第23話 因果は巡る
5月12日は20:00頃更新します。
□サンドヴェール 西通り
空を飛翔する旅人へ大量の炎が襲い掛かる。
魔法を放ち振り払いながら、逆の方向から迫りくる土に対処。
それらの隙間を縫うように放たれる即死の斬撃を的確に躱していく。
(しぶてえな)
【盗み屋】の本体は冷静に戦況を見据えていた。
恩寵を暴走させたため、【盗み屋】は炎と土の現象の細やかな制御はできない。
しかし、【天輪眼】と【未来視の魔眼】を同時に行使することにより、予測不可能なはずの現象の未来を完全に掌握。
自身はその無差別攻撃に巻き込まれないように立ち回り、旅人を追い詰めていく。
(だが、明らかに消耗が激しくなった)
暴力的な現象による出力の差を旅人は強引に押し付けられていた。
魔力の消耗は増え、精神的な圧は増していく。
加えて、合間に差し込まれる光の恩寵による探り。
(ダメージがでない程に微小な攻撃すらも全て躱し、迎撃している! 強弱は関係ないんだな)
恩寵を開放することによって戦況は一気に【盗み屋】へと傾いた。
このまま行けば3分とかからずに削り殺せるという確信が男にはあった。
しかし、そこまで時間をかけるつもりもなかった。
(まさか、ガラムがやられるとはな……)
先程の放送を受け【盗み屋】は自身に残された時間が少ないことを悟っていた。
ガラムは捕縛され、ブランが生きていることからダケッドも何らかのイレギュラーに見舞われたことが確定した。
加えて、恩寵による現象を行使しているというのに街の中で暴れているはずの分身体4人も一向に加勢に来ない。
【盗み屋】は軽く空を見上げ……遥か遠くの上空で大規模な爆発が連続して起きるのを見た。
(魔導師級、だな。おそらく、この旅人と同種の類か。運がねえなぁ)
故に【盗み屋】はタイミングを待っていた。
(──来た)
そして、それは間もなく訪れた。
旅人が先ほど炎を迎撃するために使用したのは《暗黒放射》。
そして、現在使用したのが《呪光》。
ジョブの奥義に該当するこれらは他のスキルと比べてスキルの威力補正が高い傾向にある。
そして、旅人はこれら2つのスキルの使用権限を行使し魔法を放った。
つまり、これよりクールタイムがあけるまでの数十秒間、旅人の火力は通常時に比べればわずかに下がることを意味している。
【天輪眼】によって旅人のジョブ構成を完璧に掌握しているからこその、詰め筋。
「《光あれ》」
暴走した恩寵にタイミングを合わせ剣を振るい、斬撃を放つ。
更に前々から準備をしていた恩寵を行使し大規模な現象を引き起こした。
「全方向からの飽和攻撃だぁ! 捌ききれるかぁ!?」
大地から隆起した巨大な土塊が。
覆い尽くさんと迫る炎が。
背後から迫りくる斬撃が。
頭上から降り注ぐ膨大な量の光が。
ただ1人目掛け同時に放たれる。
(気づいたか! そうだ、その光は迎撃できない!)
それは、周囲にいる光の微精霊に働きかけ魔法現象の性質を変化させたもの。
疑似的な魔力操作すらも可能にするそれを用い、魔法的な攻撃力を一切持たない光属性による飽和攻撃を放ったのだ。
本来であれば何の意味もない。
しかし、この場合は違う。
(当たれば終わりなんだろ? だったらわざわざ実体を用意してやる必要もねえ!)
魔法で迎撃されるのであれば、迎撃されないように調整をすればいい。
(さあ! 何を選ぶ! 焼き殺されるか? 質量に潰されるか! 斬り刻まれて死ぬか! それとも……)
旅人は僅かに逡巡し、次の瞬間空へと勢いよく突き進んだ。
選んだのは、光。
「《武具切替》」
瞬間、旅人の装備が切り替わる。
(対策装備! やっぱ用意してやがったか!)
【盗み屋】は旅人のことを正当に評価していた。
光が弱点と気づいた時から、何らかの対抗手段を用意している可能性は当然考慮していた。
それはきっと、光そのものを吸収し防ぐような装備だろうと予測もしていた。
(だが、だがだ。この規模の光を防げるか? できねえだろ! できるわけねえさ!)
その上で放ったのは広範囲の光による飽和攻撃だ。
準備に少々時間がかかったものの、その甲斐もありこれまでで最大の規模の現象を引き起こした。
その狙いは圧倒的な光量を放つことにより、吸収効率を超過させるためのもの。
(さあ、何を用意しやがった! 剣ってことは、黒蝕蟲の甲殻か? 月光斑の牙か? だが、関係ねえ!)
この光を防げる武装は存在しない。
この光を防げる防具は存在しない。
いかなる装備を用いようと必ず取りこぼしが発生する。
【盗み屋】の中にある膨大な量の戦闘経験が。
装備に対する知識が。
それを確信へと変え……
(これで詰み……)
気づく。
(な、に?)
【天輪眼】はその剣に秘められた圧倒的な情報量の解析に取り掛かっていた。
そしてわかったのは光の吸収などという低次元の話ではないこと。
ありとあらゆる【光】という概念を喰らう武装。
吸収した光を放つ災厄を象ったスキル。
光を喰らい災厄をもたらす剣。
その剣が有する圧倒的なまでの格が示す事実。
「超越装備、だぁ!?」
思考が駆け巡る。
(超越種の討伐、ありえない。災片か! 俺ですら入手したことねえのに、こいつが? ふざけるな、どこだ。なんだ、光を喰らうだと! そんな、都合のいい武器が!)
【天輪眼】による解析が終わる。
(<ディザスター・ヴォルフ>! 進化元は……)
ありとあらゆる光を喰らい魔力へと変換する頂上の怪物の欠片。
その元となった個体の名称を見て。
「<ナイトウルフ>、だと……?」
【盗み屋】は数か月前のことを思いだした。
☆
『面白い個体を見つけたんだ』
ダンジョン都市ネビュラにて定期的に発生する星天の日。
ダンジョンの活性化によって街の周辺に出没するモンスターのレベルが異様に上昇する現象。
その前日に合流した【荒らし屋】は開口一番そう言った。
『下級モンスターの中では比類ないほどの才能値。加えて、強さへの渇望を抱えたやつだ。俺が目をかけたとはいえ、この数日でもう特異種に進化しやがった!』
『<ナイトウルフ>の特異種とか、雑魚じゃねえか』
『そう焦んな。確かに、【マグガルム】程度じゃ到底、ネビュラほどの大都市を陥とすのは無理だろう。だが、その果て……超越に至ればその限りではねえ』
眼を爛々と輝かせ【荒らし屋】は自身の夢を語る。
『俺は、今回あの臆病ながらも誇り高い犬狼に賭けることに決めたんだ。きっとあいつなら超越を成し遂げてくれるに違いない……不服か? 急ごしらえにはなるが上級モンスターを適当に用意してやってもいいが……』
『いや、別にいいさ。あんたの趣味を邪魔する気はねえ』
もし、【荒らし屋】の期待通りに超越が成し遂げられればダンジョン都市ネビュラは未曾有の大災害に突如見舞われることになる。
その隙を付き【死神】の陣を抜け風精霊の恩寵を盗む計画。
うまくいけば儲けもの、自分が費やす労力もコストもない。
移動ついでに立ち寄って、たまたま【荒らし屋】の助力が得られたから実行した。
気まぐれで始まったその計画は、結果だけみれば失敗に終わった。
<ナイトウルフ>の特異種は所詮、下級モンスターの変異種止まり。
死ぬ直前に超越を成し遂げんと力を振り絞り、何も成すことなく命を散らした。
実につまらない、とても退屈で、予見された結果だ。
そう、それで終わり……
☆
では、なかった。
「あ゛──……」
確かに、いた。
あの時、あの場所に。
「……てめえ、ら」
超越を成し遂げんとする<ナイトウルフ>の特異種が。
そして、その雑魚と戦っていたであろう存在が。
見てはいない、見る価値すらもなかった。
だが、なぜか確信があった。
「あん時の──ッ」
──因果は巡る。
「喰らえ」
【光】という概念を喰らう概念干渉効果を持つ剣が振るわれる。
それだけで、旅人を覆いつくさんと迫った膨大な量の光の現象が上書きされた。
瞬く間にすべての光を喰らい尽くし、一片の取り逃しもなく魔力へと変換されたのだ。
「一体、どこまで! 俺の邪魔をすれば……ッ!」
思いもよらなかっただろう。
過去の、なんてことのない企みが。
どうでもいいと忘れ去った悪意が。
己に跳ね返ってくるなどと。
「ここからは、出し惜しみは無しだ」
旅人へと迫るは暴走した恩寵による土と炎の飽和攻撃。
【盗み屋】が放った無数の斬撃による波状攻撃。
そのことごとくを旅人が放った魔法が一撃で打ち払った。
そう、吸収した光は全て魔力へと変換され……
「ふ、ざけっ……!」
人の道理を外れた怪物に設けられたリソース不足という名の枷を外すに至る。
「こんの、超越装備がああああアアアアアアアッ!?」
合計レベル650の【盗み屋】と合計レベル300程の旅人。
到達階位Ⅲの<アルカナ>によるステータス補正を受けてもなお存在する圧倒的なステータスの差。
じり貧となり、いつ崩れてもおかしくないほどに【盗み屋】に大きく傾いていた天秤が。
「そう喚くなよ。ただの仕様だろうが」
均衡へ。




