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クレア

「どうやええ色やろ。

 よう晴れた(ひい)の空みやたいやんか?」


 青い!

 本当に晴れた日の空のような青だよ。

 水気抜いたらこんな色になるんだ!


 メグがあたしの腕環にって持って来てくれたサンゴイシは、加工前とは随分色味を変えていた。


「作るんはクレアやで、ウチは調整、いつも通りや」


 メグがちょっと不安な気持ちのあたしの肩に手を置いて、腕環作りが始まる。

 大きさは前にメグちゃんが作ってくれたあの腕環が慣れているから、同じにしよう。


 枝の形のサンゴイシは半分くらい余ったかな、でも上手くできた。

 表面がツヤっとしてとても可愛い!


 メグがいい出来だと褒めてくれるのも嬉しい。


 そこで土の魔法石が出て来た。

 赤い透き通った色の小さな石だ。

 こんな色のもあるんだなあと見ていたら、これも使えって言うんだよ。


 でもせっかくの綺麗な青、すごく気に入ってしまったのに、この色も綺麗だけど、どうしよう?

 あたしはこの色を内側に使えば、それはそれでおしゃれなんじゃと思いついた。

 外見(そとみ)は青の可愛い腕環。

 でも手に取るとちょっとした細工ものだと分かるって、特別な感じが良くないかなあ!


 そうやってまたメグの手が肩に、応援してくれるのが分かる。

 ホッとする。


 出来上がった腕環をメグがしげしげと見るんだよ、そしてこう言ったんだ。


「クレア、すごいこと考えよったなあ!

 これは画期的言うやっちゃ、肌に近いんが魔法石の効果は一番やさかいなあ」


 あ、そうなの?

 でも上手く出来た!


 メグはあたしの腕を作ろうって言ってくれた。

 それにはあたしの土魔法が欠かせないって。

 だから食われちゃった腕環の代わりが要るって。


 前の腕環もお気に入りだったんだよ?

 でもあれは合わなくなって来てたんだってメグが言う。

 あ、そうなのってのがあたしの感想なんだけど。


 あたしは左手に付けた新しい腕環を抱いて、その晩はよく眠れたんだ。


   ・   ・   ・


 朝が来た。

 ここ数日は頭が重かった。

 腕が無いってだけで身体は元気なはずなんだ、でもなんか全身にダルさがあって、あまり外にも出られなかった。


 でも今朝は違う。

 青い腕環が目に入るとウキウキするんだ。


 食堂へ降りて朝食、その後はメグと腕の材料探し。

 色と感触が人間の腕とよく似たものを探さなくちゃいけない。


   ・   ・   ・


 木の繊維を加工して良さそうなものができたのが10日目だったかな。


 その数日前には仮の腕を付けて、散歩に出たりもしていたんだよ?

 だってメグが(うるさ)いんだもの。

 今の季節は長袖だし見えるのは手首から先だから、そんなに精巧な手は要らないって。


 途中で会ったスワランジーの宿のネイルさんが、ビックリしたような顔をしてたのが妙に記憶に残っている。

 なんでそんなに驚くんだろうって思ったんだ。

 ぱっと見じゃわからないはずなのにね。


 こう言うのはギシュって言うらしい。

 食堂でタケオが言ってたよ。

 ギソクにギシュ、ギガンなんてのもあるって。


 タケオがする向こうの話は知らない事ばかりで面白いけど、すぐに話が迷子になるんだ。

 メグはそれをほじくりほじくり聞くって言ってたけど。


 ギシュに思ったように動かせる魔道具を仕込むってメグが言う。

 指や手首は、関節のところで中の筋を引っ張ることで動くらしい。

 それを引っ張るのが筋肉なんだそうだけど、代わりに小さいウインチで筋を引っ張るって言うんだ。


 でも色々問題があって、なかなか上手くは行かないんだ。


 まず身体と繋ぐところ。

 骨って生きているんだよね。

 だからあたしの土魔法が通らない。


 今は残った腕に皮の鞘を被せて、紐で締め更に肩から逆の脇に回した紐で吊っている状態なんだ。


 次は思ったようにってところ。

 一応ゴーレム技術なんてのがあって、単純な動きはさせられる。

 でも全部時間をかけて事前に準備や動作試験が必要で、思いつきで動くものじゃ無いんだ。


 タケオが言うには、腕の筋肉と頭が細いシンケイってので相互に繋がっていて、動かせ、動いたみたいなやり取りをしてるって言うんだけどね。


 次は力の調整。

 こっちは割と簡単って思うでしょ?

 ウインチが引く力の上限を決めちゃえばって。

 でも上限って言ってもそれは場所によって違うし、何よりそれを測る方法がなかったりする。

 ゴーレムだと関節をここまで曲げて、みたいな命令だからね、力加減なんてしないんだ。

 持ったものが潰れてもそこまでは握るし、指が折れて無くなってもそこまでは曲げる。

 対象が固いものなら、関節や骨をしなやかに曲がる素材にすればなんとかなるとか、方法はあるって言うけどここでは使えない。

 普段の生活では軽いもの小さなもの、壊れやすいものがほとんどで、そんなのばかりを持つんだから。


 散々に試行錯誤ってのを繰り返してもダメで。


「ウチ最初に余計なこと言うてまったかも知れへん」なんてメグが言うんだ。


 思い当たる言葉と言えば……

『腕や足無うなって不自由しとるんも、世の中にようさん()るよってなあ。

 ええ機会やから作ってみいひん?』だったか。


 確かにあたしは他の人にも役に立つならとか思ったよ。

 でもそれは言い訳だ。動きたいのは誰かじゃない、このあたしなんだもの。


「いいよ、そんなの気にしないで。

 今出来ることをやるだけだよ。

 正直なことを言うとね、あたしは諦めてるんだ。

 でも簡単な動きでもいいから、何かできるようになりたいな」


「一つ方法があるんや。

 それはクレアにしか出来ひんかも知れん、もっと言うたらクレアには出来んかも知れん」


 あたしはメグのその言い方が面白いと思ってしまった。

 出来るとしたらあたしだけ。

 そう聞こえたから。

 だから聞いてみたんだ。


「ウインチやら全部やめて、骨ちゅう骨を全部土魔法で動かすんや。

 あ。もちろん関節はそのままやで?」


 ブランブランの腕を土魔法で?

 確かに一個二個なら思ったように動くかもだけど、肘から先でも20数箇所は動くところがあるんだよ?


 試しに無事な左手で動作をやってみる。

 普段の動作だと、手指だけ動かすか、肘と手首を動かすかで、全部を一度にって動きは舞踊でもなければ、早々ないみたいだ。

 肘と手首それに腕の固定で4箇所を思い通りにってだけで慣れるのに2日掛かった。

 最初は集中するから、終いに頭が痛くなった。

 これ手指の方も動くようになるまで、どれだけ掛かるんだろう。


 でもなんとかなりそう!


 そう考えているところにタケオがやって来た。

 連れて来たのはネイルさん。

 スワランジーの宿で給仕をしているお姉さん。

 年はあたしと一緒だって言うんだけど、落ち着きようがね。

 どんな育ち方をしたら、あんなふうになるんだろう、立ち居振る舞いが大人っていうか。

 特技は似顔絵描きで、あたしも描いてもらってる。


 挨拶もそこそこに、ネイルさんがあたしの両手を取る。


「少し冷たいのね」

 あたしの右手(ギシュ)を持ち上げて言った。

 両手で手を握って揉んだりなぞったり。

「それ以外はよく出来ている」


「クレア」

 タケオが口を開く。

「これから儀式をする。

 必ずでは無いらしいが、明日にはその右手が巻き戻るだろう」

 静かな口調だ。


 青年の見かけなのに老成した雰囲気は独特なんだけど……

 ネイルさんと見比べてしまう。


「なんや巻き戻るて?」

「え?巻き戻る?」

 二人の雰囲気が似ているなあとか思ってて聞いてなかった。


 ネイルさんが、スラットさんの事故の顛末を簡単に説明してくれて、口外無用ですと釘を刺してきて。


「そんなこっちゃないか、思とっとったんや。

 けど、そうかあ。

 似顔絵で巻き戻るんかあ……」


 メグが考え込んだ。これ放っとくと長いやつかな?


 これを高いところへと巻いた紙を渡される。

 土魔法でひょいと飾り棚の上へ載せると、ネイルさんが驚いた表情を見せた。


 そうかもだよね、あたしだってこんな気軽に魔法を使う人は見たことないもの。

 でもこの腕環。

 それにここ数日、土魔法でものを動かすってことばかりやってたんで、なんの気も無しにやってしまった。


 儀式と言うのはごく簡単。

 両膝を床に突き額も付ける。

 それから両手を頭の上まで上げてパンパンと叩くだけ。

 ギシュでも手首までは自由に動かせるし、手のひらは動かないようにするだけだから、手を叩くのは大丈夫だったよ。


「あとはガリオン様のご加護を待つだけです」


「ああ〜、ガリオン様なんだ!」

 妙に納得がいってしまった。


   ・   ・   ・


 翌朝になると、あたしの右腕は元通りになっていた。

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