第18話 【光機物体】テラ=アルマナク
ロボトミーの<アルカナ>、到達階位Ⅳ【光機物体】テラ=アルマナク。
種族としては機械生命体に位置しており、その能力はいくつもの複合要素で成りたっている。
まず、テラ=アルマナクは群体であり親機と子機がセットで存在している。
子機が有するスキルは《太陽光吸収》が確定枠。
そして、《光学迷彩光》、《光照射》、《光音爆破》、《索敵光》がカスタム枠として存在。
子機は親機の指令の元4つのスキルセットを編集し自らの形を構築することになる。
親機はそれぞれが子機を生成する《子機生成》とそれらを統合管理するスキル《子機統合》を有しており、子機のスキルセットや姿形をカスタムし運用する。
その数、到達階位Ⅳの現在各親機につき最大100体。
親機は4体存在しており、子機は最大400体の運用が可能だ。
親機は子機が収集した情報を蓄積することも可能でありそれらの情報は主人である旅人も参照することができる。
弱点としては数を増やすほどに運用する子機それぞれが有するステータスは脆弱になる。
加えて、統合する親機が破壊されれば指令下の子機すべてが機能を停止。
さらに、子機は基本の原動力を外部の太陽光に依存しているため天候によって活動時間が極端に短くなる。
総評として、状況に応じ最適化することで広範囲の索敵・迎撃と狭範囲における戦闘能力を獲得可能な汎用性の高さを有した<アルカナ>だと言えるだろう。
ただし、テラ=アルマナクは自我がほぼなく主人からの単純な命令式しか実行することができない。
400体の収集端末から集まる視界情報をリアルタイムで全て精査し、単純な命令式によって親機に最適な指示を出し子機を適切に配置運用できなければ戦闘で有効活用などできようがないはずで……
☆
演算の怪物は、その程度のことであれば事もなげに成し遂げる。
「間違いだぁ?」
既に300体近い子機は破壊された。
加えて自らの命に王手がかかった状況。
だというのに旅人に焦りはない。
「僕が操作可能な最大個体数は全部で400機だ」
全てが計算通り故に。
「ああ、あと100体いるってわけね。ま、あんな雑魚いくらいても今の僕の相手じゃ……」
「いや、少し違う。あくまでも最大で400だという点に留意してほしい」
ダケッドは1つミスを犯した。
いや、それは正しくはミスではなかった。
なぜなら、そうなるように誘導されたのだから。
「僕には愉快な知り合いが2人程いてね。彼らとの会話は興味が尽きることは無い」
ロボトミーが脳裏に思い浮かべるのはバイト先で知り合った2つの異常。
──俺ならもっとうまく煽れたぞ。
──まだまだ人読みの精度がダメダメにゃ、ま、及第点はくれてやるしー。
今の自分を見たら、彼らはきっとこう言うだろう。
「何を言って……」
「ダメじゃないか。殺し屋が忍ばずに自らの姿をさらすなんて。そんな、隙だらけのことをするなんて……」
ロボトミーの指示によって動くテラ=アルマナクの親機は勝ち誇りに来たダケッドを見ながら空を指さした。
「最初に言っただろう」
彼らの頭上、地上100メートル地点。
「──君が次、ここに戻ってくるのも、僕の予測の範囲内だよ」
空から光が。
「広範囲光照射」
落ちる。
「──っ!?」
気づいた時には遅かった。
(この範囲と威力!? 今までの比じゃ……)
子機を100体まで細分化すると1つずつが有する火力は非常に脆弱になる。
だが、なにも必ず最大数まで分割し運用しなければならないわけではない。
空にあったのは3体の親機と100の子機が合体し作り出された《光照射》に特化した砲台だ。
ただし、最大威力到達まで数分のチャージ時間が必要であり、悟られないよう慎重に準備をする必要があった。
そのために片手間に周囲に残された人々の避難を誘導。
本来の目的が別にあると悟られないためのブラフを用意したのだ。
(躱すのは間に合──)
ダケッドは全ての触腕の照準を上に合わせる。
そして、旅人目掛け放とうとしていた<デスポロイ>も頭上へと向けた。
「《千矢》!」
刹那に放つは自身の必殺。
放たれた矢はスキル効果によって無数の矢に分裂。
触腕からは大量の《魂矢》が機関銃のように射出される。
天から降り注ぐ巨大な光の柱を天へ放たれた矢の豪雨が迎え撃つ。
そのまま、無数の矢が巨大な光の柱を押し返す。
「《貫通矢》!」
重ねるように放たれた一撃は全てを透過。
一直線に突き進み上空にいたテラ=アルマナクを穿ち貫く。
発射口が破壊されたことにより急速に光の柱は縮小。
無数の矢は天に座していた物体を勢いのままに破壊した。
(危なかった! 反応できなければやられていた!)
空から舞い落ちるポリゴンをダケッドは憎らしげに睨みつける。
直撃しても致命傷には至らなかっただろう。
だが、間違いなくこの後の撤退戦に支障が出るレベルのダメージを負ったはずだ。
そのように考え、警戒と共に素早く周囲の空を見渡す。
同じように隠れた物体がいないことを確認。
「はっ! 残念だったッ……!?」
そして、背後と側面から放たれた二筋の光がダケッドを撃ち抜いた。
(な、に。攻撃された。一体、どこから……!)
現在、ダケッドが知覚可能な範囲にめぼしい魂の反応はない。
魂壁を貫通するほどの威力の攻撃をする存在はいないはずだった。
「最近、とある商会が魔砲を小型化しようという試みをしているらしくてね。それにあやかろうと、僕も魔導銃の模倣品の類を色々買い漁ってるんだ」
魔砲とは魔石を原動力に放つ大型の砲台のことだ。
基本的にそれらは防衛のために街の外壁に設置される。
しかし、昨今の時勢の変化を受けて個人でも運用できるために小型化する流れがあった。
「その中でも質のよさそうなものを僕なりに少しアレンジしてみてね」
【機械整備士】とは【整備士】の派生上級職に位置している。
そのジョブは機械生命体であるテラ=アルマナクを強化することが可能ないくつかのスキル目当てに就いたものだ。
だが、本来は機械や部品の加工や整形に優れたジョブであり。
「後は引き金を引かせるだけでいい」
それを用い小型の魔砲に改造を施し威力を底上げした。
魔導銃とは異なり、一種の魔道具に分類されるため魔石さえあれば<アルカナ>でも使用できる武装。
火力不足という弱点に対する彼なりのアプローチ。
「君が気配以外の何かを探知していたのはわかっていた。熱源か、もしくは生命反応そのものを捉えるものだろうとね」
気配感知スキルだけでは説明がつかない狙撃精度の高さ。
だが、不思議なことにダケッドはテラ=アルマナクの反応を捉えることができなかった。
つまり、機械生命体の身体がある種の対策になっていたと考えられる。
「だから、この不意打ちは通ると思っていたよ。さすがにバリアを張られたのは驚いたけど、無事に貫通できたようでなによりだ。迎撃に魂を使いすぎたのかな?」
最初の問答から仕込み続けていたのだ。
言葉巧みに相手の潜在意識を誘導しきるために。
この場面に至るまでの全てを。
「……この程度の傷で死ぬほどやわじゃないんだけど」
「だろうね。道具を頼ってみたけれど致命には程遠いし、これは流石に僕の負けかな? 反省点が多いこと多いこと」
読み勝ったのはロボトミーだ。
だが、結果を見れば威力が足りずに仕留めるには至らなかった。
次の攻撃が来ないと判断した触腕が無造作に振るわれる。
複数の矢が射出され、ロボトミーの姿を模した親機を破壊。
すぐさま<デスポロイ>を構え直し矢の照準を合わせた。
「今度こそ死ね……」
狩人は獲物を殺すためにスキルを放とうとし。
「誰も、狙撃があれで終わりとは言ってないだろうに」
ダケッドの腹部を再度光が撃ち抜いた。
「は、あ゛っ!?」
「楽しかったよ」
けらけらと主人の笑いを反映しながらロボトミーの姿を模した最後の親機が崩れ落ちる。
【光機物体】テラ=アルマナクはこの瞬間、全ての機能を一時的に停止した。
☆
□サンドヴェール中央区画外れ
「んー、っと」
ロボトミーは小さく背伸びをし先程までの戦いを振り返る。
「対人戦も意外と面白いね。ハマる人がいるのも納得だ」
目下の課題も見え、これから何をすればいいかもはっきりしてきた。
ロボトミーは最後に見たNPCの顔を思い出しくつくつと笑いを零す。
相手の裏を読み、出し抜き、おちょくるというのもなかなかどうして楽しいものだと。
(ねここや黒烏に影響されたかな?)
そんな自己分析をすることはや数秒。
「さて、そろそろ矢が飛んでくるはずだけど」
不思議なことに待てども待てども矢は飛んで来ず。
「……おっと、これは読めなかった」
代わりに宿屋の扉が蹴破られた。
ロボトミーは若干の驚愕と共に珍客のことを見る。
この宿屋にいるのは旅人ただ1人。
つまり、ここを訪れた相手が誰に用があるかは明白であり……
「やぁ、実際に顔を合わせるのは初めてだね」
そこには先ほどまで<アルカナ>を介す形で会話をしていた1人の殺し屋が立っていた。
【光機物体】テラ=アルマナクの情報を「エターナル・チェイン ─Secret Option─」に追加しました。
Q:なんでダケッドは無事だったのか。
A:ロボトミーの火力が足りなかったためです。唯一届き得た広範囲レーザーは迎撃され、小型の砲台による遠距離狙撃も普通に耐えきられました。<デスポロイ>が寄生したことによる基礎耐久ステータスの上昇、火力上昇、範囲攻撃の獲得、魂壁によるダメージ減少とダケッドの弱点がほとんどカバーされた結果です。
Q:テラ=アルマナクってそこまで火力不足してる?
A:数分間のチャージが必要かつ固定砲台として使用してようやくダケッドに大きい痛手を負わせられるだけなので費用対効果に見合ってはいません。家屋程度は簡単に吹き飛びますが逆に言えばその程度です。到達階位Ⅳの中だと相対的に火力は低い方になります。多機能故の弊害です。
Q:いつからロボトミーはテラ=アルマナクと入れ替わっていたのか?
A:最初からです。「第1話 サンドヴェール撃滅戦」で街を散策していたのがテラ=アルマナクの親機①。そして手元から散らばっていったのが《子機生成》で作られた子機達です。街の散策や戦闘は全てテラ=アルマナク経由で本人は最初から最後までずっと宿屋で涼んでました。
Q:なんでテラ=アルマナクは<デスポロイ>が有する魂知覚スキルで認識できなかったのか。
A:ロボトミーの潜在意識の中に機械に心はいらない。相棒も特に興味がない。NPCはNPC。といった要素が内包された結果、テラ=アルマナクは自我が極端に薄い形で生まれました。
それは今も変わらず魂の反応は微弱どころかほぼ存在しないため、結果的にある種のメタ性能になっていました。
テラ=アルマナクは求められるままに命令に従うだけの存在だと自らを定義しています。
かわいいですね。




