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第16話 黄玉衝虎の腕輪

 それは、言ってしまえばただの偶然だった。


「むむむむむ、悩みますわね……」


 その旅人は行きつけのバザールで立ち寄った店の商品を見ていた。


「どうだい! どいつもこいつも希少な鉱石ばかりさ」


 イデアの商人は胸を張りながらそう嘯く。

 言葉とは裏腹に希少な鉱物なんてとんと存在せず鉄鉱石のようなものが大半だ。

 《鑑定眼》や《審美眼》で見ようものなら屑石かと見間違う程に低品質、加えて割高なものばかり。

 いわゆるぼったくりの店。

 しかし、そんな商品を旅人は妥協することなく真剣なまなざしで見続ける。

 この街に武者修行に来た彼女は、いついかなる時であろうとも目を光らせているのだ。


「あら、これは……?」


 女性が手に取ったのは<風化した結晶>というアイテムだ。

 屑石に並ぶように置かれていた、手で覆えるほどに小さな鉱石。


「あー、それは……」


 風化や錆びといったアイテムへの付加情報は長い年月や魔域による何らかの環境要因によって付与される。

 どんなアイテムが風化したかは実際に鑑定系のスキルを使用しなければわからず、劣化が激しい場合や一定以上の年月が経っており解析できない場合は復元し元の姿を取り戻す必要がある。

 だが、それをするのは非常にお金がかかる。

 なぜなら、専門の技術を持った加工職人や錬金術師に依頼する必要があるからだ。

 加えて復元方法を誤り素材を傷つけ価値を損なう場合や、壊れてロストするリスクも存在する。

 また、こういったアイテムは多くの場合においてハズレである。

 苦労して復元してみたらただの石だった……というケースも珍しくはない。 


「素晴らしいですわ! 磨けば光る原石! 間違いないですわ!」


「お、おお。そうか」


「これ、いくらになりますの!?」


 瞳を輝かせる旅人を前に商人は考える。

 どうせ、自分では解析できなかったものだ。

 屑石の可能性も非常に高い。


「5……いや、10万スピルだ!」


 だが、そんなの知ったことではない。

 高く売れそうであれば高く売る。

 噓八百を並べ口先で高く売る。

 商品を仕入れるツテもない男はこうして生きてきた。


「高いと思ったか? 馬鹿言っちゃあいけねえ! 風化したアイテムってのはいわゆる可能性の塊よ! 錆びた剣を研いでみたら伝説の剣だった! そんな話はごまんとある!」


 ごまんとはない。


「そして、この<風化した結晶>もその1つ! お客さんがビビってきたのも、その可能性を見抜いたからさ!」


「ということは、貴方もですの?」


「当然だろ! だが、悲しいかな! 俺にはこのアイテムを捌ける商売ルートがねえ」


 高い鑑定費用を捻出できるほどの蓄えがなかっただけだ。


「だから、この価値を見抜いてくれる真の(まなこ)を持つ者を待っていたんだ」


「真の(まなこ)を持つ者……つまり、(わたくし)のことですわね!」


「ふっ……」


 商人は意味深に笑う。

 特に意味はない。


「安い! 買いましたわ!」


「まいどありー!」


 結果、行われたのは理不尽なトレード。

 寂れた石ころ1つが10万スピルもの大金で取引された。


「旅人ちょれえ。これでしばらくは持ちそうだ。思ったが、風化系のアイテム集めまくれば高く売れるんじゃね? なんか、妙に売れるしなぁ……」


 そうして零細商人に1つの気づきを与えながら、()()は旅人の手に渡った。


「おーほっほっほっほ! 最高に美しく仕上げて差し上げますことよ!」


 旅人は工房で素材と1人向き合う。


「とりあえず軽く磨いてみたけれど、なかなかに()()()ですわね。研磨材の属性は土、かしら? できるだけ相性の良いものを選ばないと一瞬でおじゃんですわ……」


 棚に並べられた多くの研磨用のアイテムを手に取り、どれが最適かを感覚で選び取っていく。

 砂漠の中心にあるサンドヴェールは宝石加工に優れた街だ。

 その理由の1つに<磨き砂>を始めとした各種属性に対応する研磨用アイテムが街の周辺から容易に採取できる点が上げられる。


「出来ましたわ!」


 その素材と()()した旅人は驚くほど簡単に一切品質を損なうことなく磨き上げてみせた。


「<黄玉衝虎の涙>……聞いたことありませんわね」


 まさか、思いもよらなかっただろう。

 そのアイテムが自然死したとあるモンスターのドロップアイテムが風化したものだと。

 それが、()()と呼ばれる素材だったなどと。

 そして、宝石という素材になったそれは……


「完成ですわ! 渾身の出来です! おーほっほっほ! また1つ、私のお嬢様パワーが上がってしまいましたわね!」


 彼女の手によって1つの装備へと仕上がった。


「……あら、少し性能が良すぎませんこと? まぁいいですわ! セバスー! セバスー! 来てくださいましー!」


「どうされましたか、お嬢様」


 それは、<ハウリングタイガー>という中級モンスターが残したものだ。

 衝撃を伴う咆哮を放つ種族の中で、強力な個体がいずれ至ったかもしれない可能性の到達点。


「セバスに似合うよう仕上げてみたのだけれど、どうかしら?」


 孤独か、はたまた渇望か。

 何をもってして災片になったかは語られることは無い。

 分かっているのはその個体は超越には至らず。

 しかし、超越に足る権利を有していたことだけ。

 その超常の生物からドロップ()()()()()()()素材。

 それはまるで黄玉のような淡い輝きを放つ結晶だった。


「光栄の極みでございます」


 長い年月によって風化した遺物が紆余曲折を経て人類の生息圏に紛れ込み、1人の職人の元へと導かれ……共鳴の果て、ここに新たな姿へと生まれ変わる。






 【超越装備】、<黄玉衝虎の腕輪(テロスタンリング)






 そうして、()()()()()()()()()()()()()()()無名の超越装備は産声を上げた。



 本来であれば、その戦いを制するのは【剛腕】()()()


(ありえねえ……)


 数ヶ月もの期間溜め続けた10万を超える執事ポイントを費やそうとも、圧倒的な暴力と正面からの撃ち合いに勝つことは不可能だった。


(ありえ、ねえ!)


 故に、勝敗を分けたのは装備の差。

 そして、それこそ運によるもの。

 旅人の元にたまたま災片が転がりこんだこと。

 素材と共鳴し最適な加工をもってして超越装備の完成品に仕上げてみせたこと。

 その超越装備が一種の物理法則を制御する能力を有していたこと。

 しかし、偶然がいくつも重なればそれは必然だ。


(俺の(スキル)()()()()()威力が増してやがっ……!?)


 装備スキルである《衝撃掌握》により周囲の衝撃を掌握し()()

 アクティブスキル《衝虎咆》は爆発的な衝撃を伴う拳撃を放つというもの。

 暴力的な咆哮を放ち制御する性質を宿した素材は、腕輪という形を成したことで拳撃に関連するスキルへと昇華された。

 使い方によっては自身の周りに衝撃の壁を作り出すことすらも可能なそれが、周囲に発生した衝撃全てを巻き込みながら増幅し……ただ1人目掛け振るわれる。


「俺、が……っ!」






 ──この過酷な世界で自らが狩られる側だと理解していない者の寿命は短い。






「力で負けるはずがあああああねえアアア゛ア゛ア゛ァ……ッ!?」


 その怒号は爆発の濁流に呑まれかき消されていった。



 残されたのは爆心地と見間違うほどの衝突跡。

 戦場に立つはただ1人。

 片腕は折れ衣服は吹き飛び、半身どころが全身至るところを損傷。

 その手に付けていた指輪すべてが壊れ残ったのは腕輪のみ。

 しかし、勝者の矜持は折れることなく二本の脚で立っていた。


「貴方様の敗因は、油断と慢心でございましょう」


「……あ、が……ががっ」


「と、聞こえておりませんか。ふぅぅ……」


 気絶した大男を前に青年は大きく息を吐く。

 かくして、サンドヴェール撃滅戦、東区画の戦い。


 勝者。




「さすがに、疲れましたね」




 イザベラ・チャリスカッテが<アルカナ>。

 【従僕の魔紳士】セバス。


「きゃあああああああああああ! セバス、やりましたわね! さすが私の執事ですわ!」


 先ほどの衝突によって吹き飛ばされていた旅人は、砂埃に塗れながも興奮のままに大きくはしゃぎ自らの相棒へと喜びを伝える。


「お嬢様」


「ですが、これで満足はいたしませんことよ! もっと私たちは……」


「お嬢様」


「あら、どうしたの?」


 執事は主人を制した後、腕輪を外し渡す。


「大変勝手ながらしばしの間、お暇をいただきます」


「え?」


「どうやら、お相手はまだ息があるご様子。気絶している今のうちに拘束するか、背後で見ておられるイデアの方々とご判断いただきますよう……あ、もう時間ですね」


 セバスはまくしたてるようにイザベラへ今後の方針を伝える。

 主人に後の始末を頼むのを悔いながら。


「では、また後日お会いいたしましょう。お嬢様」






 そのままセバスはHPを全損しポリゴンとなって砕け散っていった。






「せ、セバスううううううううううう!?」


 当然だろう。

 生存できたのはひとえに《戦う執事》による強化あってのものであり、既に効果は切れている。

 周囲一帯を吹き飛ばすほどの衝撃をその身で制御し、どうにか最小の被害に抑え込んだのだ。

 結果的に全身に継続ダメージを負うほどの傷を負った状態でHPが持つはずもない。

 目の前で執事が砕け散った動揺を隠すことができず、しかし言われた通りにイザベラは慌てながらもアイテムボックスから拘束に使えそうなものを取り出していく。


「え、え。と、とりあえずデバフ効果付きの鎖で拘束を……あ、私1人じゃ無理ですわね。そ、そこの皆様方! 手伝ってくださいましいいいいい!? こういう時どうすればいいんですのおおおお!?」


 色々な感情が混ざり合った悲鳴が周囲に木霊した。

公開情報が追加されました。いずれ「エターナル・チェイン ─Secret Option─」に移動します。

【超越装備】

黄玉衝虎の腕輪(テロスタンリング)

装備可能条件:合計レベル300以上、STR3000以上、基礎DEX5000以上

耐久値:1500/1500

装備補正:STR+25%、DEX+100%

装備スキル:

《衝撃掌握》

周囲の【衝撃】効果を掌握し任意で増幅させる。

《衝虎咆》

爆発的な衝撃を伴う拳撃を放つ。接触中、対象のENDを減算する。

消費SP:1000+最大SP 30%

クールタイム:330秒


【衝撃】の制御に特化した超越装備の完成品。

周囲に発生した衝撃を制御・増幅する効果を持つ。

特殊装備枠の超越装備は作成難易度も込みで非常に希少性が高い。

一種の物理法則への概念干渉効果であり、技量には依存するものの自身の周囲に衝撃の壁を意図的に作り出し相手からの攻撃を弾き飛ばすと言った芸当も可能。

《衝撃掌握》に消費SPはなく装備するだけで得られる特殊効果のため使い勝手はよいと考えられる。

また、《衝虎咆》を使用することで意図的に衝撃を発生させることも可能。

これを装備するだけで衝撃系スキルの使い勝手が格段に向上すること間違いなし。

ただし、基礎DEX5000以上という装備条件は難易度高め。

装備し運用したい前衛職系のジョブよりも【弓術士】や【投擲士】といった後衛職や生産職の方がDEXのステータス補正が大きく条件達成するため噛み合わせが悪い。

具体的に前衛系の1つである【戦士】のDEXは350。後衛職の【弓術士】は800、生産職の【造形師】は1000と言った風に。

DEX補正の大きい上級職を1つ入れて条件を達成しつつ、残りを前衛系のジョブで固めるなどの工夫が必要になるだろう。



Q:なぜ<アルカナ>であるセバスが超越装備を装備できたのか。

A:スキル効果によって一部の装備条件を無視していたため。この場合、「合計レベル300以上」という項目が無視されています。


Q:最後の撃ち合いで超越装備がなかった場合どうなっていたか。

A:純粋にセバスが火力負けして消し飛びます。どうにか軌道を逸らすかもしれませんがそれだけです。そのままガラムは適当に街を蹂躙しながら逃げおおせたことでしょう。


Q:ガラムが冷静だったらどうなった?

A:無駄撃ちさせられたセバスはその後一切の抵抗もできずに蹂躙されました。そうさせないためにセバスは最初から一貫して自身の最大火力を叩きこめるように立ち回っていました。装備を温存していたのは初見殺しをするため。煽りも執事の嗜みです。


Q:この超越装備ガラムが使うとどうなる?

A:やばくなる。


Q:イザベラ・チャリスカッテは自分が超越装備の作成者である自覚はないのか?

A:ないです。興味もないです。彼女に取って重要なのはお嬢様パワーが上がるかどうかだけなので。ただ、切り札的な運用をした方が良い装備ぐらいには思っています。セバスはなんとなく気づいていますが主人を立てて何も言ってません。

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― 新着の感想 ―
油断し、慢心し、自身の生存本能すら無視した結果が敗北と。 高い戦闘スキルや頭の回転力があってもそれを無力化し力押しだけに思考を傾けさせたセバスの勝利だね。 これセバス以外に装備品を装備できるアルカナ…
>>10万を超える執事ポイント そういえば1日当たりに平均どれくらいでたまるかわからないからどれくらいのリソース使ったか想像できないですね?
今回のマッチングでイザベラが選ばれたのは不思議でしたが、人外意外でワンチャン狙えるとなると、彼女のような特定分野での尖った才能から拾える縁がないと厳しいのでしょうね。納得の結末でした。 ロボトミーたち…
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