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第3話 異能使い


□交易都市サンドヴェール 西中央通り クロウ・ホーク


 ユティナが有するスキルの中に《魂の分割》というものがある。

 俺が【盗み屋】を見失わずに済んだ理由はこのスキルによるものだ。


(街1つ分ってところかしら。それ以上離れられるとおそらく追えなくなるわよ)


 グランが【盗み屋】達の気を引き付けていた時に、最優先で気絶していた面々にその効果を乗せた呪物を仕込んでおいた。

 魂を分け与えた装備達はユティナからすれば己の身体の一部と同義という扱いになるらしく、ある程度の距離までであれば居場所がわかるらしい。

 結果、見失うことなく即座に追跡ができたわけだ。

 後は追いつけるかどうかが鍵だったため《雷纏強化》を使用してINTの補正を上げ最短距離で空を全速力で突っ切った形である。


(十分だ。あと、その情報は向こうにはわからないみたいだな)


(そのようね)


 【盗み屋】からすれば撒いたはずの相手から追いつかれたどころか、動きを完全に把握され追撃されたと思ったはずだ。

 となれば、こちらに追跡系のスキルがあると認識してくれたことだろう。

 有効距離も、発動条件も向こうからすれば不明。

 つまり……


(ここからが正念場だな)


 俺達は明確に排除すべき対象として認識されたことに他ならない。


 眼だけで追うな、表情で悟らせるな、感覚を研ぎ澄ませ。

 周囲に展開した呪物を通した視界から、魔力の流れから、空気から、ありとあらゆる情報から動きを読め。

 一手読み違えればそれだけで死ぬ。

 それほどまでに奴と俺の間にはステータスと手数の差が存在しているのだと脳に言い聞かせる。


「これで満足かぁ?」


「……案外聞き分けがいいじゃないか。なにか心境の変化でもあったのか?」


 エル王女は結界で囲われ、そのまま偽装スキルによって存在を隠蔽された。

 この場にいることを誰かに知らせることができればもしかしたら保護をできるかもしれない……などという()()は全て捨てる。


「気にすんな。どうせお前には関係なくなるからよぉ」


 そう言って取り出したのは薄くしなやかな黒と色鮮やかな青緑が特徴な二振りの短剣。

 柄の部分に最低限の装飾が施された武器達。

 それはまるで、殺し以外の機能を全て削ぎ落したかのような形状で……




 ──合図はなかった。




「《暗黒弾(ダーク・バレット)》」


 遅延発動を応用。

 殺傷能力に優れた魔弾はすぐさま【盗み屋】へと殺到する。

 男はそれらを瞬時に斬り落としそのまま力強く踏み込んだ。


(魔力への干渉効果か? というか、当然のように叩き落とすなよ)


 すると、その場から掻き消える。

 否。


「──」


 死角から空を駆け恐ろしい速度で迫ってくる影を呪物を通した視界から捉えた。

 周囲に展開している闇剣の軌道を即座に修正し迎撃へ。


「《加速(アクセル)》」


 しかし、ジグザグと変則的な軌道を描きながら加速していく影を捉えることができずことごとくの魔法が空を切る。

 周囲に展開していた魔法の防御網を潜り抜けた相手との距離はあっという間になくなった。

 俺へ目掛け短剣が振るわれるが……既に照準は合わせてある。


「《暗黒衝波(ダーク・ウェイブ)》」


「──ち、《強襲斬波(アサルト・クリーブ)》」


 放つは杖の先端から広範囲に拡散する闇の魔法。

 対して振るわれるは短剣の軌道から広がる波状斬撃攻撃。

 近距離で2つの波が衝突し爆発する。

 それにより俺は弾かれるように吹き飛ばされた。


(やっぱ、早い)


 相手の速さに適応しろ。

 魔法を切らすな、最高速度でこちらに寄らせるな、防御網を展開し組み立てろ。

 常に動きをけん制し減速を強制させろ。


(目だけで追うのは不可能に近いな。かろうじて見える影の軌道から次の動きを予測するのは大前提)


 情報を収集し、予測を修正し、動作を補正する。

 そのまま次に備え体勢を立て直した。

 しかし、不思議なことに周囲に【盗み屋】の姿はなかった。

 呪物を通した視界にも映らず、なんなら魔力の流れすらも感じない。

 まるで、空気に溶けて消えてしまったかのようで……


(あ……)


 俺は直観に従い呪物を操作し身体を勢いよく下へ動かした。

 そして、先程まで俺の頭があった場所に風が起こる。

 突如現れた魔力の反応。

 見上げるとそこには手を空振った【盗み屋】の姿があった。


(っぶね!?)


 ヴィルガイアさんから渡された調査資料の中に警戒しなければならない能力がいくつかあった。

 その1つが対象に5本の指で触れることでありとあらゆる耐性や守りを貫通し強制的に眠りへと誘う【眠りの五指】。




 ようするに手で触れられたら終わりの即死攻撃だ。




 先程消えたのは身体を気体に変化させる異能だろう。

 発動場所からして肉体を変化させた後も移動可能。

 前兆として嫌な風を感じたことから気体に変化した後移動をすると不自然な気体の移動が起こる。

 また、魔力反応が消失していたことから気体変化後は魔力を辿るのは自殺行為。

 剣ではなく素手で触れようとしたのは、当たり所が良かった場合のまぐれ生存を嫌ってのもの、と。


 高い合計レベルによる多彩なスキルやステータスだけでも厄介だというのに、それに異能や加護がかけあわさるとなればその手数は無限に等しい。

 このような初見殺しの()()()()()()が【盗み屋】にはいくつもある。

 当然、既知の物の他に未確認の初見殺しの存在も常に意識しておく必要があり……


(糞ギミックも大概に……)


「《バックスタブ》」


(しとけっての!)


 俺目掛け【盗み屋】は空を蹴り勢いよく突っ込んで来る。

 それに対し前面に展開した魔法と呪物によって牽制。


「《呪光(カースド・レイ)》」


 背後から迫る質量を持った影の刺突に対しては呪いの光を放ち迎撃。

 挟撃の形をどうにか防いだ、が。


(さて、何が来る……)


 ここまでは【盗み屋】()狙い通りの展開だ。

 呪物や魔法、そして俺が全て直線状に収まった状況。

 男は黒の短剣を勢いよく振り下ろす。


「──《黒撃落下(ブラックフォール)》」


 そして、剣先から全てを飲み込むような黒の斬撃が放出された。



□交易都市サンドヴェール 中央西通り


 【盗み屋】が有する武器の銘は<ブラックフォール>と<ミラージュダガー>と言った。

 黒の短剣が有する武器スキル《黒撃落下(ブラックフォール)》は自らの斬撃に闇属性を付与し着弾地点に甚大なダメージと衝撃を与える落下型の攻撃スキルであり、それは落下距離に応じて威力を増す性質を持つ。

 これは基本、最終的な剣の設置点にスキル効果が反映される。

 例えば十分な落下距離を取らせずに防げば威力を抑えることも可能であり、しかしそれは通常の運用の場合だ。


 そこに攻撃の射程を延長する【遠撃の加護】を掛け合わせ放つとどうなるか。

 答えは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というものだ。


 上空から放つだけで射線上にいる全てを粉砕する必殺の一撃。

 使い勝手の良さから【盗み屋】が愛用している殺すためだけの武装。

 地上に作り出された巨大なクレーターを見下ろしながら男は口を開く。


「なんで生きてやがる」


「さぁ、なんでだろうな」


 少し離れた位置で目標の旅人は一切の傷を負うことなく油断なく構えていた。

 周囲には既に追加の魔法が展開されている。

 加えて、呪物はほとんど破壊できていないと来た。


(誘われたか)


 空撃ちさせられたのだと【盗み屋】は理解する。

 呪物も魔法もほとんど消耗なし。

 一手でも対処が遅れれば回避など到底できないはずだ。

 予めあそこまでの展開を読まれていたと考えるのが筋。


(なんだぁこいつは)


 ステータスもレベルも装備も敵にはなりえない雑魚の1人。

 魔導師級だろうとも先程の一撃でそこらのものであれば殺せていたことだろう。

 だと言うのに、【未来視の魔眼】で未来を見ている己とほぼ同じ視点を有しているかのように的確に生き延びられている。

 不可解、不条理、不合理。


「お、あいつじゃね!」


「よっしゃビンゴ!」


「おい、もう誰かと戦ってるぞ。どうする?」


「なんか偽物かもしれないみたいだし、さっさと倒して次行こうぜー」


 ふと【盗み屋】が視線をずらせば、そこにいたのは戦場に近づいてくる10人ほどの旅人だ。

 周囲にはモンスター……旅人達と共に行動している<アルカナ>もいた。

 彼らは【盗み屋】というボスエネミーを狩りに来た者達であり、街の各地で起きている戦闘の中たまたま()()()を引いたのだ。


(ちょうどいい、揺さぶってみるか)


 短剣を軽く握り直す。

 旅人達は距離が開いているために気づかない。

 既に、己が攻撃の射程圏内にいることに。 


「そりゃ早いもん勝ちだろ! 横取り上等!」


「それもそうか!」


「私が貰うっての!」


 旅人達は意気揚々と武器を取り出し仕留めんと意識を空へ向け……


「あれ……? どこにいった」


 既にそこには【盗み屋】はいなかった。


「え」


 疑問を浮かべると同時に彼らの視界が地面に落ちる。


「あれ」


 旅人の首が胴体から零れ落ちていく。


「ぷえ」


 そのまま重要部位を欠損した全員はポリゴンとなって砕け散っていった。

 彼らの周囲に陣取っていた<アルカナ>は主人が死亡判定になったことにより顕現条件を満たせなくなり、後を追うようにポリゴンとなって砕け散る。

 一瞬で砕け散っていった集団の背後には無造作に剣を振り赤いポリゴンをまき散らす男が1人。


「守ってやらねえのかよ、薄情な奴だなぁ! ああ、それとも動けなかったのか?」


 振り返りながら一切動くことのなかった相手を煽る。

 旅人全員がポリゴンとなって砕け散るまでの間、青年は助けにいくわけでもなく銀の悪魔と共にただ見ていた。


 見て、観察し()て、適応し()続けていた。


「はぁ……下手な心理戦なんか仕掛けてねえで、さっさと俺を殺したらどうだ? ああ、できないから不意打ち仕掛けて気持ちよくなってんのか。そいつは悪かった! 俺が手強すぎてごめん! ほんとごめんな!」


「ちょっと、言い過ぎよ? もう少しオブラートに包んであげないと……ほら、傷ついちゃうわ。もっと、彼のプライドを尊重してあげましょう?」


「おっと悪い悪い。合計レベル300程度の奴に足止めされてるまぬけな奴がいたからついうっかり。なんだっけ、国際指名手配犯【うつけ屋】さんだっけ? なんともまぁ……お似合いの2つ名だな」


「ふふっ。もう、笑わせないでよ」


 けらけらと。

 くすくすと。

 煽る、笑う、嘲笑う。

 煽られたなら何倍にもして煽り返す。

 勝率を1%でも上げるためには一切の抜かりもない。


「いい性格してんな、てめぇら」


「そう褒めるなよ」


「口説かないでくれる? 最近多くて困ってるの」


 刹那、【盗み屋】は距離を詰めるべく駆け斬撃を放つ。

 旅人は魔法でけん制し距離を取りながら反撃する。

 彼らは己の勝利のために、目的のために、ありとあらゆるリソースを注ぎ込み続ける。

 手札を隠し、相手の油断を誘い、己の得意を押し付け合う。

 瞬く間に無数の魔法が飛び交い、スキルは放たれ、武器は振るわれ、異能が行使されていく。


 しかしながら、戦いはまだ始まったばかりだった。

◯お知らせ

先日からエターナル・チェイン ─Secret Options─の投稿を開始しました。

設定集順次公開予定で、現在は世界地図資料等を配置しております。

今後は本編では触れられない設定内容他、掲示板回の過去スレッドの配置等を予定しています。

興味のある方はぜひ。

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― 新着の感想 ―
あぁ、適応ではなくユティナのスキルがバレてなかったんですね、更新ありがとうございます
【盗み屋】を煽るような輩は過去にいなかったでしょうねぇ。 対してクロウは煽り合いが日常の者。 【盗み屋】もある程度は平気でしょうが、こんな相手では(煽り合いという面では)圧倒的なアドバンテージがある・…
そういえば天輪眼ってアルカナのステータスは見れないんですね。そうじゃなきゃユティナを追跡特化と思わないでしょうし
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