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ガラス工芸品店

「鉱山の恩人や言うんにガンツのオッサンやらなんちゅう扱いや」


 今これを聞いた人はちょっと意味が分からないでしょう。


 5日前、襲来したラププテラー3頭をメグさんがお得意の雷魔法で仕留めたんです。

 ただその後始末が当時あたしたちが滞在していた、ガンツさんのギグスクル鉱山に回ってしまったのです。

 多くの問い合わせや損害の補償、山火事の始末書、そのほか諸々と言った雑用がガンツさんに降りかかることになりました。


 ゴースト対策で資金を調達して、同じく銀魔法石で小瓶を作ったことから新しい鉱脈の発見につながったなどと、ある程度の功績を上げたあたしたちでしたが、鉱山再開と引き換えにして先ほどの雑用の処理に4日も要してしまいました


 それでギグスクル鉱山番所を、めでたく?追い出されたのでした。


「ちょーっとやりすぎちゃっただけよねえ」


「クレア。メグを甘やかすのはやめてくれ。

 少し反省してもらわんと次もこうでは敵わん」

 怒った口調はタケオさんです。


 今イブちゃんパーティはテオドラ帝国を一路西へと進んでいます。

 聞いた話では帝都テオドンがこの先にあるんだとか。

 そこまでいくつもの街を通っていくことになるんでしょう。


 クレアさんが優しいのは、鉱山での収支が黒字だったから。

 ガンツさんがあちこち走り回って始末をつける間、表に出られないあたし達は『聖水』を作り続けていました。


 その数は4700個で、売り上げが回収できたのは1400個相当です。

 残りは何年か掛けて売られるそうで、その売り上げは商業ギルド口座に、振り込まれることになっています。

 こちらは明らかな黒字。


 もう一つの収支はラププテラー。

 こちらは使った魔石6400ギル、魔物素材の買取で27万ギル、ところが近隣の迷惑補償その他がほぼこれと同額かかってしまったので、実質3セロト(cm)魔石3個分の赤字になりました。


 そんなこともあってメグさんは面白くないのかもしれません。


 イブちゃんタクシーは追われるようにアクトベル街道を西へ移動しています。


 テオドラ帝国の街はどこも城塞都市のようです。

 防壁の外に住んでいる人もたくさんいるようですが、やはり囲まれた中で生活すると言うのは安心なのでしょうか?


 今見えている街の防壁は、自然の巨岩を突き並べたような荒々しい外観で、どの岩にも縦に縞模様が走っています。

 ひとつひとつの高さも揃っていないので、尚の事荒々しいと感じるのでしょう。


 街道から右に枝分かれした道が、大岩に空いた穴へと吸い込まれています。


「ごっつい城壁やなあ。

 あれ、多分魔法で出したやつやで。

 岩の(めえ)が縦に揃っとるやろ?

 術者の癖みたいなもんがああ言うとこに出るんや。

 魔力ゴリ押しやさかいそうそうでけることやない、これだけ並べるんに何年かかったんやろなあ」


 魔法でこんなの出しちゃったんですか?

 それならもっと上を揃えるとか、見栄えを気にしても良いのでは?

 野趣に溢れると言えば聞こえは良いでしょうが、

「いろいろ不便がありそうな城壁ですね」


「余程気に入ったんだろうさ、ひとそれぞれだよ」


 感想を言ったらタケオさんに(たしな)められちゃいました。


 イブちゃんは街に寄るようです。

 ここまで索敵に反応らしい反応はありません。


 城門は幅の広い岩のトンネル、イブちゃんよりトンネルが長いのは確かです。

 出口の上半分に鉄格子が見えているので、何かの時にきっとあれを下すのでしょう。


 抜けたところに衛兵さんの鎧姿が見えます。

 ゼレンシアにも城門はありましたから、国が違ってもあまり変わりはないんだなあと思いました。


「このワイトクーグルはガラス加工で有名な街だ。土産に進物に最適だからよく見ていってもらいたい」

 って、なんで衛兵さんが宣伝みたいなことやってるの?


 変わった街です。

 通行料を人数分、700ギル徴収されました。

 帝国の通行料はどこもお高めです。


 その先は3つに分かれる大通り。

 どの道も賑やかそうです。

 イブちゃんは左の道へ進んでいきます。


 窓から店を見て行くと、間口の狭いガラス張りの扉と腰高の窓が並び、窓からは宝飾品や色鮮やかな織物が見えています。


 値段の高そうな物なのでああ言う飾り方をしてるんだろうって、タケオさんが教えてくれました。

 ほんとに中身はおじいさんなんですね。


「お!そこはどうや?

 ガラスの大きいのんがようさん並んでるようや。

 アクトベルやったらひと財産やなあ」


 メグさんの言うとおり美しいガラスの工芸品が大きいもの小さいもの、色も何色もあって見て行くのも面白そうです。


 イブちゃんは店の前に寄せて停まりました。


 みんなが出てタケオさんがイブちゃんにロックをかけます。

 クレアさんがその間周囲を警戒している様子。

 こんな人通りのある街の中で何を警戒してるんでしょう。

 でもあたしは早くお店の中を見たい!


 小さなものならあたしにも買えるでしょうか?


 メグさんが先頭で店に入ります。

 そこには真っ赤な木の葉の形をしたガラスのオブジェ。

 大きさと言い色と言い、ひどく目を惹きました。


 使い道なんかまるでわかりませんが存在感って言うんですか?それがすごい!

 葉っぱの葉脈なんかは薄い白い線で表現されていて、表面は緩い一枚の曲面になっています。


 こんな素晴らしいものをお部屋に飾る人ってどんな人なんでしょう?


「メアリ、これ可愛い!」


 ミトアとラトルが棚に並ぶ小さな細工にはしゃぎます。


 そばに行って見ると親指の先くらいのほんとに小さな花を形どった細工でした。

 色、形を変えていくつも並んでいます。

 ミトアが指すのはピンク色の花。

 ラトルは水色と青の花。

 裏返すと銀色のピンが付いていて、服に留められるらしいです。


 値段は……

 数字を見るとあたしの出せるお金よりも桁が一つ大きい……


「あら、それ可愛い!

 なに?ミトアとラトル、欲しいの?

 どれが良いのかな?」


 クレアさんが言ってくれるけど、こんな高いものを買えるわけないので、あたしは二人の手を引きました。

 でもミトアもラトルも動かなくて。


「メアリ、気にしなくて良いのよ。

 ここはあたしに任せなさい!」


 クレアさんが店員を呼んでさっさ会計してしまいます。

 欲しい花の飾りをそれぞれ持って、ミトアとラトルは喜んでいました。


 入り口を見るとステスがつまらなさそうにしています。


「どうしたの?」

「こんな店つまらない!」

「男の子だものね、そうかもしれない。

 でも綺麗な細工もあるのよ?

 見るだけでも見ておいたら?

 そうそう見られる物じゃないんだし」

「うん、じゃあちょっとだけ…」


 機嫌直してくれるかなあ?


 あらこれ!トリ騎士が乗るクズリ、飛べないけど足の速い鳥。

 あちこち丸まって可愛くなってるけど、ちゃんとクズリって分かる。

 手のひら一つほどの小さな置き物。

 こんな何色もどうやって塗り分けたのかしら?


「それ気に入ったんか?

 買うたらええよ、払いはクレアやってん」


「えっ、ほんとにいいんですか?」


 ふと見るとこの値札も桁が二つ多い!


「メアリはこう言うのが良いのか!

 なかなか可愛いよね!

 ようし!

 これ下さい!」


 買われてしまった……あんな高いもの……


「すっげえ!」

 と、そこへステスの声です。


 通路を奥へ行くと大きな黒い盾の前で、撫で回したり興奮しています。

 黒無地の上が三角に尖った、確かカイト型とか言う大きな盾でした。

 銀色の縁取りの他は真ん中に見たことない銀の紋様が、8個縦並びに描かれています。


 でもガラスの盾?


「はっはっは、男の子はこう言うのが良いですか。

 店の人なのか上等な生地、仕立てものと分かるかっちりした縫製の衣服を着て、ニコニコ笑ってらしてます。


「名前は?」

「ステス!」

「ほう、元気がいい。

 この盾は耐衝撃、と言っても分からんか、そうだな、殴っても切っても簡単には壊れない、そう言う盾だよ」


「ガラスなのに?

 パリンって割れない?」

「ああ。滅多なことでは割れない。

 そう言う付与もかかっているんだけど、これはガラスに見えてガラスじゃないんだ」


「じゃあ何なの?」

「魔法石。石なんだ。

 石も割れるけどガラスよりもずっと丈夫だからね」

「そうなんだ!

 魔法にも強い?」

「はっはっは、いいところを突くね」


 この頃にはメグさん、クレアさん、タケオさんがここに集まっていました。

 ミトアとラトルも近くで商品を見ています。


「魔法を受けるのはこの盾だけだとちょっと難しい。

 軽い魔法なら問題ないんだけどね?

 ここに並んでる8個の模様。

 これが魔法を弾いてくれる。

 持ち手の魔力にも依るんだけど、大抵の魔法は弾けるはずだ」


 魔法を弾くと言う8個の紋様、ですか。


 その紋様はクレアさんがスマホで何枚か撮影してました。


 良いのかな?

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