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第2話 九原にて2

 ある程度、親戚や仲間が集まった時点で呂布は帰りたがったが。俺は暑い夏はここで過ごして馬を太らせた方が良いと、柄にもなく進言して、時間稼ぎを図った。呂布は、そんなこと、言われなくても分かっているとの不満顔であったが、俺の意見を容れてくれた。


 ところで、俺もいつも乗馬の練習をしている訳でもなければ、物想いにふけることも当然あった。匈奴は和戦いずれであれ、漢と関係が深く、なので遊牧勢の中では伝えられていることも多い。対して、月氏の存在は謎めいていて、それゆえにこそ、心惹かれるものがあった。


 月氏は冒頓ぼくとつ単于のときの匈奴に敗れ、西方に逃げるのだが。バクトリア(アフガニスタン北部。トハリスタンとも呼ばれる)に攻め入り、ここに国を建てる。このバクトリアが何かというと、アレキサンダーのグレコ・バクトリアなのである。厳密には、後継国家――セレコウス朝を経てのバクトリア王国なのだが。まさに歴史ロマンの二段重ねであろう。加えて、月氏の後継国家といえば、仏教の隆盛で有名なクシャン朝とくれば、ロマンの三段重ねと言っても過言ではあるまい。俺はその歴史ロマンに浸りつつ、九原のときを過ごしておった。


 側らにはやはりペロ。ペロの人なつっこさはいいところでもあるが、危なくもあるというので――呂布の故郷であれ、悪い人間がおらぬとも限らぬということで、俺が守り役代わりであった。


 俺はいろんな歴史の話をペロにしてやる。虫や鳥獣などの動くものに意識は向きがちであり、聞いているのか聞いていないのか、よく分からぬペロだが、楽しそうにはしている。


 夏に入ってからは、大体その側らには馬乳酒入りの革袋を置いており、それに口をつけては、顔をすっぱそうにしかめる。


 今日のところは、いつもと異なり、花を手に持ち、それを馬乳酒にひたしている。その花は俺が草原を彩る夏草の花で造ってやった花冠の一枝であった。そのとき、


「ペロ。これをつけると、草原の王女様みたいだぞ。クラン御前に見せてやったら、お前のことを気に入って、本当の子供にしてくれるかもな」


 そう言ってやると、テヘヘと笑みをこぼし、ずいぶん嬉しそうな顔をした。もしかして、こいつもお母さんを懐かしむことがあるのか、と想い至り、やはりしんみりしたのだが。


 ただ、そんなついさっきのことも忘れましたという如くの今、何をやっておるんだと想って見ていると、花をぱくっとする。またまた酸っぱい顔だろうと想っていると、「甘酸っぱい」と一言。そうして、花冠からもう一本抜き取り、直接、口へ。そして満足そうに顔をにへらにへらする。


 花の蜜か。合点が行き、俺も久しく甘いものにありつけていないと想い至り、花冠から一本抜こうとすると、手を払われた。そうして距離を取られる。まったく、こいつ、どんだけマイペースなんだよと想って見ていると、花冠を持って、かぶり直したりしている。


 果たして俺に壊されるとでも想ったのか、いずれにしろ、ずいぶん、気に入ってはくれたようだ。俺が造ったんだけどな、とは当然想うが。まあ、いいかと想いなすことにした。


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