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第22話 狂い狂いて狂い咲き

□交易都市サンドヴェール 北区画


 国際指名手配犯【盗み屋】。

 その分身の心境を満たすのは困惑だった。


「ははっはっははああああ!」


 風を身に纏い、周囲に複数の竜巻を発生させながら自身に迫る1人の旅人。


「おい」


「壊れねえ! はええ! 当たんねえええ!」


「おい!」


「……はい? なんだよ。楽しんでんのが見えねえのか? 水差すんじゃねえよ……たく」


 返事と共に旅人は雑に杖を振るう。

 瞬間、無数の風の刃が竜巻から放たれた。

 【盗み屋】の分身は自身に迫りくる攻撃を躱すべく回避行動へと移行。

 目標にギリギリで避けられた風の刃は家屋を瞬時に切り刻み、瓦礫が空へと舞い上がる。

 空に舞い上がった瓦礫は風に粉砕され塵となって消えていく。

 周囲に被害がでないための最低限の気遣いとでもいうように。


「俺が持ってる奴が見えねえのか!」


 【盗み屋】の分身は苛立ちと共に声を荒げた。


「あ、んー。人、だな。15歳、くらいの女の子! 金の角がチャームポイントかな? うん、わかるぞ!」


 旅人の視線の先には、男が1人の少女を雑に担いでいるのが見えていた。

 担がれた少女は誰がどう見ても明らかに攫われそうになっている状況だ。


「だったら、少しは加減ってもんをしたらどうだ!」


「あ、なるほど。確かにそうだ……こら! そこの悪党め! いい加減諦めてその手に担いだお嬢さんを置いていくがいい!」


 旅人は苦しそうな表情をしながらそう叫ぶ。


「待っててね! 今からボクが助けるから! 大丈夫だよ! 安心して!」


 しかし、表情とは裏腹にどこまでも純粋な()()をもってして。




「──さぁ、ぶっ殺ぶっ殺」




 男の周囲から巨大な竜巻が勢いよく【盗み屋】の分身目掛け射出される。

 どこまでも緻密に制御されたそれは一切の無駄な軌道を描かず最短距離で迫る。

 当然、そこに加減といったものは一欠片も存在しなかった。


(なんだこのふざけた野郎は!?)


 竜人国が第3王女エル・メル・アルタ・ヴァルドラーテの偽物を担いだ【盗み屋】の分身は、予定通り街の中央から北区画へと目立つように移動していた。

 接敵した旅人や傭兵を片手間に殺しながら悠々自適に移動していたところを空から突然現れた旅人に急襲されることとなる。

 魔導師級魔法使い。

 それも、【盗み屋】がこれまで殺してきた魔導師級とは比べるべくもない程に異常なまでの精密操作を行使する存在。


(片手じゃ手数が足りねえ!)


 片手に持った剣で迫りくる魔法を迎撃する。

 両手を使うには左腕に担いだ偽物をどこかに置く必要がある、がその隙が無い。

 このイかれた魔法使いは人を巻き込むのを厭わずに攻撃をし続けているのだから。


(ちっ、しゃあねえか……)


 【盗み屋】の分身は空へと偽人形を放り投げた。


「お、本当に離した。回収回収」


 旅人は片手間にそれを回収する。

 小さなつむじ風が少女の身体を包み込み、旅人は一応の安否を確かめるために近づいていく。


「あれ、これ人間じゃなく……」


 魔力の流れの違和感からそれに気づいた、瞬間。


「《盗品爆破(ルートブラスト)》」


 偽人形は【大盗賊】の攻撃スキルによって爆発した。


(……防がれたか)


 爆発の煙が消える。

 そこには自身の周りに風の鎧を展開した男がいた。


「騙し、たのか……」


 旅人は俯きながらわなわなと震えだす。


「あ?」


「俺は、人を巻きこまないように、頑張って! 耐えて! どうにか、助けようってえ! そう思ってたのにぃ!」


 プレイヤーネーム、発光食品。

 その男を一言で表すならば。


「──騙したってのかああああ!」


 狂っていた。


「どの口が言ってやがる!」


「確かにだ! ほんのちょっとしか加減はしなかった! それは認めよう! でも、俺は確かに気を使ったんだ! それは褒めて欲しい!」


「は?」


「その俺の気遣いを、お前はそでにした! 偽物をまるで本物みたいに扱って! 同情を誘うとかさぁ! 人の風上にも置けねえやつだな!」


「てめえに言われたくねえわ!」


「俺をコケにしたことを後悔させてやるうううううう!」


「それが本音か!? 話が通じねえなああああああああああああ!」


 【盗み屋】の分身は逃走ルートの偽装という予定を急遽変更。

 この不確定要素になりうる異分子を排除すべく迎撃へと移った。



□交易都市サンドヴェール 上空


「あひゃっひゃっひゃっひゃ!」


 かぼちゃが1つ弾け飛ぶ。


「爆発爆発!」


 かぼちゃが2つ弾け飛ぶ。


「爆発爆発爆発! 爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発うううううううう!」


 無数のかぼちゃ爆弾が空を瞬く間に覆い尽くしていく。


(な、んだこのイカレ女は!?)


 高速で空を駆ける【盗み屋】の分身を追うように、周囲に無数のかぼちゃ爆弾を従えながら箒に跨った少女は見劣りすることのない速さで追従する。

 【高位魔術師】が奥義、《スペルブースト》で制限を解除した少女に遠慮というものは存在しなかった。


(一定期間経過するごとにHPが減り、なぜか魔法の威力の桁が上がり続けてやがる! あの猫か!)


 少女の帽子にしがみつきながら猫は大きく一鳴きする。


「にゃごーん」


 到達階位Ⅲ【天運の魔猫】ルルド。

 有するスキルは主人のHPを対価に発揮する特殊なバフを13個ある内からランダムで付与するというもの。

 そしてこれらは同一効果の重ね掛けが可能だ。

 ただし、効果適用中使用したHPは回復しない。

 一度の抽選に使用するHPは7.6%であり13回使用する頃には残存HPが2%も残らない諸刃の剣。

 ならばそれを利用しない手はない。


 残存HPが減るほどに魔法の威力が増す火事場装備一式で固めたそれは、旅人の間で魔力暴走ビルドと呼ばれていた。


「あひゃっひゃっひゃっひゃ! あひゃっひゃっひゃっひゃ!」


 魔導都市エルダリオンで街に迷惑をかければアルカが出張ってくることになる。

 そのため、普段は街の上空を高速で飛び回るだけに抑えていた。

 だが、今日はそんな無駄な手加減をする必要がない。

 なぜなら、大義名分がある。

 目の前にいる敵を倒すためなら街を爆破していいという大義名分が。


「クソが!」


 【盗み屋】の分身は剣を高速で振るう。

 無数の斬撃が放たれかぼちゃ爆弾を瞬時に撃ち落とす。

 しかし、魔法使いが前衛と比べて優れている点の一つは手数の多さだ。

 だが、ただの魔導師級程度であればとうに殺せている。

 後手に回らされているのはひとえに、異常なまでに精密で、緻密な魔法行使によるもの。


「死に晒せってんですよおおおおおおお!」


 魔法に狂った少女の叫び声がサンドヴェールの上空に鳴り響いた。



□交易都市サンドヴェール 北東街


「全くもって美しくない。だから彼奴(きやつ)の魔法は嫌いなのだ!」


 男は空を睨みながらそう零す。

 彼にとって魔法で同時に操作可能な数とは、十全に完璧に一切の狂いもなく完全に制御できる数を指す。

 それに比べて上空で暴れ散らかしている少女の魔法のなんと無駄の多いことか。

 魔法を雑に操作するだけでいいのであれば余裕で数百は展開できる。

 だが、それでは()()()()()()には勝てない。

 単純なカタログスペックで勝てない以上、独自の魔法理論を徹底的に突き詰めるべきであり……


「そうは思わなんだ! 人から物を盗む者よ」


「それじゃあただの盗人じゃねえか! 俺は異能狩りだ!」


 激昂と共に放たれた無数の斬撃が周囲の家屋を一瞬で切り刻む。

 呉羽は足場の水を操作し的確に攻撃を捌きながら杖を構えた。


『行くぜ行くぜYEAAAAAAAAAAAAあア!』


「貴様が仕切るな! レヴィラージャ!」


『うっせえくそ主人! 《二重詠唱(デュアルスペル)》!』


 プレイヤーネーム呉羽の<アルカナ>、【沈黙の悪魔】レヴィラージャ。

 左の手のひらに生えた悪魔の口は魔法スキルの発動を代替することが可能であり。


「《()()()》」


『《()()()》』


 《可変詠唱》によって同時に放たれた2つの魔法スキルが……1つに合わさる。


()()()()炎水大渦(フレアボルテックス)》』


 そして、水蒸気爆発を伴いながら世に珍しき燃える水流が世界に顕現した。



□交易都市サンドヴェール 南西区画


「興味ないね」


 【水魔法師】の派生下級職である【霧魔法師】で習得するそれは、ただ霧を広げるだけの魔法スキルだ。

 だが、魔法に狂った少年からすればそれさえあれば十分だった。

 霧という不定形の魔法の性質を変化させることで物質的な強度を持った一撃に変化させていく。


「はあッ!」


 【盗み屋】の分身は魔法を弾きながら剣を振るい霧を弾き飛ばさんとする。

 しかし、一切の効果は見受けられない。


「ちっ!」


 仕切り直すために男は苛立ちながらも霧の中から離脱した。


(あいつはただ霧を広げているだけだ。だというのに、非常に厄介)


 元々は相手の視界を奪うだけの魔法だ。

 何か特殊な効果が付与されているわけでもない。

 本来であれば勢いよく風をぶつければ吹き飛ばせるほどの弱さ。

 しかし、精密に操作されたその魔法は爆発的な風圧をものともせずにその場に残り続ける。

 そして、霧の中に入り込んだ敵対者に対しては物理的な性質へと変化し襲い掛かってくる。

 故に少年は魔力をひたすら注ぎ込み、霧の領域を広げていくだけでいい。


(無視をしてもいいんだが……)


 相手するだけ無駄である。

 そう判断した瞬間、霧は一気に収束し始めた。

 そのまま物理的な形を取り始め、一体の巨大な怪物の姿となる。

 これまで垂れ流し続けた霧を1つに纏め、圧縮し生み出したゴーレムとでも呼ぶべき存在。


「的が小さくなっただけじゃねえか!」


 即座に放たれる無数の斬撃はしかし、霧を捉えることはできず。


(やはりか)


 巨大な怪物は振りかぶることなく無制動によって勢いよく射出される。

 なぜならそれはただの霧だ。

 振りかぶるといった生物的な挙動を取る必要は当然、ない。

 【盗み屋】の分身は即座に躱し……殴られた衝撃で大地が大きく陥没した。


(こい、つ!)


 魔法の性質変化。

 それも気体と固体への変化を一瞬かつ精密に成し遂げる異常。

 一種の芸術と呼べるそれを行使する少年は。


「興味ないね」


 言葉の通り、実に興味の無さそうな眼で敵対者を見据えていた。



 陽動のために街中で暴れるはずであった【盗み屋】の分身達は本来の役目を果たすことができなかった。 

 魔法に狂った者達が立ち塞がったことによる計画のズレは非常に大きい。


 【剛腕】ガラムの討伐。

 【透明射手】ダケッドの撃退。

 そのどちらも、本来であれば実現しえないものであった。


 混乱が大きくなった場合、とある旅人は自身の矜持に従い避難の誘導を優先していた。

 そうなれば【剛腕】を倒せるものはいなくなり、捕縛されることなく逃げおおせることになっただろう。


 とある青年は殺し屋の少年と静かに話し合うのが難しいと判断した時点でクエストへの興味を失っていた。

 そうなれば【透明射手】を撃退できるものはいなくなり、ブランケット商会会長の命は失われていたことだろう。


 彼らのおかげで対抗可能な一部の戦力が己の実益のため気兼ねなく行動することができた。

 すべてが奇跡的に繋がっている。

 それは今もなお続いていた。

 なぜなら、【盗み屋】の分身4体が()()()()()()()()という最悪の事態を免れたからだ。


「あ、ん?」


「なんでいやがりますか?」


「む……!」


「興味ないね」


 瞬間、魔法に狂った者達は遠方で爆発的に膨れ上がった膨大な魔力に気づいた。


(この感覚、精霊ってやつか?)


 発光食品は記憶の彼方から呼び起こす。


(エリシアみてえな感じでいやがりますね?)


 パンプキンは最近よく手合わせをする少女の顔を思い出す。


(ふむ、なるほど)


 呉羽は1つの納得を得る。


(興味あるね)


 雲の糸は最近知ったものよりもはるかに大きい現象の行使に興味を持った。


(な、んだと!?)


 同時に【盗み屋】の分身体たちも異常事態を察知する。

 なぜ、本体しか行使できないはずの精霊の恩寵が街の中で発動されたのか。

 考えるべくもない。

 己と同じように、目の前にいるような異常な旅人に妨害をされているからだと。


「おい、どこに行きやがりますか!」


「ちっ! 邪魔すんな!」


「なんか精霊、みたいなやつです。あっちで暴れていやがりますよね? 気になっているみてえですけど、お前は使わねえでいやがりますか?」


「……」


「そういうことですか……」


 旅人達は気付いた。

 今、目の前にいる【盗み屋】は分身体であると。

 そんな情報を、協力者である猫から聞かされていたからだ。




 ──つまり、()()()()()()()()()()()




 それは、おそらく目の前にいる偽物よりも強い個体だ。

 あれ程の規模の現象を行使しているともなれば、その脅威度ははるかに跳ね上がる。


 もし、もしもだ。

 それを先んじて倒されたのであれば。

 その瞬間、彼らの考えは一致した。


(マウントを取られるんじゃ)


(マウントを取られやがりますかね)


(マウントを取られるのではあるまいな)


(興味しかないね)


 彼らは狂っている。

 殺し殺され、誰が優れ劣るかを仲間内でひたすら競い合っている。


 彼らは魔法に狂っている。

 同類である誰かにマウントを取られることを最も嫌っている。


 狂い狂いて、最も狂った者が最も優れていると本気で思っている。

 唯一認めるのは例外中の例外。

 たった一人、頂点に座す少女のみ。

 故に、一種の強迫観念と共に。


「許せない! 俺の魔法があいつらに劣っているなんて! 認められるはずがない!?」


「あひゃっひゃっひゃっひゃ! ここからは残存MPなんて関係ねえです! 一秒でも早く、爆殺してやりやがりますよお!」


「ふはははは! 覚悟するがいい! 人の物を盗む者よ! ここからは本気でいかせて貰うとしよう!」


「興味ないね。本当に、興味ない!」


 今日も今日とて、彼らは魔法に狂い続けていた。

〇サンドヴェール撃滅戦に参戦している愉快な仲間達の魔法理論

発光食品:常に大規模な複数の魔法を展開して押し切るのが一番。火力こそ正義。

パンプキン:かぼちゃ爆弾こそ至高! 爆発は芸術!

呉羽:精密に操作可能な魔法を徹底的に突き詰めてこそ。

雲の糸:できるだけ最小限の労力で最大限の効果を。


〇例外

クロウ・ホーク:使えるものは何でも使う。魔法だけにこだわる必要はない。

魔法狂い:どんな考えでもどんな理論でも全てを肯定する。そんな相手の得意を真っ向から魔法で叩き潰すのが一番気持ちいいから。


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やっぱ魔法に狂ってる奴らにロクなの居ないな。 興味ないねと興味あるねしか言わないこいつはどうやって人とコミュニケーション取ってんだよ。
四人の魔法描写嬉しい!呉羽の魔法はロマンの塊でとても好きです。 盗み屋の分身は便利な反面、リアルタイムの情報共有が出来ない弱点が徐々に響いてきた感じがありますね。まあ普通ならこんなことにはならないん…
ラグマジだと彼らとクロウどっちが強いんだろ? それとクロウもやろうと思えば彼らのように大規模な魔法も使える?
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