第1話 戦@二人の少女1
私、白蓮はジリジリとした日差しの下、三人でそれを見下ろしておった。眼下に見慣れぬ軍勢が集っておったのだ。ここのところ、軍勢が姿を現わしても、この城塞群の堅牢さを目の当たりにすると、攻めることなく引き返すのがほとんどだったんだけど。
その牙旗にひるがえるは『夏』。
「黄殿。どこぞの軍隊か、ご存じか?」
手鞠お姉様がおじいさんに尋ねる。
「十中八九、曹操旗下の驍将たる夏侯惇、もしくは夏侯淵。そのいずれかでしょう」
「曹操? あのときのあいつか?」 私は想わず語気が荒くなる。「お姉様。いよいよ私が」
「何。それには及びますまい。まずは我らが協力して築き上げた八角陣にて迎え撃ちましょう。まさに飛んで火に入る夏の虫、その憂き目を見せてやりましょうぞ」と黄じいさん。
「そうよ。言ったでしょう。あなたはとっておきの切り札なんだから。いきり立ってはダメよ」
むむ。まだなのか。既に少しばかり浮かんでおった体を、仕方なく地に降ろした。
他方、見上げるは夏侯惇。山東から長駆、遠征をなし、途上の敵に臣従を求め、応じない場合は撃破してきた。そして、黄巾が巣くっておると聞きつけて、ここ巴郡に来たのだが。
手前に小丘がいくつも並んでおった。その背後には山そのものを城塞と化した如くが見える。黄巾がこれを造ったのか。驚くとともに、不気味な印象を受ける。直観の告げるところでは、難攻不落。しかし、心中で断じる。所詮、守るは弱兵たる黄巾。踏みにじってやろうぞ。
ただ、孟徳にきつく言われていたことを想い出す。かならず臣従を勧告せよ。戦うのはそののちだ。兵の犠牲を最小限にとどめよとの。
孟徳はいつも兵の確保に苦労しておる。なぜ、袁紹の如き人間に多くが集まり、孟徳には。そう地団太を踏みたくさえなる。ただ、その苦労を側らで見て来た己である。あえて、その言葉を破る気は無かった。




