終話 袁紹戦4
あのときは分かったような返答をしておった盧植であったが。そののちは、果たして、どうなの? というものであった。
身の危険もかえりみず、一人で――一応、俺も同行しておったが、何かの役に立った訳でもないので、まあ、一人も同然である――曹操の軍勢が宿営する陣に乗り込み、猩猩様と典韋の交換を交渉する。予想通り、それは曹操側にとっても願ったり叶ったりだったようで、すぐに応ずるとの返答を得ることができた。
そうして、今日がその交換の日、やはり、一人、前に出るは盧植。そして、一応、俺も側らにおる。ただ、共に陣の中には入らず、かなり距離を取って外に留まる。
更に今回はこれまで大同の留守を預かっておった皇甫嵩将軍が漢軍を率い、また呂布の旦那が烏丸の増援を加えた遊牧騎馬軍を率いて、後方に控えてくれておる。
俺は典韋の縄をほどいてやる。典韋は礼も言わず、といって捨て台詞を吐くわけでもなく、肋骨が痛むのだろう、胸を押さえながら、大儀そうにその巨体を自陣へと進める。
その姿が小さくなる頃に、向こうから駆けて来る者が見えた。猩猩様である。すると、盧植も駆け出す。これ、あれじゃねえか。マンガで良くある奴。このままぶつかり、一方が――今回は盧植であろう――遠くの山まで飛ばされる奴。
さすがにそんなことにはならないはずであるが、まるで互いの頑丈さを試す如く、すごい音をさせて激突する。両者、それで立っておられるのだから大したもの。そのあとは、公衆の面前であるにもかかわらず、しっかり抱き合っておる。
まあ、大人同士の恋である。何かを言う気もねえ。
俺は曹操の陣営を改めて見る。
とぼとぼ歩いておった典韋がたくさんの者に迎えられておることを除けば、動きは無い。
俺たちの背後に控える味方に恐れをなしてか、あるいは、俺たちなど、いつでも潰せるとあなどってか、いずれにしろ、雌雄を決するのは今日ではないらしい。




