第4話 二人の少女4
拠点選びについては、皆はここを強く望んだ。黄天様降臨の地が良いと。ただ、お姉様はかたくなだった。この地に関する情報収集のために色んな人と話していたみたいだけど。
この地は潁川というところらしい。
お姉様は訴えた。余りに都である洛陽に近く、いつ大討伐軍が来るか分からぬとのこと。できるだけ都を離れ、味方と合流し、守備を固め、そして黄天様のご加護があるならば、あなた方の命を守れるであろうと。
最後には皆も納得してくれた。
私はといえば、黄天様のご加護についてね、ふーん、それは当てにしないで、と内心で想っていたけど。
更にいえば、お姉様としては、いくつもの城や砦よりなる城塞群を望んでおられるようだけど。
私たちは南へ移動することになった。その前日の夜。
「ちょっと、皆の注意を引いていて欲しいの。人集めは、私がするから」
「何をたくらんでいるの?」
「たいしたことじゃないわ」
「教えてくれれば、やる。でも、大体、分かるわ。あいつでしょ」
私はあえて皆まで言わない。それで伝わるはずだし、お姉様の考えることも、大体、想像がつく。でも、隠しごとはいやなのだ。その口から直接、聞きたい。
あいつを逃がすということであった。
「恩を売るのね」
「それもあるわ。ただ、第一に連行しては、あれの配下が取り返すために追って来かねない」
夕刻となって、手はず通り、お姉様が人びとを集め、私が注意を引くために、幻術を披露する。
私はいくつもの光球を出現させる。背景が夕刻から夜のとばりへと変化して行ったこともあり、皆が飽きることはなかったようだ。
その間にも、皆が三々五々挨拶に来て、その対応をする方が、私にとっては大変だった。いつもはお姉様がしてくれるので、どうやれば良いか、まさに手探りで言葉をかわした。黄天様がどんなことを話すべきか、少しは勉強しなければと、反省せざるを得なかった。
赤ん坊を差し出し、あるいは子供を連れて来て、頭や体を撫でて欲しいと言って来る人もいた。
ただ、こればかりは直観で分かった。「すこやかに育つんだよ」とか「元気にね」とか言いつつ撫でてやる。フフ。可愛い。
やがてお姉様が戻って来ると、私は幻術を終わらせたが、皆は名残惜しげに空を眺めておった。
皆から離れ二人きりになったあと、
「逃がしたの? あの曹操とかいう奴」
「うまく行ったわ。白蓮のおかげよ」
「私たちが困ったとき、助けに来てくれそう?」
そう言いつつ、お姉様の体に自らの体を密着させる。いつもしていることだけど、お姉様が嫌がらなければいいけどとの不安が去ることはなかった。お姉様の柔らかさと暖かさが伝わって来る。私の方のそれもお姉様に伝わっているはず。お姉様は私を押しのけなかった。
私はこのときのお姉様の表情が好きだ。私の方が背が低いので見上げることになるのだが、すずやかな眼は閉じられ、安らいだ表情を見せてくれる。
お姉様は悪役令嬢としていやしがたき過去を抱えておるとのこと。ただ、それをいくら聞いても、教えてくれない。話したら、楽になるかもしれないのに、と想うが。なので、こうやって癒すことができれば、というのが、私のせめてもの願い。
「因果を開いたかもしれぬ」
その表情とは裏腹の堅苦しい言葉が出て、私は想わず尋ねていた。
「どういうこと?」
「殺しに来るかもしれぬ」
「逃がしてあげたのに? そんな危ない奴なの?」
「あの者自身は疑り深い者というに過ぎぬ。しかし、そんな者がなぜあれほどの天命を委ねられておるのか。しかも、それこそが私の死に直結しておる。それがなぜか見えた」
そこでお姉様は黙り込む。
「大丈夫だよ。私がいる。あいつがそんなことをしに来たら、私が殺してやる」
「そうだな。それこそが応報だ」
お姉様は、私を更に強く引きつけられたので、痛みを感じるほどであったが、お姉様の体が震えていたので、私はじっと耐えた。
(注 正史『三国志』より、光和の末(184)、曹操が騎都尉に任命され、潁川の黄巾賊を討伐したことが分かる)




