第13話 変転
ソレはサンドヴェール各地で起きている戦いを見ていた。
『凄まじいな』
全身には黒いノイズのようなものがかかっており実態を捉えることはできない。
男か女かすらもさだかではなく、発されたのは変成器を通したかのような不快な音だった。
『我ら知恵人においても最上位の者らとこうも渡り合うか』
戦況を左右するには様々な要因がある。
相性、環境、ステータス、戦闘技術といった風に。
だが、それを加味しても旅人と拮抗状態になるような甘い者達ではないことを知っていた。
国家を敵に回して生き延びているという事実はそれほどまでに重い。
現に襲撃者達は多くの旅人を抵抗も許さず瞬殺している。
つまり、渡り合えている一部の旅人が異常なのだ。
『特に、【剛腕】と戦っている<アルカナ>だ』
他の旅人は考慮するだけ無駄である。
なぜなら、個人が所有する異常な能力によって強引に差を埋めているから。
旅人の中の特異個体に分類すべき存在達。
そのため、目下警戒すべくは<アルカナ>に戦いを全て任せたうえで渡り合っている旅人になる。
戦況は【剛腕】優位であり、このまま続けば特に問題もなく勝つことだろう。
だが、足止めの役割を果たしている時点で称賛に値すべきことだ。
『いずれ、あれが基準となる」
旅人の増加は止まらず不死身である彼らの成長速度は並のものではない。
このまま放置していては各国の力は瞬く間に増していくことになる。
『備えねばなるまい』
富を。
権利を。
栄光を。
役割を旅人に取って代わられないために。
備えるためにも時間が必要だ。
故に、悪意の一つは時代の濁流に乗り遅れまいと動き出す。
『我らが繁栄のためにも【荒らし屋】の提案に乗るのはやむを得ぬ……か』
次の瞬間、その存在の全身が足元の闇に溶けていく。
そして、もともとそこには誰もいなかったかのように音もなく消失した。
☆
同時刻、サンドヴェールから少し離れた場所にある集落にて。
日光を遮るほどに巨大なモンスターの遺骨によって周囲のモンスターが近寄らないこの街は、サンドヴェールの衛生都市に位置している。
しかしながらこの街には現在旅人もほとんどおらず、襲撃から30分も経っていないがためにサンドヴェールで何が起こっているのか住人は誰も知らなかった。
見る者が見れば、わかるものがいれば気づいたことだろう。
この街の上空にて一瞬、微弱ながら魔力の流れが乱れたのを。
そして、目にも止まらぬ速さで街の一角から何かが天高く飛び出していったことを。
高度な偽装スキルによって自らの存在を隠しながら空に飛び立ったのは袴に身を包んだ狼人の獣人だ。
瞬く間に雲の上空まで到達し周囲を軽く見渡す。
「方角は……」
男は大気を踏みしめ、脚を貯めるように曲げる。
そのまま思いっきり空を蹴り、加速。
数秒もせずに進行方向に現れたのは巨大な砂の壁。
「蛇砂嵐ですか……」
それは遥か昔に存在したとされる推定臨界個体の影響により今もなお残り続ける災害の名であり、常に移動し続ける<生きた砂嵐>と呼ばれる事象だ。
いかなる手法を用いてもその砂嵐が止まることはない。
まるで蛇のような縦長の層を形成しているのが特徴であり、その範囲は数十キロまで及んでいる。
この砂嵐に呑まれたありとあらゆる生物は生命力を吸われ、何もしなければ死を待つのみとなる。
移動経路は決まっているがためにこの広大な砂漠に存在する街や村は砂嵐の進路に入らないように建てられていた。
「邪魔です」
男は雑に腕を振るう。
それだけで、壁のように立ち塞がる砂嵐の中心に向こうが見えるほどの巨大な穴が空いた。
加速した男は勢いのままに穴を潜り抜け……その数秒後、砂嵐に空いた穴はすぐさま塞がった。
「10大都市を襲撃とは、随分と舐めた真似をしてくれますね」
災厄の自然現象を気にも留めず、高速で空を疾走する存在は冷ややかに言葉を零す。
その視線は常に交易都市サンドヴェールへと向いていた。




