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ガラス工房

 ワイトクーグルと言うテオドラ帝国の城塞都市。

 その中の大通りにある一軒のガラス工芸品店で、工房を紹介してもらった。

 そこにあった黒い盾に興味を持ったのだ。


 盾については店の者が説明をしてくれた。

 だがそれだけじゃない。

 近くの台に載って置かれていた透き通った槍。

 長さは3メートル少々、全てが無色で透明。

 ただ精緻な彫刻や刃先の面の傾きなどで反射や屈折が変わって、背景の中に浮き出すように(おぼろ)な全体が見える。


 あれは美術品だったのかもしれない。

 重量も相当ありそうで、俺には向かないのかもしれない。

 だが盾に施された8個の紋様とよく似たものが、柄に彫り込まれているのを俺は見てしまった。

 あれは魔法をどうかできる槍だ。


 盾を作ったと言う工房は先代が亡くなって、もうあれほどのものは作れないと聞いた。


「地図によるとその先かな、左です」


 荷車を曳いたタクシーで細い路地を縫うように走る。

 曲がり角では難儀することもあるが、おれには問題ない。古い城下町なんかじゃよくあることだ。


「メグさん、あそこに看板があります。

 これで合ってます?」


「ええようやで、キンスローガラス工房」


 そう言ってメグがそのまま戸口へ向かうと、軽いノックをした。

 俺達も後ろに続く。


 中から「ちょっと待ってー」

 それに何か片付けてるのか、ガタガタと音が続く。


 やや間は空いたが戸口が開き

「いらっしゃいませ」


 出てきたのは腕の太い濃茶のエプロン、帆布ズボンの女だった。

 短く刈った黒髪、茶色の瞳、浅黒い肌。


 大きな胸が揺れていなければ男で通る、そんな風貌。


「あたしはスレンダ、ここの店主さ。

 ご用向きは?」


「わたしたちは表通りの工芸品店のご紹介で伺いました。

 こちらを見せるようにと言い遣っております」


 出たっ!他所行きメグ!

 しばらく見なかったのに!


 メグが見せたのはここまでの道順として渡された地図。


「ふうん?

 それで?」


「あの店で黒い盾と透明な槍を見ました。

 体格や魔力の問題があってあのままで使うことはできません。

 こちらのタケオ、ステスに合わせたものを注文したいのですが」


「ああ、どっちも小柄だねえ。

 それじゃあれは合わないだろうね。

 でもね、先代が亡くなってあれはもう作れないんだ。

 特に魔法紋がね」


「魔法紋と言いますとあの8個並んでいた紋様ですね?

 魔法を弾く力があると伺いました」


「うーん、弾くか。

 盾のはそれに特化してるねえ。

 槍は突き抜くんだ。防御で色んな魔法を張っていてもね。

 他にも色々あったんだが、ね」


「それはすごいですね、実は私たちも簡単な魔道具は作ったりするんです。

 これを見てもらって良いですか?」


 何を始めるんだと見ている中、メグが出したのは1セロト(cm)魔石を魔力変換する小道具。


「なんだい?

 ここ、魔石が嵌まるようになってるのかい?

 ふうん?」


「それは手に握り込んで、魔石の魔力を全て自分の魔力として解放する道具です。

 構造は簡単ですけど」


「へえ?

 それだと魔石は1回で使い切りかい?

 じっくり使えば長く使えるのに、勿体無いんじゃないの?」


「そうですね。

 通常の灯りや煮炊きの魔道具はその方向ですよね。

 と言うかそれ以外、私は見たことがありません」

 そこでメグは言葉を切った。


 頷くスレンダに、

「これを握ると爆発するような魔力を扱えます。

 炎は業火となり殆どのものを焼き尽くす威力をもつでしょうし、風は暴風となり全てを吹き飛ばすでしょう。

 私は水魔法なので津波のような大量の水も呼べます。

 迷惑ですからやりませんけど」


 おいおい、3セロト魔石5個を一気に消費してみせた暴風嵐娘がなんか言ってるぞ!?


「そんなやり方は聞いたこともない!

 だがそうだな……増幅は銀魔法石ができるが持続時間は短くなる。

 だから使いでがないんだ。

 それを増幅どころじゃない魔力を使う……か。

 時間を伸ばす使い方はできるのか?」


「今のところできません。僅かの間に一気に全て放出してしまいます」


「爺ちゃん、父ちゃんの遺産、魔法紋をそれに組み合わせるってかい。

 あれは魔力の方向を一定の役割を果たすように曲げてやるものなんだ。

 だが、人によって向き不向きはあるんだ。

 どんな者の魔力でも望んだ結果が得られるわけじゃない」


 メグは何も言わない。

 魔法紋の技術がどれほどのものか、吐き出させようってのか?


「ふう。

 ほんとは門外不出って言われてるんだけどね。

 ここの主人はあたいだし、まあいいか」


 スレンダは奥に下がると1帖の古文書らしいものを持ってきた。


「みんな狭いとこだが中へ入っとくれ。

 誰にでも見せるものじゃないんだ」


 応接テーブルの上にその書き付け束を広げる。

「紋自体の形っていうか、デザインなんだがそれは残っているんだ」


 紋の組み合わせは全て8個単位。

 どれも似たように見えるんだが、

「ここのが魔法を弾くやつ、次が火魔法の向きを変えるやつ。

 おんなじやり方でこれは風、こっちは水の向きを変えられる。

 これは防御を突き抜くやつだな。

 使えるのはここまで。

 あとはジャンク、お試し中ってやつさ」


「これがあれば同じものが作れるんじゃないですか?」


「それがね、そうもいかないのさ。

 定着って分かるかい?

 それをやらないとただ同じに描いて、同じに彫っても効果が出ないのさ。

 そこのところが失伝しちまったんだ。

 頭の痛い話さね」


 定着、ねえ。

 試しに思いつきを一つ言ってみる。

「何か薬品を塗るとか?

 彫って効果が出てるから先にやるんじゃないと思うが」


「彫って、描いての後で何かするってかい?

 さあてどうだったかねえ」


「出来上がったものはありますか?

 古いものとか。

 それを見て手がかりがあれば、分かるかもしれません」


「幾つもあるよ。

 それこそ試作品からね。

 あたいも鑑定持ってるからやってみたんだよ、なんか分かるかなって」


 鑑定持ちか。

 それで分からないとなると余り期待は持てないか?


 案内された奥の倉庫の片隅に試作品らしい小品が並ぶ。

 店に置いているものも何点か持ち込んでくれた。

 

 早速メグとクレアがそれを矯つ眇めつ吟味する。

 スレンダはガラス工房へ戻った。


 メアリはクレアの補助、ステスはメグの補助、俺はチビ2人の子守りだ。

 この工房は触ると危なそうな物だらけだからな。


 幾つか取っ替え引っ替えしてメグが言う。

「うー、さっぱり分からんなあ。

 後からなんぞしたんやったら、なんや残っとってもええはずやに」


「あたしの方もさっぱりだわ。

 銀の鉱物は分かるけど、その上になんかあるような気はしないわね」


「クレアさん、こっちはどうですか。

 だいぶ古そうですけど」


 メアリが次の小品を渡すと、

「うわ、埃被っちゃってる。

 あー、こびり付いてるじゃない。

 水拭きしてみようか?」


「はい、汲んできます」


 水汲みに行ったメアリにスレンダが付いて戻って来た。

 古い小品は見ていないのもあったはずと言って。


 スレンダは鑑定魔法が使える。

 水でほぐし、拭った後の魔法紋をじっくり見て行き、

「古いのは鉱物が少しだけど、薄くなってるかなあ。

 効果は間違いなく付与されてるさ」


「あの、効果ってどんなふうに見えるんですか?」

 メアリがスレンダに聞いた。


「なんて言ったら分かるかな?

 これだとね、突き抜きの効果なんだけど、ここの刃先に被さるみたいにもう一つ刃が出てるって感じなのさ。

 そんなはっきり見えるわけじゃないんだよ」


「へえ。

 じゃあ鑑定魔法って増幅はできるんですか?」


「えっ!

 それは考えたこともないさねえ、増幅かい……

 銀魔法石があれば試してみたいところさね」


 メアリがクレアを確認する。

 頷くクレアを見て、

「ありますよ、銀魔法石。

 クレアさんがギグスクル鉱山で集めた石です。

 持って来ますね」


 メアリが荷車から持って来た拳大の銀魔法石を見てスレンダの目が光る。


「こ、これはー!

 すごいすごい。増幅5倍なんて初めて見るよ、こんなのよく持ってたね!

 これはいい値段するよ?

 仕入れ値だってこの大きさなら2万ギルは取るだろうさ。

 使ってみていいのかい?」


「どうぞどうぞ」

 メアリが請け合う。

 そこへクレアが被せる。

「なんだったら進呈するよ。

 盾と槍をなんとかするのが条件になるけどね」


 スレンダはちょっと顔を顰めた。

「盾も槍もそんな値の物じゃないよ?」


「ああ、ごめん!

 代金はちゃんと払うよ。

 それは別」


 増幅は魔道具作成で慣れたものと言っていたが、鑑定魔法の増幅はスレンダも初めてだ。


 何度かやり方を変えて、目のありそうなやり方を見つけた。

 それにさらに幾つか工夫を加え、

「おおー。見えるよ。

 タケオが言ったように色なしを薄く塗ってる。

 そこに隠蔽の付与かあ。

 これは分からないよ!」


「色なしってなんだ?」

 俺は我慢できずに聞いた。


「ふふん。

 色なしってのはね、透明な魔法石のことさ。

 ガラスって言われるものは、みんなその魔法石からできてるんだ。

 それで透明なガラスができる。

 そこに色のついた石、なんでもいいわけじゃないんだけど、混ぜて発色させるのさ。

 工房じゃそこらじゅうにゴロゴロしてるからねえ、気がつかなかったよ。

 おまけに隠蔽の付与だもんなあ、知らなきゃ一生分かんなかったろうさ」

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