第1話 血の四日間1(グロ注意)
(グロが苦手な方はスルー推奨です)
ゴンゴンゴン。
鈍い音が響く。新帝となった息子の弁が何かを手でついている。真っ赤な何かだ。軽くはなさそう。床に当たって跳ね返るが、あまり弾んでいない。
それに、赤いものがそこらじゅうに散らばっている。もしかして、血? 息子の血なの? 怪我しているの? 急ぎ駆け寄ろうとするが、その様が見えて来るにしたがい、想わず足が止まる。
鞠ではないようだった。そもそも形がまん丸ではない。それに管なのか繊維なのか定かならぬものが一尺ほど垂れ、それが跳ね返る度に暴れておる。そうして、その逆側。赤く染まっているから、最初、分からなかったけれど。短い毛が。もしかして髪の毛?
ゴンゴンゴン。
嫌な音だ。跳ねる度に上下左右が変わる。目をそらすべきと分かる。ただ、強烈な欲求に駆られ、首を限界までねじ曲げて、なお、見ていた。
何の拍子か、顔がこちらを向く。そしてなぜだろうか? 目が見開かれており、私を見ていた。
「兄さん?」
何皇太后は想わずそう口に出し、そして目覚めた。何と後味の悪い夢だろう。うとうととしていて、つい、昼下がりのまどろみへと誘われたらしい。
兄さんは最近物騒な話しか持って来ない。宦官を殺すとの。どうして、そんなことを言うようになってしまったのだろう? あの方たちにはお世話になったのに。誰のおかげで私が後宮に入り、皇后にまでなれたと想うの。兄さんと違って、母さんは良く分かっている。なので、いつも、宦官の方たちへの感謝を忘れるなと注意してくれる。だって、もう亡くなった父さん――家畜の屠殺業者であった父さんが車騎将軍と追尊され、母さんも舞陽君になれたのだもの。それはそうよね。
それに私も兄さんからの頼みをすべて断っていない。そんな分からず屋ではない。蹇碩を獄に下したいというので、それは認めたわ。そもそも、あの者は王美人の子を皇帝に推していたから。大事なのは、誰が味方で誰が敵か見定めること。
宦官の方から教えてもらったところ、兄さんは、袁紹なる悪者に騙されておるとのこと。そいつは、朝廷でも指折りの名家であり、代々、三公の地位についておると。下賎な身から成り上がったゆえに、そうした人に憧れがあるのは、私自身、良く分かる。でも、ダメよ、兄さん。そこから引き上げてくれたのが誰なのか忘れては。かわいそうな兄さん。私が救い出してあげる。
弁は何をしているのかしら。ちょっと顔を見て来ようかしら。もう職務は終わっているだろうし、勉強している最中かな。新帝になったあとは、忙しそうなんだけど。
でも、何かしら? ずいぶんと騒がしい。
(注 何皇太后の兄は大将軍の何進である。何皇太后は霊帝の皇后(正妻)である。霊帝が死に新帝が即位したので、皇太后と尊称される)




