第2話 二人の少女@状況の推移
戦陣に詳しい黄おじいさんとの研究を終えて手毬お姉様が帰って来たのは、宵の入り口。おじいさんは、お年の割に夜の方が頭が働くとのこと。お姉様にとっても、その方が都合が好いらしい。要塞群の建設は基本、日が出ている時間に行うし、他方で、陸仙姑おばあちゃんの方は夜が大の苦手。何をしていても、いつのまにか、うつらうつらしている。なので、おじいさんとの研究はもっぱら夜の帳が降りてから。
私が眠っていると想ってであろう、静かに寝床に入って来るお姉様。私は自分の体をもぞもぞと動かして、ぴたりとひっつける。最近は暖かくなって来たけど、まだ、互いの体温が心地よい季節である。それもあって、お姉様は嫌がる風も無く、私の頭を優しく撫でてくれる。
「白蓮。どうして、あなたたちはケンカばかりしているの?」
「うーん。なんか陸ばあちゃんの授業聞いていると、子守歌聞いているみたいで、日は高いのについつい寝てしまうんだよね」
なぜか、ばあちゃんは私を弟子と勘違いしているらしく、色々と教えてくる。私はあくまで回復研究チームの相棒のはずなんだけどね。
「それに、ばあちゃんの分まで食べてしまうからかな。私の方が育ち盛りなんだから、いっぱい食べてもいいでしょう。背も小っこいし。あっ。背の話は無しね。ばあちゃんも小っこいから」
「育ち盛りねえ。私たちって成長しているのかしら?」
「それは言いっこ無しよ。お姉様。あっ。ただ、ばあちゃんは私の料理だけは褒めてくれるの。でも言い方がひどいんだよ。あんたは食い意地が張っているから、上達したんだね。私が教えた中で、これだけは合格点をあげられるよって」
「他にけんかの理由はあるの?」
「ばあちゃんに回復魔法をかけてあげるの。もう、お年だから、もっと元気になれって。実際、元気になっている気がしない?」
「そうかもしれないけど、おばあさんは呪いだと想い込んでいるみたいよ。あなたもそれは知っているでしょう。おばあさんは道士だから、そっちも詳しいはずよ。一度、ちゃんと話したら?」
「うん。そうする」
口ではそう言う私。
「なんか全部あなたが悪いように想えてしまうわ」
そう言ってため息をつくお姉様。その息が私の頭に当たる。
でも、言っていない理由が一つだけある。私とばあちゃんがケンカする度に、お姉さまが割って入ってくれるからだ。その時のお姉様はステキだし色っぽいし、何より私のためにそうしてくれると想うと、胸がキュンとなってしまうのだ。
そんなケンカばかりのばあちゃんとの仲だけど、気が合うことが一つだけある。ばあちゃん、いわく、
「あんたの姉さんはすごいね。あの若さで色んなことを知っている。しかも、私が知らないことまで。おったまげたよ。丹砂の常用が体に悪いなんて、初めて知った。あれに含まれる汞(水銀)が毒なんだってね。私がそれでは検証しましょうというと、分かりきっているからしてはダメと譲らない。なんで私の方が譲ったけどね。あんたと組んでやっている実証実験も成果が上がって来ているしね。これまで使って来なかった薬が使えるようになった。丹砂無しでもやれそうだからね。逆に効果が何もなかった薬も判明しているし。これを始めてくれたあんたの姉さんのおかげさ」
そう、お姉様がすごいというのが、二人の気の合うところなのである。
(注 丹砂は今でも漢方薬として使われている。大量摂取しなければ問題ないと考えられている)




