第2話 王美人2
扉を抜け中庭に入っても、ボロ屋の印象は相変わらずであったが、出迎えた主はすらりとした長身のまだ若い女性であった。後宮ということで、さぞや色っぽい女性かとも想像していたのだが。さっぱりした感じで、クラン御前と気が合うのは良く分かる。そして俺たちは御前から外套をぬぐようにうながされる。
えっ? 脱ぐの? 門番とのやりとりは、入るためだけの、とりあえずの口実ではなかったということらしい。
俺たちはまさに珍客にふさわしい姿を披露した。王美人は俺のビキニ・アーマー姿に一興し、ペロの着ぐるみ姿に一興。ただ何より驚き興奮しておったのは、猩猩殿の二つのスイカに対してであった。
「これ、本物なの?」などと言いつつ、つついたりゆすったりしている。そうされている方はといえば、満更でもない様子。まさに、猿もおだてりゃ木に登る、という奴である。
やがて、お二人――王美人とベキ――は敷物の上に座る。王美人が俺たちに向かって言うには、
「御前がくれたフェルトなの。ふかふかなのよ」
俺はといえば、かなり古びているとはいえ、洛陽の後宮の建物ということもあり、興味をそそられ、見て回る。とはいえ、そんなに広い訳でもなく、ほどなくして見終わり、皆の方を見る。
猩猩殿はといえば、上機嫌のままに、お二人から少し離れたところにどっかとあぐらをかく。
それで、ペロはといえば、中庭を流れる小川に入り何かを探している。その後ろで、子供――小学生低学年くらいであろうか――が少し離れたところから興味津々で見ておった。
ペロは、やがて目当てのものを見つけたらしく、取り上げると、自らの首に巻き付けておったもの――何か動いている気がするが、気のせいか――を、その手に持っているものに結わえ付けているようであり、何をしておるんだと想っておると、
「はい。あげる。玄武ちゃんだよ」
と言いつつ、少年の方に差し出す。
少年は腰をぬかした如くに後ろに倒れて尻餅をつき、泣き出す。
あいつ、もしかして、そう想いつつ急ぎ駆けつけると、十センチほどの亀に蛇が巻き付けてある。ペロには、俺の本名である白虎のいわれを聞かれた際、玄武を含めた他の四神を説明したことがあった。
その実行力というか、テイムぶりというかに感心する。亀は分かるが蛇はないだろうと想いつつ、子供のことが気になり、助け起こすために更に近付こうとするが、その前にペロが両手で少年の頬に触れる。ピタリ泣き止んだ。お前、もしかして、その少年にテイムの術をかけたのか? その通りという如くに、加えてどんなもんだいという如くに、ペロがぺろりと舌を出す。
そのあと、少年はペロになついた小動物同然となり、そうなれば、二人の様はまさに二匹の小動物がじゃれ合う如くとなる。ただ、明らかにぶつかってふっとんでいるのは少年の方である。
お前、手加減無しだったんだな。俺相手にもじゃれついて来ていたが、俺は武闘家の体だったのでびくともしなかったが。子供相手ではこうなってしまうのか。
ただ、子供の方はそれでも嬉しいらしく、はしゃいでいる。恐るべし、テイマー。
でも転んだりして土まみれになっており、母親の王美人は怒っておらぬかと、そちらをうかがうと、大きく口を開けガハハとその様を見て笑っておる。
でも、王美人といえば――記憶を探る――この人って献帝の母ではなかったか? とすると、あの子供が将来の献帝。ということは、ペロ。お前。皇后になるつもりか?
(注 後漢書によれば、献帝は即位のとき、数えで九才(満でいえば7~8才)。ゆえに、このときはそれより幼い)




