第1話 状況の推移4ー1(倫倫、ペロ)
(視点はフリチンです)
このときまでに董卓の残存勢力であった李傕や郭汜は内輪もめのために滅んでおった。彼らが推戴しておったもう一人の皇帝(少帝)は張楊や楊奉などと共に庇護を求めて来て、(献)帝はそれを受け入れた。久しぶりの再会に兄弟共に涙したと伝え聞く。これに伴い洛陽や長安などの領域は、漢朝に戻った。
他方、各地に送った檄文についていえば、分かりやすい反応――軍を率いて馳せ参じるなどということは、ほとんどなかった。返答において、忠誠や臣従を誓うということは少なからずあったが、実際のところ、様子見であろうということはうかがえた。
そして、まさに各地に割拠する群雄たちが、何を様子見しておるかというと、我々漢朝と曹操のいずれが勝ち残るかの一点に他ならなかった。その行く末がどちらであるかを見定めることなく、旗幟を鮮明にすることが愚かであるとは、俺にも分かる。
そして、そのうちの一人、孫堅はといえば、こちらの檄文に対し、返答することはなく、その代わりという如く、盲目の少女・倫倫への贈り物を再び隊商に運ばせて来た。海が近い江東ゆえであろう。その荷は大小の真珠を両手にこぼれるほど、加えてサンゴのカンザシが数本であった。
倫倫は、俺も同席する中、皇甫嵩将軍に「これを、私と同じ境遇の子供たちを救うために使って欲しいの」と願い出た。ところは、大同にある皇将軍の私用の天幕の内であった。
皇将軍いわく、
「倫倫の申し出をとてもありがたく想う。ただ、本来、それは漢朝の仕事である。とはいえ、それでは足りておらぬことは、我もよく承知しておる。人びと、特に子供たちが飢えにさらされていることは。先の袁紹戦で父を亡くした者もおるし、その他にも、親を失った子はたくさんおる。
なので、こうしてはどうか? 半分はそなたの申し出に従い、使わせてもらおう。半分は残して置くというのはどうだ? 将来においても同じ志であれば、そのときにまた使えば良い」
「うん。任せる」
「よし。この皇甫嵩。しかと承った。隣におるフリチンが証人だ。盧植には我の方から伝えて置こう。猩猩にはフリチンから伝えて置いてくれ。清流の方には倫倫からな。彼らには、わしが猫ばばせぬようにしっかり見張ってもらわねばのう」最後は笑顔まじりにそう言う。続けて、「それから真珠の大玉付きのサンゴのカンザシは、そなたが娘盛りのときにとの想いで贈られたものだろう。下手に金に換えたら、孫堅に怒られよう。だから、これものちのために取って置くよ。
それで、この二本の小さなサンゴのカンザシだが。恐らく頭の両側に付けるのだろう。子供用と想うから、そなたに渡して置くよ。真珠は付いておらぬから目立たぬが、その方が盗まれたりすることもなかろう」
面会を終えてのち、俺は倫倫の手を引いて、彼女たちの天幕に向かう。ただ、そこに至るまでもなく、ペロが途中で待っておった。
「倫倫。終わったの?」
その呼びかけにより、ペロが近くにおるのを知った倫倫。ふところに入れておった小カンザシを一本取り出し、ペロに差し出す。
ふーん。二本あるから、一本は自分用、もう一本は大好きなペロ用ということなのだろう。倫倫らしい行いだった。
ペロも果たして、その意が伝わったか、スキップで近づいて来る。そして、その差し出されたカンザシにぺたりとばかり鼻を付けた。相変わらず鼻の利かぬ奴だ。もしかして、これは? 俺の危惧は当たることになる。どうやら、目当てのもの――美味しいものではないと分かったらしく、プイと顔をそむけると、立ち去ろうとする。相変わらずの食い意地だけは張ってますムーブであった。
さすがに倫倫がかわいそうになりペロを呼び止めて、こっちに来させる。それから、倫倫の手を導いてやり、ペロのくせっ毛の髪にカンザシを付けさせる。目が見えぬ倫倫はかなりもたついておったが、ペロは嬉しいのか、じっとしておった。
次にペロに、倫倫のストレートの髪にもう一本のカンザシを付けさせる。倫倫は笑みをこらえきれず、まさに破顔しておった。
「ペロ。似合ってるぞ。倫倫とおそろいだ」
俺がそう言うと、ペロは一丁前に照れて見せた。




