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終話 曹操8

(視点は曹操です)


 ほどなくしてのこと――時は中平六(189)年八月――蹇碩の叔父より招かれた。お礼がしたいので、宮殿に来てくれと。正直、何で宮殿にとは想ったが、断る理由もない。それに断れば、蹇碩の死を汚すような気もしたので、赴くことにした。


 蹇碩の叔父が待っておった。己が来たことへの感謝の言葉が羅列されたが、正直、そこまでのこととは想えず、ゆえにうるさくさえ感じられた。案内され、至ったのは謁見の間。玉座の方を見ると、新帝がおられた。心の準備はまったくできておらなかったが、まずはぬかずかねばと、そちらへ向かう。近くに寄ると、新帝の顔が青ざめ、ぶるぶる震えているのが分かる。果たして、風でも引かれたか? その背後には、ずらり中常侍たちが並んでおった。 


 玉座につながるきざはしの前に至ると、正座をして頭を床につけた。『表を上げよ』との言葉を待つが、いつまで経っても聞こえて来ない。代わりに階を降りる足音が聞こえた。前帝の寵の示され方が想い出される。新帝もまたそうされるのか。その手の暖かみを待つ。代わりに訪れたのは、ドサッの音。そちらを見て想わずヒッとの悲鳴をあげておった。そうして、愚かしくも呼びかけていた。「大将軍(何進)」と。まるで、相手が生きているかの如くに。そこにあったは生首であった。どういうことだ。見上げると、中常侍たる張譲ちょうじょうがおった。どうやら、この者が首をたずさえ来たらしい。


 理解する間もあればこそ、蹇碩の叔父がやって来て、告げる。


「逆賊何進の仇を討った大功は孟徳様のものです。どうか、その首を帝に献上してください。きっと帝から素晴らしきたまものがくだされましょう」


 何だ。こいつら。己を何進殺しの主犯にするつもりか。本気でこれをお礼と想うておるのか。相手は何皇后[実際は皇太后]の兄にして大将軍。どうあっても、己は殺されよう。


 急ぎ立ち上がり、帝へ辞去の挨拶を述べる間も惜しんで、ここを出るべく歩き出した。己が今ここに来たという事実を無きものとしたかった。ただ、周りには目、目、目。宦官のみではない。他の官もおる。どうすれば、この者たちに己が黒幕と想われぬか、その想いでいっぱいのなか、蹇碩の叔父は俺を引きと止めんとして、追いすがり、衣をつかむ。


「これは礼にならぬぞ。この孟徳を殺す気か」


 そう言い様、謁見の間の護衛に立つ宦官から剣を奪うや、蹇碩の叔父を斬った。己の言葉のゆえか、そのなしたことのゆえか、蹇碩の叔父はとても驚いた顔をして床にくずおれる。その返り血を体の前面に浴びて、走り出す。


 途中で剣を握ったままであることに気付き急ぎ捨てる。謁見の間で許しも得ずに武官が剣をたずさえることは禁じられておった。もっとも、謁見の間で武器をふるうという大罪を犯しておる己にどれだけ意味がある行為かは分からぬが。ただただ、己は混乱のただ中にあった。


 門のところで、預けておった馬と剣を返してもらう。門番は、己の姿を見て驚くが、やっかいごとには巻き込まれたくないと想ったのか、あるいは、応じなければ殺されると想ったのか、いずれにしろ、すんなり渡してくれた。


 追手が来ぬかと恐れ、しばらく馬にムチをくれたが、これ以上は足を痛めかねないと想い、緩めた。そうして、とある一行に行き会う。顔は知っておったが、こちらから声をかける気はなかった。しかし、向こうから声をかけて来た。


「孟徳殿ではござらぬか?」


「そうです。確か、丁殿でしたか?」


 字は想い出せなかった。


「ええ。建陽(丁原の字)とお呼びください。どうしたのです? 何かあったのですか? もしや宮殿から?」


 どう答えるべきか迷っておると、


「我もこれから宮殿に向かうのです。大将軍(何進)に呼ばれて」


「その大将軍は殺されました。我は最前その首謀者の一人を斬って来ました。赴いてはなりませぬ。共に逃げましょう」


 ただ、いらえは期待したものとは異なった。


「それを聞いては、逃げる訳にも引き返す訳にも行きませぬ。大将軍にはひとかたならぬ恩顧のある身。ならば、仇を討たねば」


 そう言い残すと、一行は宮殿へと馬速を上げた。


 (宮殿は更に血で汚れることになるのか)


 はっきりと己がいるべきところではないと自覚した曹操は逃避行の続きに入った。




 後書き ここまでお読みいただき、ありがとうございます。次話投稿まで2週間ほど、お時間をいただきたく想います。

 後漢書の方をもう少し調べたく想いますので。渡邉先生の早稲田文庫版の方は入手し、参考にさせていただいているのですが。ただ、出版済みのものは、列伝が後漢末期にまで至っていない。

 汲古書院版は高いのでちょっとと想っていると、どうも図書館にあるらしい。なので、借りて来ようという訳です。

 本作は徐々に史実から外れて行く歴史ファンタジーということもあり、そもそもはそんなに史料の沼にはまる気はなかったのですが。いろいろ調べているうちに楽しくなって来て、という訳です。何せ泥縄式で調べるの大好きですから。

 それと、本作の曹操の部分だけ抜き出して、転生無し版(いわゆる普通の歴史小説)にしても面白いかな、などと想っております。短編か中編ぐらいかな、という感じです。そこでの曹操がどれだけ魅力的か――あんまり魅力的でない気もする――にもよりますが。曹操中心に描くか、群像劇にするか、などを頭の隅に置きつつ、どっぷり史料の沼へダイブ!という訳です。


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