第2話 二人の少女 対 夏侯惇&郭嘉 2
(視点は白蓮です)
「さすがに苦戦しているようね。この前の倍する軍勢で攻められているのだから、致し方ないことだけど」と手毬お姉様。
「それでも、持ちこたえられましょう。突破されることはないかと」
とは黄おじいさん。お姉様と一緒に城塞群を築きあげた方だ。戦陣というものに詳しいらしい。
二人――私も含めれば三人で――眼下の八丘城塞群を見下ろしながらの軍議である。あの曹操という奴が、また、配下の夏なんとかの軍をさし向けて来たのだ。
どうして、私も加わっているかって。何せ、お姉様いわく、私はとっておきの切り札、そう、切り札ちゃんなのである。
「白蓮。行ける?」
不意のご指名に、
「切り札ちゃんはいつでも行けるよ」
心の中がそのまま言葉に出てしまう。お姉様の冷たい視線が痛い。
「頼むわ」
おお。お姉様が私に対して頼むなんて。感無量だわ。全身に喜びがみなぎる。そして、行くなら、あれをしてもらおうと想い、急いで小屋に戻る。お姉様の愛用の絵筆一式が入っておる道具箱を携え戻り、はい、願いとばかりに、お姉様の目の前に顔を突き出す。
「隈取りはまだよ。今回は幻術だけにして」
「お姉様のケチ」
ついつい心中の想いが出てしまった。するとお姉様は顔を近づけて来る。黒髪が風に乱れ飛ぶ。小麦色の顔の中から私を見つめる黒瞳がますます大きくなる。漆黒に抱かれるよう。
私の唇にぷっくりとした感触のものが触れる。
「今回はこれで我慢して」
なんか、至福の瞬間、来た。お姉様の唇の感触を懐かしむように、自らの唇を自らの指でなぞる。
「私。がんばる」
あっさり機嫌を直すちょろいんな私。
「あなたにしかできないのよ。白蓮」
「おう。待っていろ。曹操の子分ども。このちょろいん白蓮が目にもの見せてくれる」
と大声で叫ぶ。あっ。いけない。また心の中の想いがそのまま口を出てしまったわ。またお姉様が冷たい目をしているかもしれない。しかし、私はそれを確認することができない。
なぜなら、すでに私の体は空中にあった。八丘城塞群は当然のこととして、お姉様も、更には、城塞を築いた山全体をも見下ろす高みに。風はより一層強くなり、まるで私を吹き飛ばしがっているみたいだ。
おあつらえ向きに、今は真っ昼間の青空。胸の前に両手を合わせ、私にとっての初めての印を組む。目をつぶる。心の中で黄色に染まった空を見る。




