第2話 状況の推移5―5
俺たちは横穴の一番奥に至る。少し急な階段――土では崩れるのだろう、木で作られておった――を降りて、別の横穴に出る。そこから更に下に伸びている階段もあった。
「他のところもこんな感じでつながってるの」とは白蓮。
俺たちは、より明るい方、陽の光が入っているゆえであろう、入口側に向かう。
進み続ける中、急に倫倫が震えだした。
「どうしたの? 具合、悪いの?」
俺は尋ねる。
「何だろう? これ」
そうつぶやく。
俺は彼女を背中から降ろした。顔色をうかがうが、隈取をしているので、よく分からない。
ついには座り込む。清流が心配して、そのかたわらでしゃがみ込むのが見えた。と、同時に何かが重なって見えた。蟻の巣の如くが俯瞰して見える。そして、その中に光点があった。近くに三つ、少し離れて一つ。
「何だ。これ」
想わず、先に倫倫がつぶやいたのとほぼ同じ言葉が、俺の口からも漏れた。
続いて、白蓮の魔法の明かりが消えた。見ると、白蓮の赤い眼が闇の中で焦点を失っておる。
ふと、想い至る。同じものが見えているのだろうか?
「みんなも見えているのか? 蟻の巣の如くが」
「蟻の巣って何?」白蓮が問い返して来る。
「地下迷宮と言えば、分かるかな?」
「というか、これって、もしかしたら、ここじゃない。私たちが入っているここ」と白蓮。
「確かに、言われてみれば」と俺。
「中に私たちがいる」そう言ったのは倫倫。
「ああ。この光の点は俺たちか」
「光の点? そう見えなくもないけど、私にはもっと複雑に見える。そして、フリチン姉ちゃんと白蓮姉ちゃん、それに、私。それぞれが違う。そして、遠くにいるのはペロちゃん。
「跳んでみろ」
俺の耳元でいきなり声がした。一度聞こえた、あの湿り気を帯びた女の声だ。俺は周囲を見回す。声の主らしき者は見当たらぬ。
「誰か俺に『跳んでみろ』って言った?」
その声は白蓮や倫倫のものより明らかに低かったが、俺は念のために聞いてみる。
「おチビちゃんのところに跳んでみろ」
再び声がした。この中でペロのことをおチビちゃんと呼ぶのは白蓮だけ。ただ、俺と向き合っておる白蓮の口は開いていない。
「誰だ?」俺は声の主に向け、問うてみる。
「いいから、跳んでみろ。技を磨くために、ここに入ったのだろう」
「技って?」
そう問う俺の中で、ようやく『跳ぶ』というのと『テレポ』がつながった。
「俺。テレポを試してみるよ」
試すって、こういうことか。一人合点しつつ、俺は少し離れた光点を導きとして、そこに意識を集中する。見えているのは絵というより、ゲームでいうところの3Dマップに近い。黒い背景の中に、横穴に相当する部分の輪郭が薄い燐光を発して浮き上がっておる。その中に明るい光点がひとつ。その周りに影の如くのほの暗い点がいくつか見える。俺は、そのかたわら――念のために、すこしばかり距離を取って――に立つ自分の姿をイメージした。
次の瞬間には、かたわらにびっくり仰天したペロがおった。腰をぬかしたごとく、地べたに座り込んでおる。そうして、急いで逃げ去る小動物の後ろ姿が横穴の奥に消える。何かの影の如くに見えたのが、あれらなのだろう。
「悪いな。ペロ。驚かしてしまったようだ」
ペロは返事さえできないようだった。
そうして、俺は早速もう一度試したくなる。今度は、別の横穴。光点も影点もない。そこに立つ俺をイメージする。すると、次の瞬間、周囲が変わる。十中八九、イメージしたところにテレポしたのだ。
「おお。これはテレポの上位スキルか。これを用いれば、別の横穴に移動できる。ならば、敵から逃げるのも、敵を襲撃するのも、より一層たやすい」




