終話 戦5
すると、白蓮が降りて来て、城塞の上の砦を指さして、「あすこの敵を何とかできない?」と言って来る。「私が中に入れないのよね」
「分かった。やってみる」
俺はそこにまっしぐらに向かう。あちこちから矢が飛んで来るが、見る必要も無く、俺は避ける。『全天』の能力ゆえだ。
丘のような城塞の天頂部にしつらえられた砦。そこには、敵兵が多数おった。全天を用いてことごとくの攻撃をかわし、テレポを使って敵との間合いに瞬時に入り、打撃をくらわして行く。やがて、立っている者はいなくなった。
それを見て、白蓮は中に入る。しばらくすると、敵兵が城塞の出口からワラワラと出て来る。それを追う如くにして、頭に黄巾を巻いた者たちも城塞から出て来る。彼らは外におる黄巾の部隊と合流する。
出て来た白蓮に、
「次、行くよ」と言われ、駆け出す俺を甲高い声が追って来る。
「手鞠お姉さまを助けてくれて、ありがとう」
俺は走りつつ、右手を上げて、それに答える。
そうして、別の城塞上の砦も制圧。やはり白蓮が中に入る。同様に、まず敵兵が城塞から逃げ出し、次に黄巾兵が出て来る。
次。俺は白蓮に言われるまでもなく、駆け出す。
「そっちは終わっているから、あっち」
白蓮はまったく別の城塞を指さす。
なるほど、張り切り過ぎも良くないか。
俺はそちらに駆け出す。ただ途中で通せんぼうする者がおった。しかも二人。
二人相手かよ。俺は相棒となりそうな者を捜し求める。ペロは?と想うが、見当たらぬ。頭が痛いゆえか、自分のなすべき仕事は成し遂げたと考えたか、後方にしりぞいたのだろう。もっとも、いたとしても、ペロが猩猩様の代役を務められるはずもない。
何とかなる。ペロはそう言っておった。実際、そのペロが夏侯惇に一撃をくらわすを得たのだ。二人を相手にする。何とかなる。俺は己にそう言い聞かせた。
「こいつか。妙ちきりんな姿の女とは。どんな者だと想いきや。これほどとはね。狂人なのか。ほぼほぼ裸ではないか。戦場に立つのにかほどにふさわしくない姿はあるまい。郭嘉いわく、こいつを足止めしろとのことであったが」
「ただ、張 儁乂(張郃)よ。先に説明した通り、この者は奇妙な技を使う。あなどるな。我はこの者が楽進を一騎打ちの末に倒すのを見ておった」
「ああ。分かっている。どのような術か、まず見極めるのが先決となろう。のう。徐公明(徐晃)や。攻めるのはそのあとだ」
二人が仕掛けて来ぬとなると、こちらもそうそうに跳び入れぬ。
俺が攻めを躊躇しておる間に、「遅れて済まぬ」との声。続いて「途中で出くわした黄巾の一隊を蹴散らして来た」
「我ら二人に許仲康(許褚)も加わるなら、この者がいかに得体の知れぬ技を使うとしても、足止めくらいはできよう。そのように郭嘉は見積もったのだろうが。しかし、我ら三人も安く見られたものよのう」と徐晃。
まったく、三人がかりかよ。なら、いっそのこと、こいつらと戦わず、城塞へ向かった方が良かろう。 テレポを使うまでもない。俺の速度について来れまい。徐晃と許褚の間をトップスピードで駆け抜け、そのまま城塞へ向かう。後方から「逃げるな」、「卑怯者」との声が聞こえる。そんなの知らねえよと想いつつ、向かう先の城塞の上の砦を改めて見る。白蓮が空中に浮かび、戦っておった。更に黄巾の部隊が、攻略のためであろう、たくさん城塞の上を登っておった。
これは却って行かぬ方が良いか。行けば、確かに味方を助けることはできるが、同時に敵側の猛将三人も連れて行くことになる。
留まれば、俺も足止めだが、こいつらも足止めだ。更に倒せれば、なお良し。俺はそう想い直す。
敵の陣形が崩れている今がチャンスとばかりに、先頭を走って来る許褚の足元へ滑り込むイメージを想い描く。敵はもんどりうって前方に倒れる。俺は危うく下敷きになりそうになる。倒れた許褚の頭のかたわらに立つ己をイメージ。
そのまま、足で蹴ろうとするが、全天が反応する。俺の横っ腹に向け、槍が繰り出される。追って来た徐晃によるものであった。
仕方なく、俺は距離を空けたところに立つ己をイメージ。
張郃も至り、その二人と正対。許褚も立ち上がる。三人がほぼ横並びとなる。端なら他の者は邪魔できない。そう想い、右端に立つ徐晃の頭に蹴りを入れる様を思い描く。
「しゃがめ」との声。防がれた訳ではなかった。俺の足は空を切る。案の定、下に三人の巨漢がしゃがんでおる。いずれも頭を腕で抱えつつ。
俺は勢いのままに、少し離れたところに降りる。
「やはり姿を消した後に、こちらの頭を狙いに来る。頭さえやられなければ、大丈夫だ」と徐晃。
まったく、嫌になるような学習能力の高さであった。
俺は、それから相手を替えつつ、その背後、足元、頭の横とたびたびテレポを成功させたが、敵に致命的なダメージを与えることもできなかった。
といって、全天で守られている俺に対して、敵もまたしかりであった。
そんな中、「退却するわ。救出が終わったの」との白蓮の声。見ると、黄巾勢が一団となって、本城塞に向かっておった。教えに来てくれた白蓮に対し、
「分かった。彼らのしんがりを援護してやってくれ。俺はこいつらをもう少し引き留めてから戻るから」
白蓮が去り、黄巾勢が本城塞に入り終えた頃合いを見計らって、俺はそこよりしりぞいた。




