カリノ村買い付け団
今日はカリノ村に戻る日だ。
10日の予定を2日伸ばしてあちこち好き放題に走り回ったが、それも今日で終わり。
魔魚は解体甲板まで用意してあったが、クロマンタ1匹を引き上げただけに終わった。
シーサウストで一度出遭った魔魚だが、あの時メグは解体は専門の業者に任せるべきだと言っていたっけ。
けれどそこは大海原の真ん中。
どうしようもないんで、メグの監督の元3枚下ろしから切り身にして冷凍したが、果たしてどうだったのか。
「見えて来たよ、カリノ半島」
クレアの弾む声を合図に俺は速度を2目盛落とす。
まだ船底が海面に付く程じゃないが、水中翼がズズッと沈み込むのが分かる。
役場の文官、スキットとエンザには伝話で連絡をとっているので、トカゲ馬車の手配も万全だ。
これがあるから休みの、2日ばかりの延長もできたわけだ。
積荷は殆どがサンゴイシなんだがな。
俺たちの荷車だけでは積みきれそうにないくらいに、メグとクレアが集めてしまったんだ。
「おー、さすがエンザ、段取りが良いね。
お出迎えが……って!
何人来てるのよ!?」
近づくボートが見えたのか、ゾロゾロと船着場を人影が埋める。
30人くらいはいるな。
漁船は出払っているようだからドリック達じゃない。
見覚えのない顔が多数、その中にクライストが居た。
クライストはうちの村に足繁く通う行商人で、元はネックストーン商会にいたと言う男だ。
と言うことはあれは商人か?
まさかとは思うが、サンゴイシの匂いを嗅ぎつけた?
6日くらい前に伝話でその話をした記憶があるんだが……
あ、その前の日に食糧を取りに戻ってホーレイ氏の話をクライストにしたっけ?
しかしあれで何かわかるはずもないと思うんだが?
岸壁にボートを着けると、お出迎えは役場の使いと商人一同だった。
「村長様お帰りなさい。
休暇は如何でしたか?」
なんて言ってくるが、商人達の目がギラついてるんだよなあ!
「クライスト、これはどうなってるんだ?」
「タケオ村長のご活躍は伝え聞いております。
なんでもこの度珍しいものを入手なさったとか」
「珍しいもの?」
クライストの後ろで、小太り過剰装飾の男が言った。
「お隠しなさるな、サンゴイシですよ」
ああやっぱりバレてやがる。
「数は採ったがまだ加工に日数がかかるようだぞ?
すぐに売れるものでもないって……」
「ええよタケオ。
綺麗なのんは回せるよって。
土産代わりに持ってって貰て、精々宣伝させたらええんやない?」
メグの奴、なんか考えがあるのか?
ここは乗っかる他ないか。
「ステスたちが綺麗に洗てくれとるさかいなあ、どこへ持って行っても高う売れるで?」
始まった馬車2台に余る量のサンゴイシの荷下ろしは、魚の水揚げに使う選別台を一度洗ってそこへ広げらた。
すでにステスたちが洗って色や形のいいものは分けてある。
それを広げた中からメグがひょいひょいと選び取る。
魔力的に使えそうなものを選び取ってるんだろうが、それを見た商人たちが落胆の声を上げる。
商人は商会が5つ、そこに行商が3人混じっているとか、クライストが言っていた。
大きいところは4、5人で来ているとか、熱心なことだ。
それでも馬車1台分相当のサンゴイシだ、それぞれが10から30個もの数を買い付けホクホク顔だ。
宝石扱いの値付けだが、一つ一つ値付けは面倒だと、メグが言い出しクライストが付けた1クロッツ1万ギル(小金貨1枚)は、安いのか高いのか。
小さいからこそ美しいなんてものもあると思うんだが。
クライストを含む行商人は予算が尽きて早々に離脱し、大商会3軒の争奪戦だが、サンゴイシが多い。
まだ50以上も残っていると言うのに手が上がらなくなった。
ここで離脱組と思われたクライストが、残りを全て買う暴挙に出て驚愕の声を浴びていた。
うちとの取引でどれだけ儲けたんだか?
ここまで集まって来た商人に遠慮してたってことか。
ついでなのでドリックたちが集め加工した魚や海藻類の乾物やらも披露し、好感触だったので今後は往来が増えることも期待できるだろう。
こちらの買い付けは資金が本当にないと見え、わずかな量に留まった。
クロマンタは半量をクライストが買い付けて行った。
あいつの馬車はいつも魚を運ぶので冷蔵の魔道具を積んでるからな、ナマモノも運べる。
役場に頼んだトカゲ馬車に加工するサンゴイシを積み、余った分は俺たちの荷車へ、ボートで余った食料なんかはドリックたちの食料庫へ。
片付けも済んでタクシーを船底から引き出した。
決済書類は急ぎだけでも50を超えたとスキットに聞いている。
しばらくは村長室に缶詰か。
ため息を吐きつつ俺はみんなを乗せてカリノ村へと向かった。
沿道から見える畑の緑が濃い。
今年は食料の買い付け無しで冬を越したいものだ。
・ ・ ・
休日から2日。
急ぎの書類はあらかたになり、やっと通常の業務だが溜まっている量が多い。
決済書類はただサインすればいいってもんじゃないのな。
確認に用意された別の書類を見たり、事情を聞くために関係者を呼んだり。
現地を見に行くってのも稀にあるが、なかなか息抜きはさせてもらえないものだ。
メグ達はメアリを巻き込んで、初級魔法を中級にする魔道具を作っていると言ってたっけ。
魔石ブーストと増幅の魔法紋で、中級魔法並みまで威力を引き上げるんだとか。
高価な銀魔法石の量を減らし魔法紋で補助するらしい。
サースルカサル城塞の子爵様が、これに興味を示してるとかなんとか。
この頃は西方面と関わりが増えた。
そんなことを考えていたら次の騒ぎだ。
今日は昼過ぎになって帝都からトリ騎士が2騎やって来た。
急ぎの伝令が役目で、多くは他に見せられないような文書を携えている。
こんな小村に一体何の用があると言うのか、甚だ疑問だったがとにかく受け取るしかない。
騎士から受け取った書状には、
『サースルカサル西方のスンダルシカ湿地に、多数の魔物が出現したとの報告が上がっている。
前回の調査、討伐の実績を踏まえ、貴村に再度の調査を依頼する。
期限は15日以内、報酬は前回同様とする』
ってこれ、命令か?!
騎士の顔を見ると、
「我らは文書の内容について一切知らされていない。
守秘義務もあるので、知っていたとしても答えることはない」
と言われてしまった。
いやいやまだ書類がこんなにあるんだぞ?
これ置いといたらまた増えるだろうが!
頭を抱えそうになっていると、
「トリ騎士が来たんやて?」
現れたのはメグだ。
クレアと2階の小会議室を占領してここ2日、サンゴイシの加工をやってたはずだ。
メアリによると部屋中がサンゴイシで埋まってるとか。
短冊もそのサンゴイシで作ってもらったと見せてくれていた。
俺には色が違うくらいしか分からんかったが。
「この間ナミノカズラを狩りに行ったスンダルシカ湿地な。
また魔物が出たから調査に行けって言うんだ」
「ああ、そんなことかいな。
ええよ。
タケオは書類溜まっとるんやろ?
ウチらで行って来たるで、任せときい!」
伝話も携帯もあるし連絡は取れる。
メグとクレアなら心配もいらないか。
「イブちゃんとステスたちも連れて行くで。
メアリは置いとくよって不自由はあらへんやろ?」
そう言われると否とも言えないか。
俺はこの件をメグたちに任せることにした。
・ ・ ・
翌日準備を終えたメグ、クレア、ステス、ミトア、ラトルの5人は、荷車を曳くタクシーに乗り込み、クロスロード城経由で西へ向かった。
ステス達のLVをもう一つ二つ上げるんだと言って。




