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スンダルシカ湿地

「タケオに言われて来たんはええけど、もうこないに魔物やら増えとるん?

 この間狩ったばっかりやちうに(はや)ないか?」


 ここはスンダルシカ湿地。

 腰上程の丈の高い草と、その上に枝を伸ばす木がようさんあって見通しは良うあらへん。


「そうだねえ、索敵で見ると凄い数だよこれ。

 ほら広域の、見てよ、多分この辺りがこの間狩ったとこだから、まんま復活してる感じだね」


 調査依頼や言うからこの情報だけで依頼は完了や。

 ただ説明するんに証拠言うんが必要やよって、大きめのを1体仕留めたいところや。

 ()うてもええっちゃええんやけどな、あった方が話しやすいやん。


 なんて言うてもや。

 先日やらこの地域を3つに分けて狩ったよって、今回も同様や。

 一遍やったこと言うんは次に同じことをしよ(おも)たら案外楽に出来(でけ)るもんや。


 1箇所目、2箇所目。

 出よる魔物も大体一緒やった。

 元凶はやっぱりナミノカズラやろか、今回も何体か出よったよって。

 今回はドリック達やら連れて来んやったよって、ステス達が(とど)めのメインやからなあ、早めのイブちゃん誘導や。


 なんせステスは9つやけど、そこそこ強うなっとるんでええにしても、ミトア、ラトルは丸切り子供や。

 体力やら保つはずがあらへんねん。


 3箇所目は湿地のいっちゃん奥や。

 移動するうちにカーナビを調べとったクレアが、

「ねえ、この画面、なんか赤っぽくない?」


 ウチが身体倒して画面を見ると、マップは広域になっとるらしいて、次の狩場やろか、うっすら赤い雲の上にようさんの赤い点が散っとるように見えよった。


「赤い点やら多すぎて(めえ)が引っ張られとるんちゃう?」


「そうかなあ、どうだろ、なんか()な感じ?」


 ウチはここの泥が魔力を通しにくい言うんを忘れとったんや。

 ナミノカズラも隠蔽だか気配隠しだか分からんけど、そないな特性らしいもんを持っとるようで掴みにくいんやけど、この湿地の泥もそうなんや。


 だからえろう近くに来よるまでクレアにかて感じ取れへんし、索敵にもよう映らへん。


 いいや、ナミノカズラみたいんな大物やから、そばに来よったて分かるんや。

 これが同じよな特性持ちの、それも小物やったらどないな事になるか。


 そしてや。

 ナミノカズラは魔物名鑑にこうハッキリ書かれとる。

「虫型魔物を使役する事がある」と。


    ・   ・    ・


 それは狩りの中盤やった。


 ウルフやらゴブリンやらに混じるキルラビットがちらほらや。

 数がおるだけでそう大した脅威でもあらへん。

 油断したらあかんのんはいつも通り、そう思っとったんやけど。


 水カーテンの手前、ウチらの周囲の地面が泡立つんや。

 なんやろ(おも)て、地面の泥水を(かと)うしたったんやけど……

 子供らがまず優先や言うんは先に思った事や。


 次いでウチとクレア、これがちょい手遅れ言うか?

 遅れた分、(あぶく)の半分くらいやろか、そう大きいもんやない泥色のイモムシが跳ねよった。

 ウチは目の前のんをたたき伏せるんが先やった。

 他がどないなっとるやら見る余裕なんかあらへんやった。

 

 そこへや。逸れボアがムシどもを相手にしているクレアの目の前で、水カーテンを突き破ったらしいて。

 もちろんイモムシどもの相手しながらでもそこまでやったら、クレアも余裕だったろう思う。


 ウチは見とる暇が無かったんやが、その隙間を潜ったキルラビットが2匹おったそうや。

 長い前歯で、ボアに槍先を突き込んで動きの止まったクレアに襲いかかった言うステスの話やった。


 腰の短剣で一匹は切り上げて、次言うところでイモムシが顔の前に飛んだんやそうや。


 次に見えたんは地面を泥塗れに転がる短剣を握ったままの一本の腕や。

 ステスらあが金切り声上げてクレアの周りの魔物、イモムシを切り刻んだんや。

 ウチがやっとそれで異変に(きい)付いたっちゅう訳や。


 先のなくなった右肘を左手で押さえるクレアに、ラトルが半狂乱のようにポーションを掛けとる。


 ミトアとステスは落ちた腕に集るイモムシどもを蹴散らし刻んで。

 ウチはと言えばもう狩りどころやあらへん。

 向かって来るんは湿地中の水ちゅう水で皆包み込む。

 店じまいや!


 けど、ナミノカズラには効かんやった。

 魔木やさかい呼吸しとらんし、何より厄介なんは地面の下やちうことや。

 鬱陶しい蔓鞭(触手)が何本か上がったよって、使(つこ)とる水で地面の下から4体を根こそぎや。

 ピンク色の杖(プリプリバトン)に何個魔石食わせたったか、忘れてもうたけど!


 空中に()り出して渾身の水刃や!


 何枚撃ったかも覚えとらへん。


 ウチはクレアのスマホを鎧の隠しから抜いて、タケオのガラケーを呼び出したんや。


   ・   ・   ・


 カリノ役場の車寄せ。

 その下にウチはイブちゃんを滑り込ませる。



 (めえ)が覚めると、ベッドの上やった。

 クレアの腕は回収できひんやったなあ。

 地竜の革鎧言うてもやられる時言うんはあんなものなんやろか?


 あのキルラビットが特別やった可能性も無いこととは言えへん。

 ウチの水カーテンをボアが裂いたとは言え潜り抜けたんやから。

 あの2匹からは3セロト(cm)魔石が出よったと後でステスに聞いた。


 見に行ってみたらクレアは空元気やった。

 あれは相当落ち込んどる。

 なんとかせんとなあ、思いながらなんも思いつかんと数日が過ぎたんや。

 役場ん中が(くろ)うてなあ、居た堪れないんや。


 代わりの腕を用意したったらなんぼか元気になるやろか?


 あ、腕環!

 あれも回収できひんやった。

 元が(きい)の瘤やからなあ、地竜の皮やら切り裂く(はあ)にかかっては一溜りもあらへんなあ。


 腕言うたら自分もそうやけど他人の(めえ)にもよう入る。

 余程精巧なもんやないと。


 せや、サンゴイシがあったで、あれで腕輪を(こさ)えたろ。

 土の魔法石もええもんやないけどいくつかあったはずや、あれも使(つこ)てまずはクレアの土魔法からや。


「クレア、どないや?

 ウチな、クレアの腕を魔道具で作ったろ(おも)たんや。

 腕や足無うなって不自由しとるんも、世の中にようさん()るよってなあ。

 ええ機会やから作ってみいひん?」


 クレアがにっと笑う。

 どこかぎこちないんはしゃあないて。

 それでも泣き言一つ言わんと……

 あかん、ここでウチが泣いてどないするんや!

 自分、しっかりせんとや!


「それでな!

 まずは腕環からや、アレ食われてもうてん。

 けどクレアには合わんようになっとったやん?

 替え時やからなあ、サンゴイシ使ってみよか(おも)たんよ」


 頷くクレアに青い枝振りのサンゴイシを持したった。

 水気抜いて6日目のサンゴイシは、ハッキリと土魔法を纏っている。

 自分で魔力を集めて溜め込んどるんや。


「どうやええ色やろ。

 よう晴れた(ひい)の空みたいやんか?」

 クレアが頷くんを待って、

「作るんはクレアやで、ウチは調整、いつも通りや」

 そう言ってクレアの肩に手を置き、土魔法の発動を待つ。


 サンゴイシがジワリ動き出す。

 ウチはあくまで補助や。

 クレアの造形は大きなのんでもずいぶん細かいところまで作り込むようになってきとる。

 ウチがやるんは流れる魔力量の調整、それだけや。


 そう自分に言い聞かせんやったら余計なことをしてまう。

 いつもやったらクレアは、細かいのんは指先で何度も撫でるようにして作って行くんや。

 腕環くらいは一人で拵えるまでに既になってるんや。

 けど片腕になってもうた今は。


「ほう、ええできやないか。

 これにな?」

 そこまで言ってウチは赤の綺麗な魔法石を取り出したんや。


 形は歪やけど、土の魔法石では珍しい透き通った赤や。

 ウチの手持ちではええ方やけど、世間にはもっとええんがあるはずなんや。

 けどまあ、これなら今のクレアに十分に応えるもんになる。


 サンゴイシの余ったんは横に置いて、クレアの左手に腕輪と魔法石を載せる。

「さあ、もう一遍やで。

 どないな形にするんか決まったか?

 ほな行くで」


 魔法石が手のひらから消えよった。

 青いサンゴイシの腕環は一見どこも変わっとらへんで?

 魔法石はどこへ行ったんやろか?


 出来た腕環を手に取ってようく見ると腕輪の内側、腕に直接当たる部分に細く一本の赤い線になって一周しとった。

 透明な感じもあるよってこれが魔法石なんやろ。


「クレア、すごいこと考えよったなあ!

 これは画期的言うやっちゃ、肌に近いんが魔法石の効果は一番やさかいなあ」


 なぜそうせえへんのか言うたら、こないな繊細な加工ができひん言うんが大きい。


 あとは見栄えやろか。

 大きい魔法石を目立つ位置に置いて魔銀やらで中継するんが杖やらの定番や。

 ウチのバトンかてテングバンブー使(つこ)て繋いどるくらいや。


 けどこれはええでえ!

 魔法石が肌に触れるほど近い、サンゴイシとも満遍なく触れ()うとる。


 サンゴイシの色がまたええ感じやからなあ、あの青と透き通っとる綺麗や言うても赤や、組み合わせが(むつか)しいとはウチも(おも)たんや。


 それをこう来よったか!

 驚いたで!


 けどな、一番はこれをきっかけになんぼかクレアの気分が上向いたことやった。

 それがウチにはいっちゃん嬉しかったんや。

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