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商船

 島で狩ったヘビの群れ。

 36匹にも及ぶが3種類のヘビが混じっていたらしい。

 青黒い無地のもの、濃いグレーに左右に薄い斑紋が胴に沿って並んだもの、そして濃緑無地の背に一本の細い黄色線のものだ。

 森に適応したらしい暗い色だと思っていたら、解体し広げられた皮を上甲板に並べてみて驚いた。

 陽の光を浴びると透けた鱗の反射でどの色も明るく輝くんだ。


「これは(たこ)う売れそうやなあ!」


「わたしも剥いでいてビックリしました。

 光の加減でキラキラするんですもの」


「ちょっとした宝石みたいよねえ!

 あたしはこの青が良いわ!」


 このため島の南半分は狩らずに残すことした。

 値付けがどうなるかにもよるが、次に狩るまでにヘビの数が回復してると良いと思ったから。


 魔石は大小取り混ぜ100を超えてるからそうガッツク所でもない。


 索敵で青い網を見ようとメアリが広域にしたらしい。


「南に白い点が見えます!」


「こんなところでか?

 白いって何だろうな?」


「船だったり?」


 ヤイズル湊からは大きな船が出入りしていた。

 あの時停泊していたのはテオドラ帝国とセンバーツル諸島の商船だった。

 他にも船を出している港はあるんだろうな。

 この辺りにもそんな航路があったりするのか?


「ええと距離が65ケラル(km)、方角は南東、ですね」


「積み込みが終わったら見に行ってみるか」


 そんな面白そうな話に乗ってこないメグとクレアじゃない。

 荷積みは二人の魔法で次々行われる。

 俺がタクシー(イブちゃん)を格納するともう出港準備が出来ていた。

 とは言え、大掛かりな魔物狩りだったので、日はまだ高いと言っても15時を回っている。


「どっちへ(むこ)とるやら知らんけど、一晩置いたらどないなっとるか分らへんで。

 今のうち、行くだけ行ってみた方がええんやないか?」


 まあ行くだけなら1時間掛からない。

 初の洋上泊になるかもだが、それも良いか。


 移動のわずかな時間にも、メアリの氷弾魔法紋の改良は続いているようで、操舵室に小テーブルまで持ち込んで、3人娘でワイワイやっている。

 そんな場所でやっているのは、たまに俺に突拍子もない質問をするのと、位置修正の連絡が速いからだ。


 動かない島へ到達するにも舵の調整が要るんだものな。

 特に今回は相手が東へ移動中らしいとあって、見えるまでは索敵マップ頼りだ。


 漏れ聞こえる魔法紋自体は、厚みのある短冊の両面に5箇所に分けて彫られているらしい。

 小さな水球を用意し凍らせて、術者の目標を受け取り発射速度を受け取り目標まで飛ばす。

 手の内で魔力を込めるとこの順番で紋が励起する。


 その掘り込まれた紋様を一旦メアリが紙に描いて、改良する部分をああでもないこうでもないとやって、クレアが短冊へ紋様として戻すと言った流れのようなんだが。


「ウチのもそうなんやけど、ちいと離れると狙いが逸れるんが(おお)なるねん。

 撃ってしもたらどこへ飛んでくやら分らへんのはなあ。

 タケオ、どないかならへんやろか?」


 命中率を上げたいってか?

 俺はタクシードライバー(職業運転手)で武器屋じゃねえんだが。


 んんー、なんかあったっけ、聞いた話ばかりでどうなんだか……

 鉄砲の話があったか?

 種子島に流れ着いた銃身はただの筒だったのと、丸い弾だったから命中率が極端に低かったらしいってのは聞いたな。


「上手く行くか分らんが、弾の形を長細くして、回転させるってのは聞いたぞ?

 あ、横回転じゃなくて捻る方な?」


「今使(つこ)とるんは槍の穂先に似せた氷弾やで。刃は付いとらんやって捻るんは厄介やなあ。

 氷柱みたいな円錐がええ言うことかいな?

 それを捻って飛ばせちゅう話でええか?」


「そうだな、そんな感じじゃないか?」


 メグが考え込むうちに前方に1隻の帆影が波間にチラリ見えた。

 メアリの案内で舵を調整しているので真正面だ。


「見えたぞ!」

 思わず俺の口からそんな言葉が溢れ出る。


「もう見えたんですか?

 まだ1ケラルはありますよ?」

 メアリが言うが見えたものは見えたんだ。

 波が荒いせいかその後しばらくは見えない。


 しかし水中翼というのは多少の波は全く気にならないのな。

 もう少し荒れればそうもいかないんだろうが、揺れも然程なく安定して走れている。

 船底が荒れる海面の上で、浸かっている部分が最小限なんだから、この程度は揺れる要素がない。


 目を凝らして波浪の向こうを見ていると、今度こそ帆船が航行中である姿が現れた。


 彼我(ひが)の距離を測り水中翼(フォイル)のレバーを引き戻す。


 水中翼船についた強力な水流が切れると急激に船が沈み込む。

 一種左右にぐらりと揺れるが、すぐに左右のフロートが海面を叩きガクンと速度が落ちた。


 それに伴い粗い波の立つ海面で、側面からの波を受け左右の揺れが始まった。


 正面を見ると帆船も横波を受けかなり大きく揺れている。

 帆もいくつかは畳まれているようだった。

 フロートもなく、揺れの減衰も出来なければあんなに揺れるのかと、俺はあの船の乗員に同情してしまったよ。


 水流推進を4段目にさらに近づいていくと、こちらに気付いたらしい発光信号が飛んで来る。


 但し、こちらには誰もそれを読むことができるものがいない。


 クレアがメグの助言を受けて2本の白い旗を持って、敵意のないことだけ伝わればと上甲板に上がった。


 魔法使いが乗っていれば「火炎弾」くらいは飛んで来るかもしれないからな。

 それらしい合図だけでもしておこうと言うところだ。


 その甲斐あってか向こうに大きな動きはない。

 俺は更に寄せて行って左隣に並航するまで持っていく。

 クレアが係船ロープを投げたようで、帆船は縦帆を残し、横帆の殆どを縮帆し始めた。


 効率は悪いが縦帆だけでも船は走る。

 風を抜けば動かずにいることも。

 あれが万一の備えなんだろうと俺は思った。

 しかしでかい船だ。こちらの3倍近い長さがある。

 船垣は見上げるほども高い位置に見えていた。


 2艘のロープだけで繋がれた揺れる船体を飛び渡ってくるものが一人。

 上甲板に乗り移り若干の間の後、クレアに操舵室へと案内されて来た。


 かっちりした船員服に湾曲した剣を吊っている。

 30代くらいだろうか、筋骨逞しい凛々しい顔立ちの男だ。


「私はネスティーゴ。

 センバーツル所属、セントクラフト号の上級航海士をしている者だ。

 まずこの突然の来訪の目的を伺いたい」


「俺はタケオ、船長だ。それとメグにクレアだ。

 目的と言われてもそうはっきりしたものはない。

 この辺りの海の情報がもらえればと言うところかな。

 あとは交易品の売買などできたら良いかと思って寄せてみたんだが」


 見かけ若僧の俺が舵輪を片手にそう返答すると、ネスティーゴと名乗った男は面食らったようだ。


 クレアが男の背後を押さえ、魔法職の看板衣装を纏ったメグが俺の左に立つ。

 それをゆっくり見回してから、

「用向きがそれだけであれば対応できます。

 海の情報と言われたがどのようなことがお望みですか?」


「まずこの辺りの航路について。

 あとは大型の海棲の魔物についての情報かな?

 それについては何か返礼をしたいと思っている。

 今交易品として出せるのは魔物素材、食料、ゴースト退治の『聖水』くらいか。

 何か取引のできるものがあればだが」


「こちらは出港して20日ほど、食料に野菜果物類があればありがたい」


「野菜は出港して5日目だったか?

 まだしばらくは大丈夫と思う。

 果物はさっきの島で採ったばかりのがいくらかあるな。量は聞かないと分からないが。

 新鮮な魔物肉ならたくさんあるぞ?」


 そこまで聞くとネスティーゴが破顔した。

 新鮮な食料というのがよほど嬉しいらしい。

「すぐに艤掌長を寄越すので条件を詰めて頂けるだろう」


   ・   ・   ・


「名を聞いてもしやと思っておったが貴方方でしたか!」


 俺たちの顔を見るなりそう叫ぶように言うのは小太り大柄な髭男。


「おや、ホーレイさんでしたっけ。

 随分と懐かしい顔がいらっしゃったんですね」


「おお、メグさんだ!

 あの節はお世話になりました!

 もう1年ちょっとになりますかなあ、あの修繕して頂いた樽どもは未だに一滴の水も漏らしませんぞ!

 ええっと、クレアさん!

 こちらは……船長がタケオ殿と聞いたのですが……」


 困った様子のホーレイ艤掌長にクレアがクスッと笑う。


「どうする?

 まさか知り合いが来るなんてねえ」


 迂闊なことだが俺は、ここでやっとこの大柄な男が樽修理依頼のホーレイだと思いだした。


「こちらは名は同じですがあのタケオのお孫さんです。

 このイブちゃんボートの船長です」


「はあ。

 同じ名を受け継ぐ地方があるとは聞いていますがお孫さんで。

 そのお年で船長殿ですか、それはまた……」

 ホーレイはブルリと首を一つ振って、

「いや、無用な詮索は致しません。

 して、分けて頂けると言う食料ですが……」


「こっちだよ、付いて来てね」


 クレアが右舷側の扉を開けた。

 船倉へは解体甲板を経由しなければ降りられない。

 その間にメグが両舷のフロートから野菜類を水網で上げて上甲板に並べた。


 メアリが上甲板へ上がって来て、

「これうちの在庫全部じゃないですか!

 良いんですか?

 あんな大きな船だとこれじゃ全然足りないでしょうけど、今日のこっちの食事はどうするんです?」


「心配()らへん、肉は売るほどあるし魚は取り放題や。

 野菜やら港へ戻るんもええとこ半日やで?

 ピュゥッと戻ったらええだけや」


 カリノ港まで5、6百ケラル(km)か。

 半日はちょっときついがまあ許容範囲だろう。

 あ、そうか、メグの「伝話」を使えば、港に集めておいてもらうことも出来るのか。

 夜っぴて走ればロスは1日、って急ぐ旅でもないんだが。


「おお、野菜だ!

 葉がまだシャキッとしてる!

 良いんですか、こんな海の真ん中で貴重な青ものを譲って頂いて?!」


 ネスティーゴがロープを放してこちらを振り向いた。

 背のバッグから巻物が数本、はみ出している。


「こちらのことは心配しなくても大丈夫です。

 それよりそちらを確認させて頂いてても?」


 メアリの顔がひくっと歪む。

 すぐに戻ったが、そうだよなあ!

 他所行きメグは違和感が凄いんだよ!

 クレアは気にしないみたいだが、そう感じるのは俺だけじゃないよな!

 

「ああ。

 貴重なものなので風のない場所、先程の操舵室で」


 右舷の階段から操舵室へ、メアリが使っていた小テーブルに巻物を広げる。


 海図にはヤイズル湊から西方センバーツル諸島までの航路が、数枚に渡って描かれている。

 往路はこの海の南側、点々と島を辿る結構ジグザグな経路が描かれている。


「南寄りは東風が多く吹くんです。

 見ての通り帆船ですので、逆風はどうしても遅くなってしまいますから。

 それにこの島々では、特産のサンゴイシを仕入れられますので」


 ほう?こっちにも珊瑚があるのか。

 あれは真珠ほどじゃないが半ば宝石扱いだったよな。


「サンゴイシやて?

 あ……

 それ、いま積んでいますか?

 良ければ見たいんですが」


 随分慌てたな、メグ。サンゴイシも何か魔法効果があったりするのか?


「ええと、それがヤイズルである商会へ卸す契約がありまして、今手持ちは無いんです」


「ふうん?

 この島まで行って俺たちが買い付けるのは構わないか?」


 海図を調べないと分からんが、行けるなら俺も行ってみたいか。

 少なくとも風向きは俺たちには関係ない。


「採取時期がある程度決まっているので、訪れる時期によってどのくらい集まっているか分かりませんが、買い付けは自由です」


 バッとこちらを向いたメグが、帽子の鍔を持ち上げ俺の顔を覗き込む。


「ああ、分かった分かった。

 それより今はこっちな」


 結局ホーレイとの取引は、見せただけ全ての食料とオキガルーダを含む魔物素材の買取で話が付いた。

 ヤイズルで積んだ交易品は、俺たちにはそう珍しいものでもないため、金額交渉になったんだ。


 メグの交渉で金貨3枚をせしめたが、かなりのボッタクリのような気がする。


「何言うとんねん。

 こおんな何にもない海の上やで?

 誰があれだけの新鮮な食料、用意でけるちうんや」


 予定の休暇も半分を消化し、東側海域の島巡りは大体になった。

 食料を売ってしまったので、拠点のカリノ港まで戻るとしようか。

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