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第2話 血の四間日2

 これより少し前。といって、ときは一刻もさかのぼらぬ。


 宮城の南大門の前にて丁原は戸惑っておった。大将軍(何進)の仇討ちをと想い、馬を馳せて至ったものの、大門は固く閉ざされ、門番は皇太后の命令ゆえと言う。


 そうとなれば、従わざるを得ぬ。そもそも田舎者にして武辺の者たる我。宮廷政治にもその事情にも通じておらぬ。中の状況を知りたく想うが、宮中につき合いのある知り合いもおらぬ。外につきあいの範囲を広げても、諸将とは顔見知り程度。頼りは大将軍のみであった。


 門にて対応をなしたは見慣れた者ではなく、また髭も無ければ、宦官かとは想う。ただ、それだけをもって大門を破る理由とはなしえぬ。城内からまさに逃げて来たと言われた孟徳殿が共に来てくれておったら、とは想うが。


 加えて言うなら、大門を破れるほどの人数も装備もなかった。大将軍から明確な用向きも聞いておらねば、以前、なしてくれたごとくのこと――宮城内を案内してくれるのだろうと、勝手に期待しておった。大将軍ゆえに、更にいえば皇太后の兄ゆえに赴けるところというのも、当然、あるのだ。それもあって、皆も見たかろうと想い、配下の者を十人ばかり連れて来たに過ぎぬ。


 とりあえず、佩剣はいけんはしておるものの、弓矢もなければ、槍や矛などの長道具も携えておらぬ。軽装の革鎧さえまとっておらぬ。


 鉄製の大門はいかにも固そうであり、城壁は高くそびえる。人力で何とかなるものではないだろう。


 しばし待っていると、大門前に将兵が集い始める。我らと違って、鎧兜に様々な武器を携えての完全武装である。挨拶に行くべきか迷うも、異様に殺気立っており、しばし様子を見る。


 やがて一人の人物が近付いて来る。袁紹であった。大将軍から志を同じくする者とは聞いておった。そして、それをともに果たすために、司隷校尉に就いてもらっているとも。


(注 首都洛陽・旧都長安を含めた地は後漢朝の中心である。領域の広さは州相当であるが、あえて州とはせず、司隷校尉の管轄とした。今の日本になぞらえて言えば、東京都知事みたいなもの。国の武官トップに何進がおり、首都(を含めた広域)の地方統治のトップに袁紹がおるという構図)


「建陽(丁原の字)殿。そなたも大将軍が殺されたと聞いて、急ぎ参ったのですか?」


「いえ。我はそもそも別件で呼ばれていまして。ただ、途中で孟徳殿(曹操の字)より殺害の件は聞きました」


「孟徳殿が。では彼もこちらに?」


「いえ。逃げると言っておりました」


 それを聞き、袁紹は少し考えるようであったが、やがて再び口を開く。


「建陽殿。大門の防衛をお願いできますか? 我らはこれから大門を突破し、姦悪をなした者ども誅殺します。敵は宦官とはいえ、よもやのときは退路が必要となりましょうゆえ。我の一隊も残して行きますので」


「それは無論、構いませんが。ただ、大門は固く閉ざされており、皇太后のご命令ゆえとのことです」


「なに。宦官どもがいつわってそう申しておるだけですよ。それより、その武装では心もとないですね。我の兵の帯びておるものを貸しましょう」


「いや、それでは余りに悪い。我らに他人のいさおしを奪う気はありませぬ」


「そうではありませぬ。こたびのこと、丁原殿も我らの側に加わっておると知れば、皆も喜び、何より勇を得ます。それに大将軍の御霊への手向けにもなりましょうぞ」


 そう言われたならば、固辞できるはずもない。


「それではお頼み申す」

 そう言い残し、袁紹は立ち去る。


 代わりに袁紹の隊の者たちが来てくれ、体型が近い者から、己と配下は武器防具一式を借り受ける。


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