終話 猩猩様@状況の推移
親しい者たちの中で、一番最初に大同に来てくれたのは猩猩様であった。盧植将軍とその率いる漢軍も一緒だった。将軍はオデコに小さなたんこぶを造っておった。何かにぶつけたのだろうか?
それはさておき、俺はさっそく猩猩様に鍛冶屋の話をする。武器を造ってくれそうだと言うと、彼女はとても嬉しそう。
ただ、一つ気になることがある。あいつは俺の胸を揉んだ。恐らく猩猩様の胸も揉もうとするだろう。ただでは済むまい。殴られる。下手すると、それで死んでしまうかも。さすがにそれは俺の夢見が悪いし、鍛冶屋は清流たちにとっては大切な存在。
なので俺は彼女に注意喚起する。そのときは、分かった、心配するなというようなことを言っておったのだが。
その訪問の当日、なぜか、お気に入りのタスキを外し、かつてのゆったりした布に戻しておる。あの爆乳際立つお姿に。珍奇姿三人衆が戻って来たと喜んではいられない。これは却ってやぶ蛇となったようである。揉みたいなら揉んでみろと、まさに戦闘モード突入であった。
こうなっては鍛冶屋の方を抑えるしかない。なので、到着してすぐ、呼んで来るからと猩猩様たちは外に残し、俺一人で鍛冶屋と会う。
「俺のときみたいなことはするな。命にかかわるぞ」と警告する。どうも馬耳東風の気がする。悪い予感しかしない。
そうして、戸口に出て、両者の間ににこやかに挨拶がかわされる。対面する態勢はそのままに、猩猩様は揉んでくださいとばかりに胸を突き出している。いや、これは語弊がある。彼女の場合、突き出す必要など無いのだ。
対して鍛冶屋は両腕を肘のところで曲げ、手の平を開いておる。ただ、腕は自分の胸のあたりに付けておれば、随分と変な格好であるは丸わかりも、どうやら、猩猩様の迎撃センサーには感知されていないらしい。
果たして、隙をうかがう鍛冶屋。そうしてその手が伸ばされた瞬間にクロスカウンターをぶちかまさんと待ち構える猩猩様。鍛冶屋の手がかすかに動く。そのたびに彼女の肩もピクリとする。おお。これは武術の達人同士の決闘にて稀にではあるが見られるという千日手か?
割って入って止めたいところだが、恐ろしすぎる。ゲーム・キャラの頑健さを誇る俺でさえ、彼女の拳をもろに食らっては、無事でいられる自信が無い。
そんなとき、彼女の背後に盧将軍が立つ。何をしておるのだろうと見ると、不動明王も真っ青の憤怒の表情で鍛冶屋をにらみつけておる。圧がすごいぞ。圧が。直接にらみつけられておらぬ俺でさえ、震えが来るほどだ。それに鍛冶屋が耐えきれるはずもなかった。やおら、腕を背中に回すと、
「さあ。中にお入りください。どのような武器をご所望か詳しくお聞かせ願わねば」
どうやら、危機は回避されたらしい。俺はへなへなとその場にくずおれる。
後から分かったことだが、猩猩様と盧将軍はそうした仲になったとのこと。あのたんこぶは猩猩様の甘噛みの跡ということらしい。
ちなみに一度、彼女に尋ねたことがある。くだらぬことを聞くなと叱られることを予期しつつ。
「猩猩様って、ジジ様好きなの?」
すると、何と彼女は照れた表情をしてみせる。いやいや、それって女の顔じゃない。爆乳を除けば漢としか想えなかった彼女の想像すらできぬ進化、斜め上どころか、楕円上昇軌道を描いての特異な進化というか、何にせよ、びっくりであった。




