第5話 手毬2&走るバカ二人
(前半の視点は手毬です)
本城塞の高所に設えられた遠望台より、眼下の様を見ておった。時折、吹き降ろす風が私の髪をなぶる。
「敵もさるものね。あれでは白蓮は近づけないわ」
白蓮は、敵が丘城塞の上に造った小砦からの攻撃に、明らかに苦戦しておった。
「確かにそうですね。困ったものです」
側らで共に見ておるは黄おじいさんであった。陸仙姑おばあさんには、傷薬を作ってもらっておった。たくさん必要になるはずだから。手伝える人たちにも集まってもらった。
「そうね。ただ、こうなったら、やらなければならないことがあるわ。丘城塞に立て籠もっておる者たちを助け出さないと。今のままでは、攻め落とされるのは時間の問題。そうなれば、全員殺されてしまう」
「といって、どうなさるのです」
「本城塞から軍を出して、救援に赴くつもり。私も一部隊を率いるわ」
「何を考えておいでなのです。あまりに危険です」
珍しく、黄おじいさんの声には、怒りの感情がにじんでおった。
「それは百も承知よ。でも、それは皆も同じ」
「そなた自身が率いる必要は無いと想いますが」
「でも、私の頭の中には丘城塞の設計図が入っているも同然。なので、どう救出に動けば良いか、分かっているわ。それに、将たれと教えてくれたのは、黄おじいさんよ」
「まったく手強いお方だ。あの台詞の逆を取られるとはね。そして、かたくなでもある。そなた自身に言わぬ理由がありそうですが、詮索はしません」
「ありがとう、助かるわ」
そう言われ、黄おじいさんはやれやれとの顔をする。
「ただ、賛成するには、一つだけ条件があります。妹君と連携して動くことです。うまくすれば、互いの動きが、敵の矛先をかわす役に立ちましょう」
「それは、嫌なのよ。白蓮が心配なの。もし、傷ついたらと想うと、耐えられないわ」
「そなたが傷ついても同じですよ。妹君は悲しむでしょう。それに、そなたも妹君も我らにとっては重要で、欠くべからざる存在です。そしてそれだけではありません。救出作戦を成功させたいと想うなら、妹君の援護は必須です。まさか、ただ、死にに行くために、出撃する訳ではないでしょう」
まるで心中を見透かされた如くであった。私には、悪役令嬢の予見という能力がある。それが告げるとことによれば、私が死ぬことにより、私の周りの者に良いことが起きる。これは、初めて、あの男に会ったときに得たものであった。そのときには、良いことが何かは分からなかったけど。今となっては、それで皆が助かるのではと想っている。
私は一つ大きく息を吐いた。
「そうね。確かに白蓮は悲しむわね。分かったわ。それは受け入れる」
黄おじいさんの息を吐く音が聞こえた。
(後半の視点はフリチンです)
「ペロよ」
「何でござる」
時折、なぜか、こいつは時代劇口調になる。まあ、今はそれより大事なことがあり、ゆえに置くとして。
「気になることがあるのだが」
「だから、なんでござる」
「猩猩様が付いて来れていないのだが」
「太り過ぎでござる。仕方ないでござる」
むう。何となく猩猩様の地雷を踏んだ気がしないでもないが。
「猩猩様に言ってはダメでござる。言ったら、殺すでござる」
こいつ、一丁前に猩猩様に気を使ってやがる。
「呂布の旦那率いる騎馬軍も付いて来れていないが」
「仕方ないでござる。ペロたちが速いでござる」
「いや、俺が言いたいのはそこじゃない。俺とペロだけで戦えるのかってこと」
「何とかなるでござる。手鞠と白蓮を助けるでござる」
ペロの切迫感は伝わって来る。王美人を助けられなかったときほどではないにしろ。ペロと猩猩様は、今となっては、俺の大切な仲間だ。だから、白蓮と手鞠を俺自身は知らないが、ペロが助けたいというなら、異論はない。
「何とかなるか。そりゃあ、いい。なら、もっと速度を上げるぜ。ついて来れるかよ。ペロ」
「フリチン如きには、負けぬでござる」
まさに地を駆けるバカ二人であった。一応付言しておくと、ペロは騎乗しており、ペロ用の替え馬が十数頭あとに続いておった。俺はもちろん、自分の足で走っている。




