終話 戦2
黄おじいさんの言葉を胸に留め、私は部隊を率いた。想ったより、うまく行った。既に半分の丘城塞から味方を救出できていた。兵を率いるのは初めてとはいえ、白蓮との連携は以心伝心、これが私の経験不足を補ったのだろう。無論、全ては黄巾の皆ががんばってくれた上でのこと。ようし。あと半分。
大丈夫?。
空中におる白蓮に向け矢が放たれ、その体がぐらりとよろめいたのだ。当たったのだろうか。ただ、持ち直す。どうやら、矢をよけようとして、バランスを崩しただけらしい。
私は想わず身を乗り出していた。それがいけなかった。私の身の周りは、護衛たちが掲げる盾で囲まれ守られておるのだが、そこから外れてしまったのだ。
気付いたときには左足に激痛が走り、私はその場に倒れてしまう。
ただ、視線はあるものにくぎ付けになる。兵を引き連れて、一人の男が丘城塞を駆け下って来ておった。いかつい鎧兜に身を固め、大剣をたずさえておる。護衛たちが立ちはだかる。敵兵の多くを防ぐを得たが、その男には突破されてしまう。その動きに気付いた白蓮が至り、炎を浴びせるも、それをものともせず、迫って来る。何、こいつ、人間なの?
白蓮は、敵の矢に邪魔され、二撃目を撃てない。その男につられる如く、敵兵が集まって来ておった。
その男が迫る。明らかに間合いの内である。斬られることを覚悟する。私は死ぬ。でも、それで皆が助かるなら、悪くない。ただ、至ったのは言葉だった。
「そなたに恨みはない。孟徳の執心を解くためには、死んでもらうしかない。許せ」
どうしても、それを言わねばならぬ理由があったのか。相手の心中ゆえ、分かりようがない。ただ、その一拍が状況を変えた。
上空から落ちて来た何かが、その男の兜を直撃したのだ。それと同時に、私はやはり上空から飛来した何者かに抱きかかえられ、みるみるうちにその男との距離は開いた。私を抱えた者は、そのまま、本城砦を駆けあがる。誰? こんなことができる者なんて、いるはずない。ただ、顔を間近に見て納得する。神の造形かと想えるほどの美しい顔の持ち主。不信心者の私が、神の存在を信じたくなるほどに。
「蝶蝶。来てくれたの」
相手はなぜか恥ずかしそうにしている。
「じゃあ、あれはおチビちゃん」
敵の頭に激突したものは、小柄な身なりであり、なぜか自分の頭をおさえておった。頭突きをくらわしたのだろうか。
「ペロのことか。だとすれば、そうだ」
そして、私を本城砦の横穴の一つに置くと、行こうとする。
「待って。隈取をするわ」
そう言い、私は太ももから流れ出る血で顔に紋様を描く。人差し指で、殴り書きしたのだ。蝶蝶には荒々しさこそがふさわしい。
「終わったのか? 行くぞ」
「待ってよ。まだよ」
私は彼女の髪を結わえた赤紐を解く。
「ほら。これで完成。白蓮を死なせないで」
「ああ。誰であれ、死なせるつもりはねえ」
私はその様を見送る。私と同じ黒髪。それが風で千千に乱れておった。




