第1話 曹操軍布陣
やはりこいつと郭嘉は同類か、というのは夏侯惇の想いであった。孟徳が、城塞の全容を見て、「これはこれは」と喜色を浮かべ、舌なめずりしてみせたのである。
本城塞の背面は急峻な山岳となっておるため、上り下りが難しい。続々と到着しておる部隊は、背面を除いた、残り三面に布陣しておるところであった。日は中天を少し過ぎたところにある。日没までには、全部隊が到着し布陣を終えられるであろう。
「武名の誉れ高き我がイトコ殿が攻め落とせなかったのも無理はないわ。しかも、二度も試みて」
こんなところで我を引き合いに出すなと文句を言いたくなるが、事実ゆえ、仕方ないとあきらめる。
「それで、どうするのだ?」と孟徳。
「我に腹案は無い」
正直にそう答える。
「郭嘉はどうだ?」
我は孟徳の右側に立ち、郭嘉は左側に立っておった。城塞初見の孟徳に対し、本来なら相応の説明の必要があったはずであり、そのためのこの横並びであるはずだが。我としては、そこは全て郭嘉に押しつける気であった。
「まずは手前の城塞群ですが、あれをどうにかする必要があります。ほったらかしにして、後方にそびえる本城塞の攻略に及んでは、挟撃を受けること必定のゆえに」
「うむ。我も同じ見立てよ。ならば、どうするか?」
「前回の敗因は大きく分けて二つ。一つは軍勢が足りぬこと。もう一つは敵の用いる術がまぼろしと知らなかったこと。しかし、こたびは共に問題とはなりませぬ」
「うむ。なればこそ、そなたは我に親征を望んだのであったな。ほぼほぼ全軍に近き軍勢をもって。おかげで、留守を託した荀彧と曹仁が文句を垂れておったわ。これでどうやって袁紹を防ぐのですとのう」
(なんだ。郭嘉の野郎。今回の親征は我のせいだなどと、ほざいておったが。そういえば、あの退却を決めたときも、二案を言っておったわ。まったく、どちらが選ばれても、己の策に従ってとなる訳か。
「すでに慣れておるそなたらには、再び部隊を率いてもらいたく想うが」
「承ります」
と郭嘉が上機嫌に答えれば、
「無論」
と己は不満を抱えつつ答える。正直、あの暗く狭い中をもう一回というのは望むところではない。
「もっとも、敵がこちらの降伏勧告を拒んだら、であるがな」
そう。戦の前はまず降伏勧告、それを孟徳は今回もしっかり守っておったのだ。




