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わがまま義妹ルチルの悪役離脱計画!~転生先は、おかあさんの夢小説~  作者: 弥生 知枝(やよい ちえ)
第2章 この世が夢小説であるならば、出会う相手は虚像か実像か!?

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第26話 第一王子の鉄槌に狙われた悪役ルチル


 王国に危機が訪れるのはいつか?

 それはまだ語られていなかったけど……物語だもの、何十年も経っておばあちゃんになった頃なんてわけない。

 ビジュアル的要素や、読み手を手放さない引きの要素を考慮すれば、そんなに先じゃないはずよ。


 で、今のお義姉(ねえ)さまはというと——


「ルチルさん、ちょっと良いかしら」


 部屋の扉がノックされて、セラシアの声が響いてきた。「どうぞ」と答えて扉を開ければ、見慣れた虐げられスタイルのセラシアが居る。

 思わずがっくりと項垂れそうになったけれど、セラシアがこうなった原因の一端はわたしにもある。と云うか、わたしの意識が表に出る前の純粋悪役ルチルをはじめ『無関心父』『意地悪義母』の三人衆が、彼女を使用人として扱い、公爵令嬢らしい持ち物を奪い続けて虐げた結果――彼女はその環境に順応してしまったのだ。


 セラシアは、学園に通う制服から、私服の中で一番着慣れていると主張するお仕着せに着替えていた。髪を野暮ったい一括りにしつつ、周囲の視線を避けて背を丸めて俯く彼女の周囲には、キラキラの欠片もない。


「なんでよ!? お茶会ドレスの時は、キラキラどころか、後光だったわよね!?」

『美味だったにゃ』

「味を聞いてるんじゃないのーー!」


 キノちゃんの食いしん坊発言に思わず突っ込みを入れれば、真正面に立つセラシアが、キョトンとした後でフワリと微笑む。


「ルチルったら、学園生になってもまだ、見えないお友達とお話しているのね。いくつになっても、想像のお友達を感じられるのって、純粋で良いと思うわ。

 けど、皆の居る所ではダメよ。わたくしとルチルの……いえ、それと、ラファエル様とデメンテル伯爵令息様も知ってるわね。四人の秘密にしておきましょうね」


 なんだか、お義姉(ねえ)さまから、夢見がちの困った妹扱いを受けてる気がするわ。そうね、セラシアにはキノちゃんら精霊は、物を言わない光の粒にしか見えていないのよね。物語に出てくる精霊も、ただの光としか描かれていなかったわ。だったら、それ相手に話し掛けてるのはおかしな光景にしか見えないんだろうけど。


「大丈夫ですわ」


 ちょっぴり不満に思いつつ、唇を尖らせて答えれば、眉を下げた困った子に向ける苦笑交じりで「偉いわね」と声をかけられた。どうにもわたしは、お義姉(ねえ)さまから困ったところのある手を貸さなきゃいけない義妹だと認識されているらしい。


「じゃあ、ルチルさんの荷物を納めて、お部屋を片付けますから。ルチルさんはお茶でも飲んでいらしてくださいね」

「お義姉(ねえ)さま!? 普通にわたしの世話をしようとしてますね!? お父様とお母様に言った、お義姉さまを世話役として一緒に入学するって言ったのは、方便ですからね!」


 Web小説の『キミハナ』でも、ルチルが学園でセラシアを虐げるため、世話役として連れて行く描写があった。実際のわたしは、セラシアを虐げるつもりなんて微塵もないけれど、彼女に嫌がらせをしたくて仕方がないお母様の居る公爵邸に置いておけなくて、物語と同じ表現で彼女を連れ出したのだ。

 まさか本気にしていたなんて……。


「うぅ、お義姉(ねえ)さまとの距離はまだまだ遠いのかしら」


 ドアノブに手を置いたまま、がっくりと項垂れて呟けば、慌ててセラシアが「まぁ、誤解ですわ! ごめんなさい」と謝罪の言葉を告げる。


 そう、寮の廊下と部屋を繋ぐ扉を開けたまま、こんな遣り取りをしていたわたしが悪かったんだろう。悪役としての危機感が足りなかったのかも知れない。


 その姿を、廊下からこちらを伺っていた女生徒が居るなんて、思ってもみなかったと云うのもある。けれど、前日の第一王子やその側近候補らが、わたしに向けていた悪感情をもっと気にしておくべきだったのだろう。

 わたしたちを、廊下の物陰から監視していたらしい女生徒がこちらに鋭い視線を向けて、眉をつり上げた。彼女の腕には、昨日見たばかりの白い腕章が付けられている。


「貴女っ!? 同じ生徒の立場、同じ公爵家の姉妹の立場で、何をしているの! やっぱりミカエル王子の仰る通り、セラシア嬢を虐げているのではなくて!?」


 責める口調は、真っ直ぐわたしに向けられている。誤解だと言いたいけれど、お仕着せまでしっかり着込んだセラシアが、わたしの部屋に来ていて、しかも頭を下げる姿を見られたんじゃあ、説得は難しそうだ。


「誤解です! ルチルさんを悪く言わないで」


 わたしが疑われていることに気付いたのだろう。セラシアが即座に言い募る。けれど、女生徒は、哀れみを称えた表情でセラシアに向かってユルユルと首を横に振る。


「分かっています。悪いようにはしません」

「本当ですね!?」

「はい。きちんと、ミカエル様にお伝えします」


 女生徒は、セラシアには慈愛に満ちた表情を向け、逆にわたしには絶対零度の視線を向けて来る。


 あー、ダメだわ。彼女の言った『きちんと伝える内容』は、差し詰めわたしが、お義姉(ねえ)さまを虐げる現場を押さえたとか、そんなところなんだろう。


「良かったわ、ね? ルチルさん」


 けれどセラシアは、女生徒を説得出来たと信じて疑っていない様子で、立ち去る女生徒の背中を穏やかな笑みを向けて見送っている。


 ミカエルと云う名は、第一王子のものだ。


 ただでさえ初日の印象最悪で、目の(かたき)にされたままのわたしだ。物語の断罪役王子が、ラファエルなのか、ミカエルなのかは分からない。けれど、今の状況ではかなりの高確率で、ミカエルから悪役ルチルを破滅に追い込むリアクションがありそうだわ。


 困ったなぁ。

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