表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
193/218

魔魚狩り

 俺たちは今日も、捕鯨船もどき(モリウチセン)とイブちゃんボートの2艘で沖へ出ている。


 半島沿海の範囲だが、外海となると広いので、どの辺りで群れを捕まえられるか分からないが、当たれば魚群が大きい。


 とは言え大型漁船2艘分の船倉を一杯にするほどの漁獲は、なかなか難しいようだ。


 沖へ出始めて今日で5日目。


 お目当ての魔魚とは6回ほどの遭遇に留まっていて、大きさも精々1メートルクラス、メグの水網で対処が可能だがいきなり飛んでくるんだ、それには何か対策が要るだろうな。


 あの推定30メートルクラスのビグホエールは、やはりたまたまだったんだろう。


 そんな緩んだ船上ではあるが、まだまだこの海域に何が棲むか、分かりはしない。


 不幸な出逢いがあるとも限らないが為の、2艘による掃海漁だ。


 湾を出て右、西へはサースルカタル城砦の沖まで降ってみた。


 今日は南東の海沿いをもう少し先まで行ってみようか。


    ・   ・   ・


 早朝に出港したとは言え、陽はある程度昇っている。

 朝凪の時間はとっくに過ぎて風は海風、陸地へ向かってそよと吹く。

 海面は穏やかで、映る空の白い雲がはっきりと見て取れる。

 半島に密生する木々は初夏の陽射しを浴びて新緑が萌える。


「今日はポカポカ陽気ですね♪」

 ステス、ミトアが広い甲板を駆け回るのを横目に、メアリも機嫌良さげだ。


 今日はメグが操舵室に詰めていて、クレアは舳先(へさき)に陣取って海を見ているのが銛撃ち架台越しに見える。


 水流を先端で吸い込むように後ろへ流す水魔法推進だから、掻き分けることで起きる波はごく小さいが、それでも穏やかな海面を裂くように進む舳先は、眺めていてもまた趣きが違う。

 俺も見たがあの場所の眺めはいい。


 特に何があるとも思わないが、なんとなく船首へ行って、

「クレア、どうだ?」


 クレアはすぐに返事をしない。

 見上げると眉尻を下げて困惑の表情だ。


「どうかしたのか?」


「うん……

 水の中の気配って、分かりにくいんだ。

 さっきからなんか引っかかる……」


 俺は操舵室を振り返ると、

「メグ!

 警笛鳴らしてくれ、警戒!」

 と叫ぶ。


 パアーーァァアンと間の抜けたような音がだだっ広い海原に虚しく響く。

 それでもドリック達の乗る捕鯨船もどき(モリウチセン)の上は、慌ただしい動きがあって舷側に監視が出たり、銛撃ちに人が張り付く様子が見えた。


 こちらでもメアリが、ステス以下3人を集めている。


 クレアのおかしいは、高確率で何かの前兆だ。


 警戒態勢のまま15分程も経ったろうか。

 段々と痺れの切れて来た頃、クレアが船首の銛撃ちに取り付く。


「何か来るよ!」


 クレアが軽くはない銛撃ち架台を一人で右舷に向ける。

 捕鯨船から、

「右だ!

 右を警戒!」とアックスの声。


 クレアの動きを注視してたらしいが、そこはドリックが言うところじゃないのか?


 イブちゃんボートが先行し右舷後方から捕鯨船もどき(モリウチセン)が続く。

 並んでしまうと、こっちの船首の銛が十全に使えないのでこの隊形だ。

 逆に向こうも銛撃ち架台は船尾にしか無い。


 右舷数10メートル先の海面がざわつきを見せる頃には3門がその辺りに向いていた。


「まだ撃つんじゃねえぞ!

 見えてからだ!」

 ドリックが怒鳴る。

 そりゃそうだ、銛は撃ってしまえば回収から再装填まで、準備に30分以上は掛かる。


 だが海面が波打つだけで姿が見えないまま、突然捕鯨船の舳先(へさき)が跳ね上がる。

 大きな水音以外にこれといった前兆は無かった。

 下へ潜り込んだんだろう。


 操舵室の囲いの中にいたナンバスは転落を免れたが、他の5人は海へ転落してしまった。


 配った救命胴衣が役に立って、船が元の姿勢に戻る頃には荒れる波間に5人が浮かぶ。


 見えた片端から宙を飛んでこちらのボートの甲板に転がったのは、メグの水魔法だろう。

 かろうじてドリックが上体を起こすが、他は転がされたまま。


 そして捕鯨船の揺れる船上、操舵室にはグッタリと舵輪に凭れるナンバスが見えていいた。


 そこへこちらにも下からの突き上げが襲う。

 

 ダアンと大きな音と共に、小さくはないボートが傾いで宙に浮いた。


 そのまま海面に叩きつけられ……

 あれ?

 俺は甲板に座り込んだ格好、他を見ると寝転んだのやら同じように座った姿勢の者やら。


 周囲の景色は上下に揺れているが、妙に静かな船上。

 だと言うのに俺は揺れを感じていない。

 

 何が起きている?


 改めて見てみると、ボートは白っぽい大きな半球形の泡の中だ。

 

 これは防御結界か?

 最近は半径が10メートルと言ってたから、このボートがすっぽり入る?

 それを狙ってのボートのサイズだったのか?

 しかし、ブルータイラント狩りで結界が発動した時にも、見えるなんてことはなかったんだが。


 海面には大きなうねりがあってその上で上下に動く。

 外界から隔離されたかのように静かだ。


 隣の捕鯨船もどき(モリウチセン)も同じように見えるが、あちらは泡の外に浮いていて、波を被ったようで舷側から水を撒き散らしている。

 ナンバスの腕が1本、舵輪に掛かってグッタリと見えていて、動く様子もない。


 襲って来たやつはどうなった?


「酷い突き上げだったよ、海に落ちるかと思った!」


「思った通りや。

 イブちゃんの結界は頼りになるでえ!」


「メグの姐さん、ナンバスが動いてやせん!

 どうにかなりませんかい?」

 アックスが操舵室に縋るようにして捕鯨船を指差す。


 ここでなんとかしてくれそうな者はメグしかいない。

 だが。


「クレア、どうや?

 どこに()る?」

 メグは襲って来た相手がどうなったかを気にしている。

 その判断は俺も賛成だ。


「今は分からない。

 痛い思いはしたんじゃない?

 でも別のっぽいのが周りを回ってる」


「なんや、別のって。

 大きいんか?」


「さっきのよりは小さいんじゃないかなあ、3つか4つか」


「そないにか!」


「あ、なんか寄って来たかな」


 今度はいきなりだった。

 隣に浮く捕鯨船の、船尾辺りで海面が噴き上がる。

 白い波飛沫の向こうに見えた黒い物、黄色く禍々しい歯列。

 クレア特製の船体が美味いとは思えないんだが、そいつは噛みつきに来たようだ。


 弾け飛ぶ数枚の薄黄色い歯。

 俺の手のひらよりも大きそうな歯板が、虚しく海面に吸い込まれる。

 ナンバス一人が乗った捕鯨船は船尾を叩かれ、大きく(かし)いだ。


「クレア、これ、あかんのとちゃうか!

 いっぺん仕切り直しや!」


 イブちゃんボートは急加速で走り出した。


「姐さん、ナンバス!」

「連れてくよって心配すな!」


 アックスが後ろを振り向く。

 そこにはなんの綱もないのに後ろへピッタリと付いて疾る捕鯨船(モリウチセン)があった。


 操舵室の囲いに見えているのは動きのない腕一本。

 果たして頬の傷を撫でて笑うナンバスの顔を再び拝めるのか?

 そんな想いを振り切るようにイブちゃんボートは疾る。


「追ってくる!」

 そう言ってクレアが後ろ振り返る。


「さっきの奴ら!速い!」

 クレアが右の腕環を掲げ、ボートは速度を上げる。


 これで引き離せる、そう思ったのも束の間だった。


 後方に4つの海面の膨らみが、こちらが起こす航跡の波間に見え隠れする。


「姐さん、あれがさっきの奴ですかい?

 しつっこい奴で。

 何狙ってるんでやしょう?」


「そんなもん分かるかいな!

 海面近くに()るんやったらアレ行けるかあ!?」


 メグはピンクの杖(プリプリバトン)を、操舵室の中で前方へと突き出した。


 前方に黒雲が集まり始め、その下へと船は疾走して行く。

 後方には相変わらず4つの海面の瘤が追従している。


「頃合いや!」

 前方の海面から細く白い紐状の水が空へと昇る。

 午前の陽光の中でもキラキラ光って見える、あの場所がメグの用意した狩場だ。


 黒雲は更に広く高くなって行く。

 近づいて行くのでそう見えるだけではない、周囲に渦を巻くように成長して行くのが見ていて分かるんだ。

 ついにはチラチラと稲光を纏い始める。


 その電光がパリパリと危うい光を投げかけてくる中を、俺たちは矢のように通り過ぎた。

 次の瞬間。

 甲板に影が焼き付くほどの閃光。

 ゴウと後ろから爆風が襲う。


 メグの雷魔法が発動したんだ!

 海面に落ちた雷はその場の表面の水を一瞬に沸騰させ、一瞬に海全体へと電荷を拡散させてしまう。


 だがその真下。

 水面にごく近いところにいた4頭の魔物は。


 強烈な電撃で体液を沸騰させて、パンパンに膨らんだ風船と化した。


「こないに膨らんでもうてはザイダルシャークやら言うたかて、形無しやん!

 魔物名鑑には「海のオーガ」やて書いてあったんやけどなあ!」


 ボートの上に水網で引き上げられ、水刃魔法で腹を割かれて初めて元の形を取り戻した。

 人間3人分もの大きな体躯、重さも3、4百キロはあるだろう。

 皮は鮫皮特有の、ヤスリのようなザリザリとした物で、同じような進化が起きる物だなと思ったよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ