サンゴイシ
この間からメアリに頼まれて、あたしは薄い石の板に魔法紋を刻んでいる。
タケオがタンザクと呼んだその板の元はそこらの土だけど、メアリが引く線を忠実に写し込むことで、魔力を加えるだけであたしには使えないはずの魔法が発動する。
「着火」だの「椀水」だのは、初級と言われる魔法だけどあたしには感覚すら掴めない。
メアリのタンザクでそれが出来ちゃった時は、飛び上がるほど嬉しかったなあ!
メアリは鑑定の魔法を覚えたんだ。
メグが言うにはあれは片手間でやるような魔法で、別に属性を持ってる人が多いらしい。
今のところ、魔力もそこそこあがってる割りに、メアリにそんな兆候はないんだけれど。
それでさ!
楽しいまとまった休日、楽しい島巡り!
何とこの広い海でホーレイさんと再会できたって、何の奇跡だろ!
そして教えて貰ったサンゴイシの採れる島!
もう、これぞ冒険!って感じだよね。
ナベブタトウではたくさんのサンゴイシを見せて貰った。
綺麗な宝石みたいにキラキラしたものや、木みたいに枝になってるの、瘤を折りとったようなの。
そんな形でなければその辺の石かってのもあったけど、なんかほわっと魔力を感じる。
まあ、あたしに分かるのはその程度だよ。
メグが鑑定かってくらい一個一個メアリに説明を書かせてたけど、あんなのよく分かるねえ!
てか、メアリの鑑定でもサンゴイシの違いって分からないんだろうか?
赤いサンゴイシは5個くらいくれたけど、タンガム一箱と交換って程かなあ。
値段だけ言えば絶対サンゴイシが高いんだろうけどさ。
あれ、食べられないからね、あの美味しい実を一箱もなんて惜しいんだよ!
おっとっと、脱線したよ、食べ物が絡むとどうしてもね。
それでタケオが言い出した沈んじゃった島の話だよ。
海の中に底から立ち上がるみたいに浅い場所があるんだって。
本当かなあってんで、メアリが索敵マップで水深の浅いとこを見えるようにしたんだよね。
そしたらさあ、広域にしてたからもう大変。
今の点々とある島に沿って、周りの海は青い丸で水玉模様になってるんだもん。
でね、メアリに「水避け」覚えさせてサンゴイシ採取を始めたんだけど、あんま良いのが採れないんだ。
メグちゃんったらあたしに赤いサンゴイシの見比べを押し付けてさ、タケオとなんか楽しそうに話してるんだよね。
サンゴイシってさ、採ったばっかりのって表面とその近くは生きてるんだよね。
こうやって海から上げちゃうと、そんなには生きていられないみたいだけど。
古い方を見るとその死骸で良いのかな、それが薄い膜みたいになってツヤツヤのコチコチになってるみたい。
でも中身は穴だらけで動物の骨に似てるかな。
採りに「水避け」の中に降りて見ると、岩みたいになってるのの他に、角みたいにそこから生えてるのもあってさ。
多分あれ、別の種類なんだろうと思う。
木の枝みたいのってまだ見てないんだよね、あれってどんなとこで採ったんだろ。
メグちゃんに頼まれたのって、魔力的な話だけど、中身の様子は変わらないんだ。
強いて言えば水気がほとんどないくらい。
あ、タケオの話、一段落したかな?
「メグ、これ、水抜いてみてくれる?
良いって言うまで!」
メグは怪訝な顔で赤い板になったサンゴイシと同じ場所の円錐形の石を受け取った。
表面部分とその奥をいつものように抜き取った物。
「ねえ、タケオ。
サンゴイシってあの深さだけなの?」
「さあどうだろうな?
俺が知ってるのは、珊瑚礁の出来方をなんかで見たか聞いたかしたからだ。
確かによく見る枝の形の珊瑚は一本も採れていないけど、向こうと同じか分からんしなあ」
なんて頼りない返事が返って来る。
おっと、メグに頼んだ水抜き!
「もうちょっと抜いてみて。
あ、そのくらいかな、どう?」
「変わらへんなあ」
「ふうん?
表面以外これで一緒なんだけどねえ?
一晩おいといてみる?」
「そない変わるもんでもないやろ?」
どこが違うって言えないんだけどなんとなく……
「うーんどうかな、まあやってみようよ。
それとね、あれより深い場所って見に行ける?」
「行けんことはあらへんと思うで?
やったことはないよってお試しは要るけどなあ」
「じゃあさ、深いとこを見に行ってこようよ!」
「ええけど?
あー、ちょっと準備するさかい待っとき」
メグは背嚢を引き出して中に手を突っ込んで、数個の石と魔導書を取り出した。
なんか調べる感じかなあ?
メアリはまた魔法紋の紙を並べて睨めっこしてる。
考えることの多い仕事って大変だよねー。
手持ち無沙汰に待つことしばし。
「ええで。
ほな行ってみよか。
メアリはまた「水避け」頼むで。
無うても何とかなるやろけど、あれば楽なんや」
イブちゃんボートはまだ動いてないからね、やると決まればすぐに始められる。
ステスたちがサンゴイシ採取中に摘めるような物を用意してくれてたから、お腹も問題なしっと。
「じゃあ始めよう!」
メアリが魔石を握りタンザクを翳す。
海面が上甲板近くの高さまで円筒形に競り上がる。
あの水壁が5、6メルキ下の海底まで届いたら……
なんと中の海水がパアッと消えるんだ。
これ最初はメグがやったんだけどさ、本当ビックリしたよ。
あとはイブちゃん同伴の御利益でクレーンを使って降りるんだ。
飛び降りても良いんだけど、上甲板からだと10メルキ超えるくらいもあるし、サンゴの海底はゴツゴツしてるし表面はヌルッとしてるしで、ちょっと危ないかな?
サンゴの青黒い岩礁に降り立つと、どっちが深いやら見たところ分からない。
でもそれは良いんだ。
メグが水魔法の使い手だから。
メグが左右を見回し右にピンク色の杖を構える。
ほおらね、どっちが深いか見えてるんだよ!
ズゾゾと音はしないけど、そんな音がしそうな揺れる水洞窟が杖の先に現れた。
そう広くもない水壁の中を一瞬、風がふううっと過ぎる。
砂漠のお馴染みさん、ニズドワームの抜け殻かって感じのぷよぷよ揺れる水のトンネルは、少し先で急に下へ降っている。
メグがそこへ当たり前の様に入って行くのであたしも続く。
「だいたい10メルキや」
メグがボソッと言った。
下り坂の足元は階段状で見た感じと違って、滑ったりの心配はない。
壁や天井に手を伸ばして触れて見るとカッチリ硬い、表面のツルッとした岩のような感触だ。
海底の景色や泳ぐ魚とか見えてるのにね。
この深さはまだ日の光が明るいが、水のうねる様な壁を通して見る深い方は、もうすぐそこから黒く口を開けている様に見える。
ここから見るサンゴの岩礁はその口から上へ伸ばした、真っ黒な舌のようだった。
緩い階段を10数段降りると行き止まりだ。
さっきのメグの呟きは一回分の距離ってとこかな?
階段が緩い分サンゴ岩礁からは離れて来ている。
一面が真っ黒で微かな凹凸が見えるだけだ。
「回り込んで降りて見るでええか?」
あたしが頷くと、左に曲がって透明な洞窟が伸びて行く。
そして風がそれを追うように背後から吹き抜けた。
「ねえメグ、なんか元気ないけど、大丈夫?」
メグったらさっきからちっとも喋らないんだよね。
「ウチこの魔法嫌いなんや……
昔、お婆はんに湖の底浚い言い付けられてなあ、これなんやジメジメしとるやろ?
ちょっと深なると暗なるしなあ……」
ありゃ!
思ってもないメグの弱点発見?
「大丈夫よ、あたしが居るじゃない!」
力なくメグが微笑む。
もう!どうしちゃったのよ?
「そろそろ灯りが要りそや」
透明壁の向こう、海水の中に2つ光球が現れる。黒かった岩礁が濃い青に輝くようだ。
水が澄んでいるので結構広い範囲が見て取れる。
ずっと下までこんな調子で続いてるんだろうか?
メグが作り出す回廊は4つ目を数えた。
キラリと光る緑色。
白みが増して来た岩礁にポツポツと別の色が混じる。
樹木のように枝を張った緑のあれは、サンゴイシ?
他にも大きな瘤の緑が見える。
「やっぱり下だったんだ!」
「せやね」
「ねえ、あの辺に寄せられる?」
「ええよ」
短い返事ばかりで元気、ないなあ!
でも色が綺麗ってだけだからね、高い値段はつくだろうけど、メグが欲しいのは魔力的な効果のある奴だし。
サンゴ岩礁に沿うように下って行く。
あたしが指した緑色の枝サンゴイシに被さって水洞窟が伸びて、また風が奥へと吹いた。
あれなら土台ごと抜けそうだ!
あたしはワクワク気分で階段を降りて行く。
おおー!
「綺麗な枝ぶりだよ、ほら見て!
うわー!良いね良いね!」
「せやね、これちいと魔力を感じるよって…
ええかもや」
お?
気分、ちょっと上向いた?
「ようし!
どんどん採って行っちゃおう!」
そこからは上がったり下がったり、同じ高さで伸ばしたり。
この辺りの深さって当たりみたいだ。
水深で言ったら3、40メルキかな?
「まだ運べるよって、下を見て来ようやん!」
「良いよ、どんどん行っちゃおう!」
6回分も下がると今度は黄色のサンゴイシだ。
その深さでまた採取してたんだけど……
「ねえ、なんかクラクラしない?」
「ウチ頭が痛なって来たで」
「なんか嫌なかんじがする!
上がろ!」
「うん、ええけど……」
だからやばいって!
「ほら、行くよ!」
メグがこのままおかしくなったらこの深さだよ?
泳いで上がるのは嫌だ!
引き摺るみたいに必死に階段を登る。
ここでやや半分かな、まだ上があるよ!
なんて思ってたら、
「ウチどないしたんやろ、めっちゃボーッとしよったわ」
なんてメグが復活したんだ、ビックリしたよー。
てゆーかあたしも調子悪かった。
けど必死だったよね!
でもサンゴイシは大漁!
上がってタケオに聞いたらサンケツじゃないかって言うんだけど、説明聞いてもよくわかんないんだ。
サンソとかクーキとか言うんだよ、なんのことだろうね?




