水中銛
「いやー、失敗やったで!
大体相手は元々海ん中におるやっちゃ、それがなんで海ん上に上がってくるて思たんか、ちゅうこっちゃ。
上がらんで下から突き上げやら噛みつきやら、向こうからしよったら当たり前やん!」
メグが船着場の休憩所、土間の椅子に座ってボヤく。
クジラ捕りの銛漁ではクジラ自体が、襲ってくることなど滅多にない。
また海面には息継ぎのために上がってくるので、そこを狙って銛を撃ち込むのであって、鮫などの大型魚類には使えない漁法だ。
俺もまさか水棲魔物が相手だと、こんなことになると思わなかった。
だからと言って鮫を獲る魚法など聞いたこともない。
水中での攻撃といえば魚雷だが……
いくらなんでもなあ、あれは推進の方法もそうだが、音の識別やら方向制御やら、電子技術の塊のような物だ。
「なんやタケオ?
なんぞ考えでもあるんか?」
一体俺のどこを見てそんな判定になるんだかだが、聞かれてしまえば答えないわけにもいかない。
「無理だと思うぞ?」と断りを入れて説明をして行く。
根掘り葉掘り、小一時間、絵まで描かされて銛撃ちの説明の再現だ。
ドヤドヤと入り口から足音がやって来る。
「姐さん、こちらでやしたか!」
斥候、短剣使いのスラットが声を上げた。
「ナンバスが気が付きやした!
ポーションなんか使って頂きやして、お礼を言いやす。ありあたぁした」
「さよか、そら良かったやんか。
今日はもう出られへんよって、よう休んどき。
明日はせやなあ、漁具の整備やな」
「整備ってことは、まだ沖へは挑戦なさるんで?」
「そうやでえ。
今ええネタ仕込んだってん。
どないなるか楽しみやなあ!」
俺の話をどう捉えたのか、メグが楽しそうだ。
クレアとメアリ以下4人も合流して、昼飯だか宴会だか分からない騒ぎは夜まで続いた。
・ ・ ・
今日は沖漁リベンジの日だ。
昨日1日、メグはクレアとゴソゴソやっていた。
俺はタクシーをメグたちに持って行かれて、役場で書類漬けだ。
メアリがスワランジーの店に、俺たちの似顔絵が額装で飾られたとか教えてくれたが、息抜きといったらそれくらい。
逃げるに逃げられず、長い1日だったよ。
魚雷の話は聞かれたが、実際にどうしたのか教えちゃくれない。
あの日と同じにゾロゾロと2艘に分かれ、湾口目指して出港だ。
今日も左へ行ってみることになっている。
ボートの配置は俺が操舵室に詰め、舵輪を握る。
今日は曇り空、風が少しあるが荒れてはいない。
波は1メートルを少し超えているだろうか?
湾内でこれだから、外海はもう少し大きな波やうねりがあるだろう。
この程度で出港を見合わせていては海には出られない。
「アックス!
船を重ねたらあかん言うとるやろ!
何やらメグが怒鳴っている。
こっちの船尾と捕鯨船もどきの船首が近かったんだろう。
ああ。
あの隣船を銛撃ち船って呼んでいたら、いつの間にかあれは「モリウチセン」って呼ばれるようになっていたよ。
別に名前に拘りがあるわけでもないが、魚雷が武装に加わってる筈なんだ、その辺りはどうなるんだ?って疑問はあるかな。
この操舵室の操作板にも左右6本の、多分これが発射レバーなんじゃ?ってのが並んでるんだが。
しかし、レバーがあるだけだから、狙いとか距離とかはどうするんだろうか?
なんて考えるうちにも穏やかな航海だ。
左舷に新緑の山並み。
曇り空だから緑が濃く見える。
正面上方に陽が登っているが薄い雲の向こうだ。
見易くって良いといったら贅沢か。
曇ってなければ直射日光と、海面のギラつく反射でまともには正面を向けないところだ。
ポケットに銀色の反射サングラスを入れて来ているが、使わないで済みそうだ。
メグは船尾、クレアは船首で監視に付き、燥ぐステス、ミトア、ラトルをメアリが見ている。
あいつら、ほんと物怖じしないのな。
ザイダルシャークの時は結構怖い思いをしたんじゃないかって、みんな心配してたんだが。
クレアが沖の方、右舷を注視している。
おっと、銛撃ち架台に取り付いたな。
来そうなのか?
隣のモリウチセンでも右舷の警戒が始まったようだ。
今日は波がそこそこ高いんで、この間みたいに海面を動く瘤みたいのは見えないだう。
見えないなら、突き上げや噛みつきが来るまで待ちって事だ。
「タケオ。1番発射や!」
急に後ろから声をかけられて、ビックリして振り向くとそこにはメグ。
「1番って右の前のレバーか?」
「せや、それ引いたって!」
なんか分からんが言われた通りレバーを引く。
何かズンと船体に軽い振動が走る。
だがそれだけだ。
架台ではクレアが何やら真剣に、何も見えない海面に銛を向け狙いを変えている。
一体何を見ているんだ?
突然右舷、30メートル強で水柱が上がる。
特に爆発音のようなものもなく、ただブシャッと。
「さあ、こっからや!」
水柱の辺りで何か大きなものが……
なんだあれは?
水棲のトカゲ?
まだ生きているようで大きな顎が海水を噛む。
そこへクレアの銛が飛ぶ。
こちらも大きな音などない。
軽い発射音とワイヤーを引いて行くシュルシュル音だけだ。
戦争の動画でメグが「あない喧しいて!」と言っていた意味が分かるような気がした。
これだけの立ち回りがあって、ほとんど音がしないんだから。
「クレア!
これで終いか!?」
手をヒラヒラ振り返すクレア。
「終いみたいや。
どや?」
こいつ、説明はしてくれないのに、俺に感想を振る気か?
それでも渋るメグから聞き出せたのは、まず左右の舷側、水中に発射管が3本ずつ、後ろ向きで発射するように並んでいる事。
爆発はしないので名前は魚雷ではない。
大雑把にはクレアの狙いに合わせて向きを変えて行く事、その後はある程度近付けば魔石を探して自分で向かって行く事。
当たると先端から圧縮空気を送り込んで風船にしてしまう事。
そして動力は5ミリ魔石1個、無ければ1センチ魔石まで押し込めるが、基本、外れれば回収はできず使い捨てになる。
他は魔法少女の秘密で逃げられた。
「小粒魔石はこの間手に入ったよってなあ、そう無駄にせんでもええやろ。
小粒でも3回は行けるでえ?」
気をよくした俺たちは船首を沖に向ける。
そう陸から遠くに離れるつもりはないが、本格的に試したいってのは人情だろう。
少し沖へ行くだけでクレアが忙しい。
周囲をキョロキョロ見回して、どれにしようか迷ってる様子だったが、
「ドリック!
右舷前寄りに3つ!
こっちは左舷の5つ行くよ!」
左舷後方に位置していたモリウチセンが右へ舵を切る。
魚雷(仮)は6本だ。
相手は5匹、さっき1本撃ってしまったから外せないんじゃ?
クレアの手合図で舵はそのまま。
「4番から6番発射や!」
そんなに一遍に撃って魔石ホーミングは大丈夫なのか?と思ったが、とにかく発射だ、レバー3本を一気に引く。
「次や、1番2番発射!」
え?1番はさっき撃ったぞ?
見ると1番のレバーが戻っている。
ここには俺だけで誰も操作板に触ってはいない。
メグの顔を見ると
「再装填は出来とるんや、早う引かんかい!」
うへ!
怒られちまったぞ!
勝手に再装填とかやってるのか。
それなら先に言っとけよ。
2本のレバーを引いて、左を見るとさっき引いた3本は元の位置に戻っていた。
10時方向20メートルで3本の水柱が上がる。
遅れて2本。
浮き上がったのはザイダルシャーク、2センチ魔石の水棲魔物だ。
1番生きの良さそうな暴れてるやつにクレアの銛が撃ち込まれ、大人しいのはメグの水網で引き上げる。
俺も槍を持ち出し止めを手伝うとしよう。
そう思って操舵室を出たんだがメグに追い払われてしまった。
ここの取り分はステスに譲るんだとか。
メグが水網で甲板に固定してるけど、皮が厚いし硬いしで急所が深い。
ステスは苦労していたよ。
そしてもう1艘、モリウチセン。
こちらも3つの魚風船が右舷に浮いている。
それに向けて右舷船尾の銛撃ち2門が撃ち込まれて、今引き寄せ途上だった。
見ている間に船首を左に振って、左舷の銛も撃ち込もうかと言うところだな。
あのビグホエールやまだ見ていない水棲魔物もいるから、これで万全とは行かないだろうが、ドリック達で狩れるんなら沖の漁もやれるだろう。




