坊のキノちゃんも、このお菓子には飛びついたりはしてしない。


『パワパワ乙女が作った、木苺ジャムが良いにょ。キラキラ乙女を助けた礼のジャムが、美味にゃ』

「だよね。何もせずにお菓子だけなんて、わたしらしくないわ」


 やっぱり、自分の運命、おかあさんの大切なストーリー、セラシアの安全を、自分の見えないところで誰かに任せるなんて出来ない。


『ならば、わっちに礼をもたらすための、望みを言うにょ。パワパワ乙女の望みと、明瞭な想像が、わっちの力に形を与えるにょ!』


 ここへ来て、初出し情報だ。キノちゃんは、わたしの望みに応じた姿を取るらしい。確かに諜報の時には、影にひっそり目立たず生えるキノコ型で壁や柱に潜んでいたし、尖塔のドレスを取る時には、わたしが形を想像したら、望みを叶える力が手に入るって言ってヘリコプター型に変化したわ。


 まさか、わたしの想像……いえ、創造力が精霊キノちゃんに影響を与えていたなんて!

 さすが、Web小説書きのおかあさんの血を引くだけあるわ。


 ——なんて、ここへ来て親子の繋がりを改めて感じでしみじみしていると、ひょこんとテーブルの上に飛び乗ったキノちゃんと目が合った。


「あれ? だとしたら、なんで基本がその形なの……?」

『パワパワ乙女が、漂う光で存在する精霊のわっちに自分を投影したにょ。派手で、可愛くて、毒になる存在だって、自分を認識してるにょ?

 わっちの姿は、パワパワ乙女が己を捉える合わせ鏡にゃ』


 無意識に、創造の力でキノちゃんに影響を与えていたらしい。なんてこと。

 けど、それなら話は早い。キノちゃんに任せられることは、わたしの想像次第で広がるということだ。まぁ、わたしがキノちゃんに木苺ジャムで与えられる力じゃあ、空を飛んだり、わたしを強化することは難しいみたいだけど。


「わたしの守りたい人が、どうなっていて、どんな話になっているのか……探れたら、礼が用意できるんだけどなぁ」


 見ず知らずの使用人が聞いても、とぼけられるよう、言葉を濁してキノちゃんに話しかければ『まかせるにゃ!』と、元気な声が響いて、キラキラと光の粒が降ってくる。


『やっぱりパワパワ乙女らしい、この姿で出来ることが一番多いにゃ』


 キノちゃんが、可愛らしくも毒々しい姿を壁面に溶け込ませてゆく直前、元気に告げた言葉に、わたしは苦笑交じりで肩を揺らすしか無かったわ。

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