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終話 転2

 野天での軍議は猛々しく騒然としたものとなっておった。


 先遣隊の六騎のうち、一騎は急を告げに戻って来たのだが、他の五騎は噂の確認のために奔走しており、聞き込みの結果、董卓率いる漢軍に丁原様は攻められ、敗走したと分かった。それで、生存者の探索に切り替えた。丁原様は、クラン御前べきは生きておられるのか。それこそが最大の関心事であった。そうやって、見つけ出した生存者の報告ゆえの、この軍議の状況であった。


 丁原様は討ち死にされ、クラン御前は董卓や他の将兵のものとなるのを恐れ、自害されたと。そして、多くの男たちは丁原様と同じ憂き目に遭い、多くの女たちはクラン御前同様そのはかなき生を終えたと。


 ただ、俺は一人ある想いに囚われておった。なぜ、こんなことになったのだろう? 呂布を丁原様から引き離せば良いという考えが安直であったのか? 結局、何がどうあれ丁原様は死ぬ運命であったということか? 史実通りに。


 俺の様を見てか、あるいは、軍議の結果に何か言いたいことがあってか、猩猩様が問うて来る。


「どう想う?」


「仇は討つべきであろう」


 俺のノドから出る声は、男の声に戻っており、しかも生前の中学生のときの声変わりのときの如くガラガラであった。


「作戦の方だ。どう想う?」


 この猛り狂った軍議で決まる作戦といえば、自ずとこうなる。死を覚悟しての全軍による突撃。


「策はある」本当のことだった。堂々巡りの思考の側らで、それはぽつんと頭に浮かんで来ておった。「ただ、それを今、呂布の旦那に言う訳には行かぬ。この軍議の雰囲気では、皆に反対される可能性が高い。呂布が一人のときに相談に行こう」


 それから具体的な策を説明する。彼女は納得してくれたようで、それ以上、問うて来ず、俺は堂々巡りの疑念に沈んで行くこととなった。


 俺たちを含め呂布の部隊は河内郡には入らなかった。先遣隊の五騎が戻って来たので、その必要が無くなったのと、俺たちの存在が董卓に知られるのを嫌ったゆえだ。


 そうして、深更、個人用と言って良い小さな天幕におる呂布を猩猩様とペロと共に尋ねた。大天幕を乗せた天幕ゲル車などはまだ追いついていなかった。


 天幕が小さすぎ、俺たちは外で待つ。出迎えてくれた呂布の目は泣きはらしたゆえであろう、真っ赤であったが、精神状態はだいぶ落ち着いたようであった。


「師匠。御前べきが」


 俺たちの姿を見て、呂布がそう言う。


「分かっておる。それ以上、言わなくて良い」


「我がおらぬばっかりに」


 それは俺にとっても最も心をえぐられる言葉であった。俺のつまらぬ画策のために、却って、そう言って謝りたかったが、そうして、何になる。ベキも丁原様もそして死んだ多くの者たちも戻って来ない。ゆえに、代わりにこう言う。


「呂布の旦那。策がある」


 月下の全てが青白きただ中で、呂布の赤い目がまっすぐにこちらを見据える。


「軍議で決まった策については知っている。しかし二点問題がある。一点は、今回共に来てくれた軍が匈奴の騎馬勢であること。野戦は得意であろうが、敵の居所を攻め込むとなればどうか? 多くは建物内での戦となろう。騎馬ではなくかちでの戦となろうし、弓では無く剣での闘いとなろう。もう一点、千という部隊の中途半端な多さだ。敵の居所に近付く途中で気づかれることは避けがたい。防備を固められ、更には迎撃軍を発されるかもしれぬ。それでも、こちらが万に近い数で攻めるなら、ごり押しで董卓の首まで至れるかもしれぬ。ただ、千ではそれができぬであろう。戦は膠着状態に陥り、その隙に董卓には逃げられよう。また、こちらは応援の軍勢の当てが無いのに、敵はいくらでも呼べよう。そうなれば敗北は必至である」


 呂布が何も言わぬので、あらためて、その顔を良く見る。やはり、赤い目がこちらを見ておった。

「そこで、俺がたずさえて来た案だが、突入するのは俺と猩猩様、そして呂布の旦那のみ。これなら、敵に悟られずに敵の居所に近づけるし、うまくすれば侵入もできよう。重要なのは闇夜に行うこと。月の無い夜であれば、新月の夜でも、曇天の夜でも良い。俺たちは夜目が利く。そこで、俺と猩猩様が道中の血路を開く。董卓の下まで必ず連れて行く。この方法が、最も犠牲が少ない。失敗しても死ぬのは三人だ。そして成功の確率は高い。俺はそう考える。軍議で決まった策と俺の策。どちらが良いか、呂布の旦那が決めてくれ」


「共に仇を討ってくれるのか? 師匠が言った如く、死ぬかもしれぬのだぞ」


「ああ。御前は俺たちにとって、母親も同然。母の仇を討たずに生きてどうする」


「猩猩は良いのか?」


「恩顧を忘れるようでは武人の名折なおれ」


 ペロが俺と呂布の間に割り込み、にらみあげて来る。


 俺はそのくせっ毛の頭に手をのせる。


「ペロの気持ちは分かるよ。だが」とまで言いかけ、九原にて花冠をペロに造ってやったときのやりとりが想い出される。「そうだな。御前べきなら娘にしてくれただろう。その幸福を奪われたのは御前べきでありペロだものな」


 俺はそこで言葉が詰まる。しばしのときを置き、何とか続けるを得た。


「ペロも共に行く。後は旦那が決めてくれれば良い」


 俺のかすれ声が夜陰に消え行く。俺たちは呂布を残し、自らの天幕に戻った。


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