沈む島
「サンゴイシはウチも師匠はんのところで『魔材便覧』いう本で見たきりや。
魔法石と同じで、色で使える魔法の系統を表しとるいうことやったで」
「メグもサンゴイシには詳しくないのか。
じゃあ良し悪しなんかも難しいか」
「なんやタケオ。
これで商売しよ思とるんか?
ウチは相場が分からへんからなあ。
値付けは出来へんやって、何に向いとるとか品質比べるくらいやったら問題あらへんよ。
説明書き書いたるよってクライストに預けたらええやん」
けどここで買えるんは赤系統のサンゴイシだけや。
見た目通り火属性には色々出来て、それはそれで有難いんやろけど赤ばっかりではなあ、商売にならへんで?
「けど、他の種類も無うては商売は難しいんちゃうか?」
「その辺はちょっと思いついたことがあるんでな。
ここの見本は一通り押さえてくれるか?」
押さえるいうたかて、貰てええもんやなし見るだけや。
ウチに何を期待しとるんや?
まあええわ。
さっき言うた通り、向き不向きと品質だけでもひと通り見といたろかい。
「メアリ、ウチな。
これ1個1個見て行くさかいウチの言葉書き取ってんか?
せやなあ、色と形も書いといた方がええやろなあ」
メアリの腰のポーチから紙束が出て来よるんは承知の上や。
タケオの秘書みたいなことを普段からやっとるさかい、こういう準備はこの子に敵わへん。
手に入らへんサンゴイシは30個以上もあるんや、ちゃっちゃと行こか。
「この石は青系統の枝型や。
水魔法の移動に効果がありそうや。
そう品質の高いもんやあらへんなあ。
次はクレア向きやろか、土魔法の増幅が出来るようやで。
この丸っこいんは瘤型いうんかなあ」
ウチが手に取って次々と寸評やらして行ったら、島の女らが寄って来て興味津々みたいや。
産地になっている島やら教えてくれよったり、採れる量が多いの少ないのなんぞの情報も出て来よる。
それもまとめてメアリが書き取っとるんやから、これは纏めたらちょっとしたもんになるんちゃうか?
ウチも嬉しなって次々見て行くんやけど、こないいっぺんに喋り倒したら喉が痛なったで。
しっかしメアリ、どんだけ紙束持っとるんや?
用意がええ、なんちゅうもんやあらへんで。
・ ・ ・
珍しい言うてもタンガムやらそう高いもんでも無い。
そこに無いもんが欲しい言うたら値は上がる。
どんだけものがええ言うても、要らんもん押し付けるんは安う叩かれる。
そう言う意味やったらあの木箱一つはウチらの方が損した感じやろか。
けどこっからやった。
「この島の周囲の海を見たか?」
タケオが言いよるんや。
周囲の海はウチにも見えへんよって相当深いんやけど、島の周りだけ4、5メルキやろか、結構浅いんや。
棚のようになっとって結構広さもあるなあ。
せやからその浅いとこからサンゴイシが採取出来る。
問題はなんでそないな地形になっとるか、や。
けどなあ、言うに事欠いて、島が沈んでいっとる言うんや。
説明によるとや、あの島は昔はもっとずっと高い山のある大きな島だったんやて。
タケオやなかったら、見て来たみたいに言いないなとツッコムとこや。
でなでな。
ここいらには島が無うなってしもて、棚だけ残っとる場所があるはずや言いよる。
これ聞いたかて普通やったら、どないせいちゅうんやて言うとこやけどなあ。
索敵マップのチケイズで水深が測れるやん。
メアリがマップに深さ5〜10メルキの表示を設定しよったんや。
そしたら出るわ出るわ。
そこいらじゅう水玉模様かちうくらいのもんや。
まあ、広域やからな、一個一個は結構離れとるんやけど。
ほんまにこれみんな、沈んでもうた陸地の名残りなんやろか?
「おお、すごいな。
俺もこんなにあるとは思わなかったぞ。
それでだ、メグ。
このサンゴイシだが、採れるか?」
「見てもない今からある言う前提かい!
まあちょい面倒やけど、メアリがおるからなあ。
仕込みするよって半日待ってんか?」
タケオに時間貰たんは、あのタンザクに魔法紋刻むためや。
見当付けた場所に移動だけして貰て、ウチが「水避け」や。
滅多に使わんよって、これ見るんは相当レアやで?
深さは魔力次第やけど最大で10メルキまでは行ける。
広さはせやなあ直径で5メルキくらいが楽やなあ。
要は筒の形に水の壁作って、中の水やら外へ出してまうだけのことや。
深なると周りの水に対抗する壁の強度やら、ちょい厄介なんやけどなあ!
これをメアリの魔法紋で対応させたろ言うこっちゃ。
そうすればクレアのサンゴイシ採取やら、ウチも手伝えるやん。
メアリも長い時間、壁を維持せんと済むさかい。
海ん中からサンゴイシだけ切り取って、持ち上げい言うんは誰や?
見もせんと海底荒らして、あかんやったら捨てるちうことかい?
そないええ加減なことしたら、煩いんがウチのパーティには一人居るんを忘れとらんやろなあ!
3偏程も「水避け」やって見せたらこの子めっちゃ優秀やわあ。
形だけやったら出来るようになったで!
まだ範囲が狭いのんと、深なると安定が悪うなるんを修正すれば行けるで。
もちろんお試しや言うて手も出さんクレアやない。
ウチが張る「水避け」やからなあ。
ようさんサンゴイシを切り取って来よった。
「この場所のんは土属性やったで。
色やらは綺麗な空色系やから、装飾品にはええやろなあ。
練習台やからええんやけど、次は別のんに移動しようやないか?」
ウチがそう言うとタケオが呆れとる。
やらせといてそんなんかい!
さあ、移動やでー。
そないな調子で5箇所目や。
周り言うたら大海原のど真ん中ちう感じやけど、ほんまどこが真ん中やら海ちうんは、広すぎて分からん。
移動の間にメアリとクレアで改良紋刻んだりしとるよって、「水避け」魔法紋もええ感じになって来たで?
壁の補強をちょいちょい見とったら、ウチが中でサンゴイシの探索を手伝えるまでになって来よったんや。
もちろん採って来たサンゴイシは、ステスたちが選り分けて掃除までしてくれよる。
水は綺麗なんやけど、その分石にようさん汚れが付いとるんや。
ただなあ!
採れるサンゴイシ言うんが、どれもこれも綺麗なんばっかりでなあ!
さっぱり実用向き言うんか?魔力をどうの出来るんちゃうねん。
そういえばナベブタトウで見せてもろたサンゴイシは皆古いもんやったなあ、放っといたら性質が変わりよったりするんやろか?
「クレア、余裕あるか?」
「メグちゃん、どうかした?」
「うん、あのな?
ちょいとサンゴイシ見てくれへん?
こっちのナベブタトウで貰たんと、同じ赤系統のこれな?
中がどないになっとるか見て欲しいんや」
「あー!そう言うこと?
まかせといて!
どれどれー?」
クレアがサンゴイシを両手に一つずつ持って、見比べに掛かる。
ウチには見えへんブンシコーゾーいうんが、土魔法のクレアには見えるらしいてなあ。
炭焼きからやったか、中で小っこいんが動いとるとか言うて。
この子の土魔法はどこへ向かうんやろか?
ホンマの話、今でもかなり明後日の方向に行っとるんや。
「すぐ分かるのは、取って来た方は表面と中になんか生き物がいるっぽい」
「ああ、こっちはどうか知らんが生きている珊瑚虫《ちゅう》ってのが、珊瑚を作ってるんだそうだ。
海水の中の小さいプランクトン…っても分からんか…見えないくらいの生き物を食ってるはずだ」
「そないに小っこいんが生きとるんか?
見えへん大きさやら、尋常やないで?」
「うーん、いまここでってもなあ。
百倍千倍くらいに拡大すれば見える筈だが」
「拡大して見る言うんはどないするんや?」
そう聞いたらタケオが顔顰めよった。
この顔はもう何遍も見とる。
銛撃ちからやったか、役場におるタケオ捕まえてあれやこれや聞くんが増えたからなあ、その時もちょいちょいこんな顔しとったんや。
せやけどタケオの話は面白いんや。ヒントだらけなんや。
穿ったら穿っただけ面白なるんや。
「こっちのガラスは魔法石だって言うから、同じか分からんが」
そう言い置いて紙に丸みのある線を縦に描きよった。
上は同じところから初めて反対へ膨らませて下で結ぶと、紡錘形言うんか、なんや対称で面白い形や。
「これは断面の形だ。
断面っても、見ないと分からんよなあ。
氷で丸い板って作れるか?」
誰に言うとる?
そう思たけど、面白いんはここからや。
半メルキもあればええやろ。
ポンと注文の氷板を出したった。
なんせ海の上や、水には不自由せん、使い放題や。
「でけえな!
まあいいか。
これを上下こんなふうに縁が薄くなるように削ってくれ。
あ、透明にしてくれよ?
レンズだからな」
レンズって何や?
こうやってちょいちょい分からん言葉が飛び出して来るんも、面白いとこや。
分からんが分からんまんま終わってまうんも、ようあるんやけどなあ!
さっきの絵は見とるんや。
ダンメン言うんが何や分からんけどぐるっと縁を薄う言いよる、多分こうやろ。
「おお、いい出来だな。
じゃあそれでこれを覗いて見ろ」
出て来たんが10ギル銅貨やった。
それを床に置かれたんはええとしてや。
覗く?
ウチがまごまごしとるもんやからタケオが笑ってけつかる。
揶揄われるんは好きやないで。
出来たばかりの氷、レンズやったか、その縁をタケオが持って平らな面をウチに向けよった。
狭い操舵室やけどレンズを通した景色が……
なんや歪んどる?
ウチの目がおかしなっとる?
目を擦ってもっぺん見るんやけど、まあたタケオが笑いよった。
銅貨を指で指すんでそっちにレンズやら向けたんやが。
なんや大きいなってないか?
何の魔法や?
「今作って貰ったのは凸レンズと言ってな、物を大きくして見せてくれる。
ちょっとデカすぎて取り回しは悪いがな。
大きさは色々だからこれでもいいが、このくらいのを作ってくれ」
そう言って両手の親指と人差し指で丸を作る。
小さいんは小さいんで厄介なんやが、出来んことはない。
大きいんは消して小っこいんを作る。
触ったら氷やよって歪んでまうんや。せやから浮かしたままや。
「厚みを変えると見える大きさも変わるぞ?」
ほう、そうなん?
やってみたろ!
ちょっとずつ太らせて行く感じでええ?
「大きい見えて来よったで、これどこまで行けるん?」
「やってみたらいいさ」
そないに言うからやってみた。
銅貨はウチの手のひらくらいまで、そこから歪みが酷うなってあかんやった。2、3倍やろか。
「大きい見えるんは分かったで。
けどこれやったらプランクンやら到底見えへんやん」
「1枚ではな。
もう一つ凹レンズってのも作って見てくれ。
断面はこんな感じだ」
タケオが描いた絵は板の両面を丸みをつけて抉った形やった。
早速作って銅貨を覗いてみた。
「小っこなっとるんやけど!」
「基本はこの2種類だが片面を平らにしたり、湾曲の違う凸レンズと凹レンズを背中合わせにしたりしたのもあるらしい。
俺が知ってるのはこのくらいでな。
1枚だけだとそんなに大きくは出来ないんだが、組み合わせると大きく見えるのは知ってる。
50倍の双眼鏡を覗かせて貰ったことがあるが、遠くがよく見えたっけな」
「組み合わせるてどうやるん?」
「ああ、詳しくは知らん。
凸レンズと凹レンズをピッタリ貼り合わせたのとか、ちょっと離して凸レンズを並べたのとか見た記憶があるだけだ」
そう言うてさっきの凸レンズの絵に線を書き足しよった。
右側に並行に何本も伸ばしたんが普通に見えとる光やって。
で、や。
左はその線がレンズ超えた途端にガクッと曲がりよる。
レンズからちょい離れた一点に集まるように描いとったんや。
このいっちゃん上の線の傾き具合が倍率らしいて、薄うすれば集まるんが遠くなって倍率は低うなる。逆もある言うことや。
光なあ?
光をどうにかする魔法なんてあったやろか?
「遠見」言うんは聞いたことあったなあ。
さっき言うとったソーガン…あれに近いやろか?
「そうだ、さっきの凸レンズ!
ちょっと見てろ」
そう言うて紙に黒丸を一つ描きよった。
それを床に置いて日の光をここに集めいとか、まあた分からんことを……
あれ、レンズを通った日さんの光が丸く明るなってへん?
上下に動かすと丸の大きさが変わるやん!
何やねこれ、面白いで!
黒丸に集める言うんはこう言うことやった。
集まったところからさらに動かすと丸が大きいなるんや。
1点に集まっとった線はこう言うことやった。
絵は集まって終いやったけどあのまま伸びて行くんが正解やな。
なんて思とるうちに黒丸から煙が上がる。
炎は上がらんけど、紙に穴が空いてチリチリ赤なっとるやん、これ燃えとるやん!




