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第2話 漢(おとこ)・盧植2

 ときは中平元(184)年。


「あのウンコ野郎は何をチンタラやっておるんだ」


 と帝(霊帝)がぶちまければ――本筋の方では既に死んでいるけど、これは生きているときの話――


「ウンコ・・・・・・野郎ですか?」


 そう尋ね返すは、小黄門(宦官)の左豊さほう。何かを言いつけられるために呼ばれたとは分かるが、その何かは未だ不明。ただ、帝の怒りが己に向くことのみを恐れる。


「済世の志を抱くゆえに、『人の望なり』とまで言われておるようだが、あんな者はウンコで十分だ。ウンコ・ウンコ・ウンコ盧植」


 ああ。盧植様のことであったかと、左豊は納得しつつ、歎じる。あくまで心中で、であるが。また帝のご病気が始まったか。何にしろ、帝は一度恨みを抱えられたら忘られぬ。


 帝が恨み骨髄に達したは、時をさかのぼり、光和元(178)年のこと。二月朔、日食があった(注:朔とは新月のこと。太陰暦では一日ついたちとなる)。それを理由に、盧植様は帝に諫言された。私、左豊はそれに同席した訳ではなかったが、後になってそのときの恨み辛みを何度も聞かされた。そのおおよそは、


『あやつは何やかやと朕を非難しおった。わざわざ、古典を引いて。やれ、怠けておる。やれ、女色にひたるな。やれ、宦官を重用するな。何様であろうか。加えて、八項目も求めてきおったわ。八つもぞ。その中で、廃后にした宋皇后のことまで踏み込んで来おったわ』


 と、ほぼほぼ、ののしりの言葉であった。


「そこでだ。左豊。見て参れ」


 何を? 物想いにひたっておったこともあり、危うく聞き返すところであった。急ぎ我に返る。下手な聞き返しをしては、帝の逆鱗に触れかねぬ。ただ、確認は必要である。


「盧植様をということでしょうか?」


「当たり前だ。あのウンコ野郎は、今、黄巾賊の総帥たる張角を攻めておる。朕の最強の北軍五校を授けたにもかかわらず、未だ攻め落とせぬ。待てど暮らせど、勝報が至らぬのだ」


 どこへとは聞かなかった。それは他の者に聞けば分かる。とにかく、早くこの謁見を終わりにして、ここを立ち去りたかった。


 そして少し安心した。どうやらたいした任務ではないらしい。見て来いというのだから、簡単なものだ。本心をいえば、そんな任務はより下位の宦官にでもやらせれば良いものをとは想うものの、そんなことを口にできようはずもない。


「かしこまりました」と述べたあと、辞去の挨拶をし、早々に部屋を出る。その際、ふと帝の側らに良く知る同僚の顔を見る。蹇碩ケンセキであった(幽霊じゃないよ。こいつもまだ死んでいない)。同じ小黄門の身であったが、常に帝のお側近くにはべるを許されておるこの者と、たまたま用があるときだけ呼ばれ、しかもその用向きといえば、今回の如くの遠路である。この寵の差は何なのかと嘆息したくもなるが、帝に聞かれる訳にも行かねば、それをこらえ、室外に出てしばらく歩き、ようやく吐き出した。



 次話に続きます。


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