第1話 戦3
(視点は前半はフリチン、後半は手鞠です)
俺は急ぎ至る。
「ペロ。大丈夫か?」
怪獣の着ぐるみを頭までしっかりかぶり、なのでその歯が頭にかぶりついている格好のペロ。これがペロの戦闘モードである。頭をおさえ、涙目である。高所からのダイビング・ヘッドを決めたゆえであろう。
これより先、俺たちは城塞を攻囲する曹操軍を避け、本城塞の裏側の山岳を駆け登り、そうして、前面側を駆け下りたのであった。まさに義経の逆落としの如くに。といっても、俺もペロもさすがに自分の足でではあるが。
で、敵はというと。完全ノックアウトを期待したいところだが。何と、立ち上がりつつある。そうして、俺をにらみつける。どうやら、俺が手鞠を連れだしたのを憶えておったらしい。
しかし、何ともすごい面相である。火傷の跡も痛々しく、こちらをにらんでおる。それほどに手鞠を殺したいということなのであろう。実際、こう大喝する。
「我が名は夏侯惇。邪魔立てするなら、そなたも斬らねばならぬ」
「俺はフリチン。ならば、俺のしかばねを越えて行け」
俺。格好良く決まったかな?
「なんだ。そのへんてこな名は。おまけに、そのへんてこ姿。バカにしておるのか」
なぜか、怒ってやがる。そもそも、こいつ、ダメージを負っておらぬとは想えぬ。戦うことができるのか?
ただ、そんな心配は無用であったようである。
手に持つ大剣を自ら捨て、護衛であろうか、側らにおる兵の持つ槍を奪うが如くにして手に持つと、俺にするどい突きの連撃を繰り出してくる。
こちらが武器をたずさえておらぬのを見ての長物の選択であり、まさに突き出す槍の連撃は俺の間合いを詰めようとする動きを完全に封じ込め、そればかりか、明らかに俺の体を貫かんとする速さと激しさで撃たれる。
ズタボロの体から繰り出される連撃とは信じられぬものであり、油断したとまでは言わぬが、俺は虚を突かれた格好となり、穂先をかわすのが精いっぱいとなる。異様な面相の印象は、哀れを誘うものから、鬼の如くの恐ろし気なものに変わる。
ただ、不意に槍の突きが止まる。見る間に、夏侯惇の体がドウとばかりに、地面に倒れ伏した。
しばし様子を見てから、恐る恐る近づく。良くこれで動けたなというほどの、消し炭の如くの体がそこに転がっておった。
俺はふと気になり、周りを見回す。すると、皆、敵も味方も動きを止めておった。
ただ、前方から巨漢が一人、まっすぐこちらにやって来る。どうやら、俺が目当てであるらしい。その歩く速度はゆっくりであり、まるでこちらに準備のときを与えるようであった。
俺は大きく一つ息を吐き、心を落ち着かせる。折角、手鞠が隈取してくれたんだ。その効果を試すことにする。
他方、本城塞の横穴におる手鞠。
「お姉さん。大丈夫?」
駆け寄って来たのは、陸仙姑おばあさん。その小太りな体に似合わず、動きは機敏である。
「やられちゃったみたい」と私。
「何。言ってるの。これくらいの傷。どれどれ。良く見せて」
「折角、作ってもらった薬を私が使うなんてね」
「かしこいあんたでも想像できなかったかい?」
「そうでもないけれど」
「まず、矢を抜かないとね」
「痛そうね」
「ああ。そうなるね」
陸おばあさんは、白蓮だけでなく、私にも容赦ない。ふと、その後ろに見慣れた顔があった。
「黄おじいさん。どうしたの? その恰好」
「何が、どうしたのじゃ。そなたが倒れたら、わしが行かねばなるまい」
黄おじいさんは鎧甲に身を包んでおった。その鎧にはたすきがけに黄巾を結わえておった。
「わしを少しは信頼して、治療に専念することだ。よいな」
「助かります」
「そう殊勝に言われると、わしも老骨にムチ打たねばのう」




