第1話 袁紹戦1
(視点はフリチンです)
紅葉にでも見に行きたくなる秋晴れの早朝、漢軍と袁紹軍は対峙しておった。普段ならピーチクパーチクうるさいはずの鳥たちは、人間の多さとそのかもしだす猛々しさに恐れをなしたようで、声も姿も無い。ただ、風のみが地を舐め、人の頬をなでる。
敵軍の前に長身巨躯の二人が騎馬にて並び立つ。その名乗りによれば顔良と文醜ということだった。更に言うは、一騎打ちを所望とのこと。そして、呼ばれたのは何と「フリチン」であった。
袁紹軍にまで知られているのかとの驚き、そして俺はこの字で知られて行くのかという何とも言えぬわびしさと残念さと共に――恐らく孫堅が伝えたのだろうと想い至る。
俺は進み出る。しかし、何やら、相手の反応がおかしい。お前は用無しと、しかも言葉に出すのも惜しんで、向こうへ行けと手でやられる始末、いわゆるシッシッという奴である。
もしかして、この半乳半ケツが原因か。孫堅め。しっかり、この姿を見たはずだが、やはり、珍奇姿の女に一軍をもってして敗れたと告げるのは、そのプライドが許さなかったとみえる。
「お前じゃない。フリチンを呼べ」
と顔良。こいつはが身にまとうは、鍍金した鎧兜。腕や足を覆う布の部分には金糸・銀糸が刺繍してある。随分と派手好きのようだ。そして、手には大太刀。
「俺が正真正銘のフリチンだ」
(くそっ。ペロの野郎。何で俺が自分で言わなきゃならねえんだ)
「我はとりあえず、こいつでいいや。倒せば、本物が出て来るんだろう。それで、顔良の相手は誰がするんだ?」
と文醜。こいつはこいつで、銀色の鎧兜に、やはり刺繍がきらびやかな戦袍をまとう。そして獲物は長槍。
なるほどね。共にその長いリーチを更に活かすべくの長大な武器。俺はその間合いに入ろうとする度に、死線を越える必要があると。
「まさか、一人で我ら二人を相手にする気ではあるまいな」と顔良。
猩猩様しかいない。ただ、俺が呼ぶ前に「我が行こう」との声が聞こえ、彼女が進み出てくれた。
鎧兜に加え、その開けた胸元にはタスキを巻き、両腰には双剣、更に右手にあの大斧をたずさえておった。ますます格好良くなってるじゃねえかよ。そう想いつつ、彼女のそばに寄り、
「これがタッグマッチだ」と告げる。
「そういうことか」
なんか、伝わったらしい。それから互いに離れ、猩猩様は顔良と、俺は文醜と正対する。
「そなたらは騎馬で戦わぬのか?」と顔良。
「得手ではないゆえ」と俺。
「なら、我らも降りるとしよう。馬に乗るゆえ勝ったなどと、後にそしられてはかなわぬからな」
そうして、両者は下馬した。




