島巡り
さてもいろいろな島があるものだ。
鳥の糞に埋もれた城塞風の島があるかと思えば長城の一部らしい遺構もあった。
その島はひょうたん島で、小さな山と大きな山が一つずつ連なった丸っこい形をしていた。
その二つの山を縦断する石造りの城壁が海から現れ、山を越えてそのまま海へと沈んでいる。
それぞれの山の頂上に物見の塔、高い方は崩れてしまっていたが石の量から見て結構高かったように思う、あれが無ければ万里の長城に似た遺構だろう。
そうかと思えば海面に浮かぶ円形の岩場が幾つも並ぶ環礁海域。
まるで火山のカルデラのようで輪の中が物凄く深い、それが連なっているんだ。
メグが見通せないから深さは10メートルを超えている。
島巡りの途中には大型の魔石持ちはあまりいないようだし、外洋はイブちゃんボートの移動速度が速いので、追いつかれるようなことはない。
あのオキガルーダの件のほかは静かなものだ。
それはそうと、メアリが珍しく船室に引きこもっている。
滅多にない纏まった休日だ。
普段は俺の秘書みたいに予定の管理や、細かい連絡なんかをやってくれていて、その傍らスキットやエンザから文官仕事を教わったりしてるんだ。
こんな時くらいのんびりして欲しいものだが。
「着火」や「椀水」「微風」「ゴミ穴」のようなごく簡単な魔法をメグにせがんで見せてもらい、魔法紋を作っていたのは知っている。
今もおそらくその流れだろう。
メアリ自身は鑑定魔法が使えるだけで、魔力はあっても目に見える形での魔法は使えない。
いや、銀魔法石を補助に使っても魔法紋が見えるというのは、大変なことなんだがな。
クレアが不意に、舵輪を握る俺の後ろを通って左舷側の扉を潜る。
日に数箇所の島の探索の合間に、メアリの部屋を訪ねては何かやっている。
それが今日で4日目。
もう何個目になるのか、東側海域の次の島を目指す移動中のことだ。
「タケオさん、ちょっと見てください。
基本の魔法紋なんですけど、こんな感じなんですよ?」
見ると小さな短冊板に細かな紋様を彫りつけたものが5枚ほど。
1枚1枚は厚みがあるがそれを見て、ちょっと思い出したものがあった。
それは末の孫娘の単語帳だ。
紋様は細長い板の中央辺りに並んでいて、両端に余白がある。
「バラだと落としたりしないか?
ここに小さな穴を開けて紐で結んじゃどうだ?」
向こうじゃ金属の輪っか金具があったが、紐でもいいだろう。
次の島は、地形図で見ると1周120ケラル。結構大きな島だ。西側に入江があって、カリノの港からは直線で300ケラル。
ちょっと遠いがイブちゃんボートなら3時間だ。
「魔物の気配があるよ。けっこうな数」
クレアが言うので索敵で確認すると赤い点だらけ、島の中央辺りが濃いようだ。
索敵はメアリが居ないとクレアも勝手が違うようだ。
「この入江に小さな船着場でも作るか?」
「ええけどウチら以外よう使わへんのとちゃう?」
「そうだなあ、でもまあ、軽くひと稼ぎは良いんじゃないか?」
それに船着場がなければタクシーは引き出せない。
「それだったらちょっとやってみたいことがあったんだ。
メアリの魔法紋、見た?」
「5枚くらいの短冊板だろ?」
「タンザク……
まあいいや、あれね、束で握ったままでもさ、どれを使うか選べるみたいなんだ。
でね、枚数も増えてて、氷弾も小さいのなら撃てるみたい」
「ほう?
そら大したもんやで。
ウチの代わり、やらせてみたろかい」
メグは小物が多い前哨戦を任せるつもりらしい。
クレアが岩場をそれっぽく整える。
水中翼用に掘った深い水路を通って接岸すると、黄色い木の実、レモンっぽいか?
メグが水網で絡めとる。
それをステスたちが木箱に詰めてと一時忙しい。
さて魔物狩りだ。縦横30ケラルを越える島だからな。
中央に高い山があるし1発ではメグの音爆弾もちょっと厳しい。
音爆弾はこれまでも魔石狩りの号砲にちょいちょい使ってきた。
超高温の水を無理矢理結界で抑え込んで長距離を飛ばす、温度は結界に覆われているのでそう簡単に下がらないが、結界は撃ち出したメグから離れるに連れて強度が落ちて行く。
今回はその臨界点を30ケラルに置いている。
これは感覚的なもので、飛ばす速度の所為もあるが数ケラルくらいは余裕で違ってしまうそうだ。
ともかくもメグの熱水球は山の左裾、その上空目掛けて飛んで行く。
それは直ぐに空の青に紛れて見えなくなる。
2秒程だろうか、ズズと島に軽い振動が走る。
そして飛んでいった方向に立ち昇る白煙、耳をつん裂く鋭い破裂音。
水蒸気爆発で水球が破裂した印。
この音に驚いて魔物どもの一斉暴走が始まる。
驚いて走り出すのは小物だ。
そしてそれを捕食する中型、大型が後を追って続く。
この島にはどんな魔物が居るのか。
鳥が一斉に飛び立つ。
空が一瞬だが暗くなったほどの鳥だが、それが島から離れて大きく群れを作って旋回を始める。
トビモモンガの群れがまず現れた。
体長40セロト程、魔物としては小さいが風魔法を操り樹間を飛び回る、とのメグの解説が付く。
水カーテンに絡まって身動きのできないトビモモンガに、1度に5発ほどの氷弾がそれらに襲いかかる。
メアリの氷弾の威力は申し分ない。
だが、メアリの表情が硬い、その訳は毛皮に開いた穴の位置だ。
胸や喉、頭ではなく多くが皮膜を突き抜いている。
中央では俺とステス以下の計4人が短剣で止めを刺して回る。
クレアは右翼、メグは左翼のメアリのバックアップだ。
メグはまだ待機のようで、頭上に氷の粒を浮かせ悠然と見ている。
メアリの第ニ射。
撃ち損ないが減って新手数匹と前回の止めに飛んだようだがやはり撃ち漏らしが出た。
「焦らんと1匹狙てから1発撃つんや。
撃ってる最中に次狙て、なんせ順番言うもんや、やってみい」
メアリの射撃が単発に、その間隔が段々と狭くなる。
5発撃ち終わるのはあっという間だ。
「ほれ次出さんかい。
弾があらへんやったら撃たれへんで?」
「はい、すぐに出しますがちょっと間があきます」
「なんや続けてはいけへんのん?
ウチは一度に30くらい用意しとるやって、気ついた時に補充しとるんや。
夢中になり過ぎて、たまあに弾が無うなっとるんも、ようあるこっちゃで」
その間にメアリは次の氷弾5発を頭上に浮かべる。
それを連続で撃つ。たった5発、撃ち尽くすのは数瞬の間だ。
だがメアリの頬に緊張はない。
それは全て思った場所に当たったから。
次は地を這うフェレットの群れ。
的はさらに小さくなったが、メアリは落ち着いている。
微かなシュシュシュという断続音で、水カーテンに青黒い血の花が咲く。
メグの簡単な助言で撃ち漏らしがグッと減った。
次はゴブリン、ウルフと続きメアリの肩が上下に揺れる。
メアリは腰のポーチから魔石を取り出した。
ここまでは自前の魔力だったらしい。
左右の手にそれぞれ短冊束と魔石ブーストの魔道具を握り込んで、氷弾を撃つメアリをメグがじっと見ている。
そしてボアの群れに変わるとメアリの軽い氷弾では貫通が出来なくなる。
下を向いて胸、腹を見せない頑丈な頭骨を持つボア類だ。
毛皮に傷は入るが骨に弾き返される。
メアリは狙いを目鼻に変えた。
その部分に骨がないなど、散々に解体をやって来たメアリにとっては当然の事。
氷弾は次々ボアを屠る。
次は……
ちょっと動く気配が薄い……
なんだこれ?
「ヘビよ!
多分ウロコが硬いやつ!」
右のクレアの槍が青白い光を放ち始める。
切断に魔力が要るってことだね!
ステス以下を退がらせる。俺は槍だ。
連続して風魔法を使うには石突に仕込んだ魔石、あれが要る。
3人は持てるサイズのモモンガを両手に持って後方に下がった。
体長はどれも1〜2メートル、太さで言うとせいぜい10センチほどか、的としては小さい。
狙いは喉元。
俺の槍は5メートル半ほどの長槍だ。
最も安定のいい槍の中央を持つので間合いは自然3、4歩分となる。
相手は水カーテンに絡まって動きが鈍い。
それでも長い胴体を振って逃れようとするので、喉の位置も小刻みに動く。
突きではなく斬撃の方が狙いやすい?
2体並んだところを狙い2つの首元を通る軌跡に小さな薙!
1匹か首の半ばを断たれ大きく頭をのけ反らせ、もう一匹の首に深い傷が入る。
2匹ともが鮮血を噴き散らし痙攣する。
だがやってみると薙ぎはどうしても動きが大きく、振り戻しのための間が空いてしまう。
俺の前に並ぶヘビは10に近い。
メグの叱責が飛んでくる前に数を減らさないとな。
得手とは言えない突きに変更だ。
しなりの大きい柄の中心を握って、突く際に芯のぶれを少なく突く。
これで穂先の魔力が十分なら多少外れても切り裂ける、刃物で斬るんじゃない魔力で斬る!
本当に上手く行くとは思わなかったが、魔石の効果か十分な風魔法が載っている穂先はヘビの喉を切り裂いた。
突きとしては然して力の入っていない、牽制のような突きだが魔力が載ると言うのは侮れない。
それもこれも動きの鈍い的だから有効な話なのは俺も承知のこと、とにかく今は数だ!
そこからは瞬く間にヘビどもを突き伏せる。
そして引き出したタクシーの出番がやって来る。
強い魔物の止めを刺すと成長が早まる。
その戦果をステス達にも回せるらしいイブちゃんの防御結界。
それ目掛けてメグの水カーテンがスルッと退がる。
そして現れたのは双頭の大トカゲ。
薙ぎ払うように木立を粉砕して全身を現した。
なんでこんな然程大きくもない島で、生きてられるんだってサイズ、体長は7、8メートルないか?
その取り巻きなのか人の倍くらいのファットリザードが、こちらは6匹ほど先行している。
いつのまにかタクシーの後方まで移動したメグとメアリが、嫌がらせの氷弾をばら撒くと、太い外見を裏切る勢いで四肢を激しく動かしファットリザードリザードたちが突っ込んできて……
ドドドン!!
3匹が宙へ跳ね上がる、いつもの光景だ。
続いて残りも順に宙を舞い、地面に叩きつけられたまま動かない惨状に、俺はそっと胸に手を当てる。
硬そうなウロコだからなあ、あの数だと2匹は相手させられるところだった。
バキバキ!ザザザ!
パシパシ顔面を襲う氷弾膜もなんのその、前肢で立木を薙ぎ飛ばし迫る双頭大トカゲ。
タクシーもそのまま弾こうと前肢を振るうが、強烈な反撃を喰らって裏返しに弾かれた。
四肢と尾を使って即座に体勢を戻したトカゲがブルブルと二つの首を振る。
流石にこの大きさだと1発では不足だったようだ。
そこへダメ押しの氷弾が顔面を襲う。
が、
四肢を器用に動かしてその場旋回、一瞬に逃走態勢だ。
「あや!
待たんかい!」
これはメグも予想外の反応だったらしい。
戦意喪失で逃げようとする魔物なんて、俺もゴブリンくらいしか見たことないぞ。
だがピンク色の杖の威力も上がっている。
日常的に使って水網の発動も早い。
走り出した双頭大トカゲは数歩のところで持ち上げられて、裏返しに結界とご対面だ。
ダアン!
それが島の魔物狩り終了の合図だった。




