第3話 状況の推移5―6
俺と白蓮は翌日も試してみようとの話になり、一緒に手鞠の下に赴いた。手鞠はまず白蓮の隈取を絵筆で描く。次は今回もちゃっかりついて来ておったペロ。ただ、手鞠いわく、
「あなたは遊んでいたそうじゃない。白蓮から聞いているわよ。戦うために色々試すなら、隈取してあげるわ」
「遊んでたんじゃないやい」
ペロはそう叫ぶと、すねて出て行く。なんか、まさに若いお母さんと子供だなと想える光景であった。手鞠が言っていることは百パーセント正しいのだが、ただ、ペロの言っていることも分かる。あいつはテイマーだからな。むしろ、動物と遊ぶのが本業とさえいえる。
ペロの分が無くなったので、次は朱の隈取の段となる。やはり、手鞠は人差し指の腹を小刀で切り、そこから流れ出る血で白蓮、次に俺に隈取する。
「悪いな。連日。痛いだろう」と俺。
「全然、皆が命を失くすことに比べれば」
「白蓮から聞いたけど、あなたの兎歩が強化されたんですってね」
「兎歩?」
「遠くの坑道に兎歩で行けると聞いたわ」
ああ。テレポのことか、と分かる。
「そうみたいだ。今日、その確認も含め、いろいろやってみたくてね」
「期待しているわよ。白蓮の負担を少しでも軽くしたいのよ」
「頑張るよ」
それは俺の偽らざる本心であったのだが、手鞠は気になることを言う。
「あなたと白蓮は仲良しだものね。私とは色々あったけど」
ただ、俺自身、その記憶もなければ、深堀しようもない。といって、尋ねるのも違うだろうと想いなす。
そうして横穴に入る。その入口のところでペロが待っており、共に入る。そして、やはりすぐにいなくなった。
ただ、前回のようなことは起こらぬ。あの3Dマップの如き横穴の全体像が見えぬのだ。
「見えないね。蝶蝶もなの」
俺のとまどい振りを見てだろう、白蓮がそう言う。
「なぜだろう? あのときは、たまたまだったのかな?」
「おチビちゃんに隈取しなかったから?」と白蓮。
「どうだろう?」
あのときのペロの様子が想い出される。俺の出現にビックリしておった。それは分かるのだが、動物たちが逃げて行っておったことを考えると、それまではじゃれ合っておったのだろう。俺たちと同じように3Dマップがいきなり見えたら、あのペロのこと、とても驚き、動物とは遊んでおらぬはずである。
「それか、倫倫だな。倫倫も確かに見えていたと言っておった。それも俺たちより詳しいものが。まず、倫倫に隈取してもらおう。ペロに隈取してもらうのは、それがうまく行かなかったときにしよう」
ケンカというほどではないが、互いが譲らぬ恰好に終わった手鞠とペロである。手鞠に隈取を頼むのは少し気が引けたし、ペロに謝らせるのも気がすすまない。
手鞠に事情を話し、倫倫にも隈取をしてもらう。絵具で描いたあと、やはり血で描く。ふさぎきれておらなかった傷口は、小刀を用いずとも、少し揉むだけで、すぐに血が流れ出した。
横穴に向かうからと告げて、おんぶしようとすると、「また入るの?」と倫倫。隈取は嬉しいが、横穴に入るのは、それほど楽しいものでもなかったらしい。倫倫にとっては、訳が分からぬものがいきなり見えた、というのもあるのだろう。そもそも、盲目の倫倫にとっては、見えるという経験の衝撃がとても大きかったのかもしれぬ。
俺は自分ができたことに浮かれて、倫倫の心中にまでは想い至れてなかった。そこでようやく倫倫にいろいろ試すことの重要性を説明し、それから、向かう。
横穴に至る。入り口近くに戻って来ておったペロが倫倫に隈取をしてもらったのを見て、手鞠のおる小屋に駆けて行く。
「ペロ」と声をかけたが、止まる気配はない。なにか、怒られるだけの気もするが、まあ、手鞠とペロの付き合いも長いのだから、俺がとやかく言うことでもなかろうと想いなし、横穴に入ることにする。
そうすると、今度は見えた。あの3Dマップの如くが。
「倫ちゃんがいなくてはダメなのね」と白蓮。
「そうだな。恐らく、これを見えるのが、倫倫の能力で、俺たちはそれを共有させてもらっているんだ。おまけに、俺はそれを用いて、遠くへテレポまでできるという訳か」
俺たちのやり取りから、何となく自分が大事な役割を担っていることに気付いたようで、倫倫の顔がパッと華やぐ。隈取の花々が香り出すのではないかと想えるほどに、生気により豪奢に彩られておった。
そうして、遅ればせながら至ったペロ。その顔には隈取をしてもらっておった。どうやら、改心したらしい。そう想うも、胸に動物の子供を抱いておる。
「タヌキ?」
「アナグマ」
やはりペロはペロであった。
そんなペロにも活躍の場面が無かった訳ではない。その伝書鳥を用いて、手鞠の手紙を猩猩様に送っておった。俺もそれに一筆加えておった。盧将軍と相談してみてと。
手鞠の提案はこうであった。
『曹操軍が本城塞を攻めてきたら、漢軍はその後背を撃って欲しい。さすれば、曹操軍による本城塞への攻めは弱まろう。そして、うまく行けば、前方から黄巾軍、後方から漢軍による挟撃の状況に持ち込めよう』




