§ 第二十一章:破滅と路傍の…… 4 §
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聖エルベリア教皇国からの通達が来た数日後、またエルベリアからの速達が来た。その内容は予想通りだった。確実にこの国が混乱する……
「……やられたな……根こそぎ行くつもりか」
ハーヴィスは抗議文を持って国主の権限を主張した。それにより何とかロクターナとシウダー・デ・フエルテの二つの地域はハーヴィスの手元に残った。残ったとはいえ、ほぼ身動きが取れなくなったと言わざる負えない。そして、しばらくして、ロクターナも間接的にハーヴィスの手元を離れた。
旧ローヴァス帝国は八つの国に分かれた。そして、地域により、地方国司が配置される。そして、地方国司の上に統括する守護職が配置された、その上にハーヴィスの国主が据えられる。
今まではハーヴィス直轄の地ということで、全ての地域において彼の権力が振える。それにより、不条理な条件などなく正当に統治される予定であった。今回の決定により、彼らの横やりが入った。
” 完全にエルベリアの当たり前が旧ローヴァス領に食い込んだ形 ”
となった。ロクターナはハーヴィスの直轄地として国主の政庁が置かれたが、ハーヴィスがシウダー・デ・フエルテにいるということから、エルベリアから送られた人間が総督として据えられた。これにより、ハーヴィスの息が掛ったものはおらず、全ては教会の息が掛ったもののみが配置されることとなった。そして、全ての情報はフィルターが掛った状態で流れる。これにより。ハーヴィスの両手両足には大きな枷がはめられることとなった。
「ハーヴィス……予想以上に早いよ……」
「ああ、そうだな……」
ハーヴィスは予想以上に早いエルベリアの対応に舌を巻いた。教会側はハーヴィスの思った以上に自分たちをを邪魔者扱いしていたようだ。そして、それだけ早く動くようにハーヴィスに対して警戒をしていたということでもある。
「警戒か……この行為は自分たちの首を絞めるものとは全く考えていないんだろうな……」
ハーヴィスは苦虫を噛み潰したような表情をした。今まで保守的なエルベリアが他の領地を占領した時にどうなるのか、もっとよく考えておくべきだったと今更ながら思ってしまう。それとは正反対に、出征を繰り返していたローヴァス帝国の方が責任者に対して断固たる惨殺を行っていながら占領地からさしたる抵抗がなく、統治としては概ね下手ではなかったようだ。
ハーヴィスが考えるに、ローヴァス帝国は確かに残虐な方法で占領地に恐怖を与えていたが、その反面、責任者を罰するだけにとどまり、その地域の住民を保護していた。
そのことから” 恐怖と畏敬による統治 ”を行っていたと思われる。それは竹を割ったような明確な内容であり、それがかえって住民に安心感を与えるのだろう。
その反面、エルベリアは執拗に搾取に固執する。それはローヴァスのような明確な断罪ではない。とてつもなくグレーな内容になる。つまりは――
” 白黒をつけ、即時解決し、住民を安心させるローヴァスとは違い、エルベリアは恒久的に住民を苦しませるという統治方法なのだ ”
そして、彼の地は自国領ではない。簡単に言うと植民地だ。ということはつまり、ローヴァスに住む住民たちは既にエルベリア国内にいる住民と格差をつけられ、人として扱われないだろうということだ。
(しかも、エルベリアの民達は皆ローヴァス帝国から戦争をけしかけたと思い込んでいる……だから彼らがどれだけ苦しんでも喜ぶことはすれ、同情や憐れみを持つことはないだろう)
ハーヴィスは早々とこの行為の結末を位置づけた。マサムネの不安そうな表情がハーヴィスを見つめている。正直このようなことを彼女に伝えたくない。ラスコーの帰りを待つ、健気な少女に残酷な現実を見せたくなかった。だが……
「マサムネ、多分この半年後……大規模な反乱が各地に起こるだろう。覚悟しなくてはならない……」
「え! ど、どういうこと!? 」
狼狽するマサムネ。まだ今ローヴァスの地域は比較的安定している。それは長い戦争が終わり、彼らは束の間の平和を満喫しているからだ。それがエルベリアが介入した時点で全てが終わるだろう。
「エルベリアがこの地、旧ローヴァス領を植民地として認識をした……ということだ」
「しょ……植民地……」
マサムネの声が震える。ラスコーが帰るまで頑張ると言っていた彼女の視界が揺らぐように目が泳いでいる。そして意識が途切れるように倒れる。慌ててハーヴィスが抱き留めた。マサムネはとても軽く、そして頼りなかった。
「……すまん。こういうことは本来伝えずに俺がしなければならないことだったんだが……マサムネ……君にこの国を任せたかった」
ハーヴィスは苦しそうに言葉を絞り出す。すると、ハーヴィスの手にひんやりとした手が添えられる。よく見るとマサムネの手が添えられていた。
「……ありがとう……ハーヴィスの気持ち……こっちこそゴメン……こんなに頼りない僕で……」
マサムネは青白い顔をしながらも答えた。まだ精神的なダメージから回復し切れていないだろう。だが、気丈に答えた。しばらくハーヴィスに体を委ねたマサムネは深呼吸をして心を落ち着けた。そして、改めてハーヴィスに相対した。
「……戦争に負けた時から薄々分かっていたよ。でも、改めて言われると、やっぱり……悔しいよ。ハーヴィスが来てくれたからさ。もしかしたら……って期待しちゃって……むしろハーヴィスに迷惑かけちゃった」
マサムネは溢れ出る涙を拭いながら答えた。ハーヴィスはそんな彼女の頭をなでる。「あ……」とマサムネは小さく声を発したが、しばらくハーヴィスに任せた。そして目を瞑り、猫のように幸せそうにしていた。
「ふふっ……ハーヴィスって女の子の扱いうまいですね。……何だかハーヴィスのおかげで何でもできそうなくらい心が落ち着いたよ」
「え? ……そう、かな……とりあえず元気になってくれてよかった」
ハーヴィスはマサムネからの予想外の言葉に戸惑いながらもゆっくりと彼女の頭から手を放した。しばらく場が和んだところでマサムネは改めて尋ねる。
「で、ハーヴィスはどうするんですか? 」
「そうだね……できれば全地域を守りたいんだけど……できそうにもない。だからまずは……」
” このシウダー・デ・フエルテだけ防衛することにする ”
ハーヴィスの言葉にマサムネは頷いた。さすがにマサムネは頭の回転が速い。
「つまりは、僕たちの防衛力ではこのフエルテを守るのが精いっぱいということだね」
「ああ、そういうことだ。だから敢えてローヴァス帝国の旧首都のロクターナも放棄するよ」
その言葉に一瞬マサムネは困惑したが、すぐに頷いた。今の戦力ではどうしようもないということが分かっている。内外に敵を抱えた場合は兵士を一か所に残すのが常套手段だからだ。そうなるとやはり食料の確保が一番の問題となる。
「八方ふさがりだな……取りあえず今の状況を維持しよう。食料調達が最優先で行こう」
「そうだね。今のうちに準備をして行こう」
二人はまずやるべきことから始めることにした。
ハーヴィス達が行動を開始してからしばらくのこと、聖エルベリア教皇国はハーヴィスが予想した通り、教会の息が掛った守護職と国司を派遣した。そして彼らは国の維持を掲げ、その名目とともにその地域に住む住民に対して重税を課した。中には反発する者たちがいたが、彼らは国司の派遣した兵士たちに門前払いを食らわされた。
その時、彼らから言われた言葉が酷かった。
” 口答えする前にまずは貢物を持ってこい! 話はそれからだ ”
これは確実に越権行為に値する。だが、そういう内容は全て揉み消された。ハーヴィス達に届く情報は全て中間管理職からのフィルターが入った内容になっており、統治は安定しているという報告ばかりであった。それが、凡愚な者たちであればその内容を信じていたのだろうが、ハーヴィスは全く信じることはなかった。ハーヴィスが国主となり、一定の額を宗主国であるエルベリアに納めることとなっている。しかし、月を追うごとにその収入額は減っていった。その収支報告をマサムネは憤慨しながら見ていた。
「ハーヴィス! 派遣された守護職や国司達は揃って税金の着服をしている! それだけじゃなく、重税を課しているからそこの住民たちは皆生活レベルが低下している。更に、国司達は独自に重税を課してその税を教会に送金もしているらしい。だから教会側は着服も大目に見ているようだ……税収が落ちていることをこちらの責任としてなすりつけてさ……」
「…………」
ハーヴィスは黙っていた。こうなることは予測していた。そして、予測は現実となった。国司達は教会から派遣された軍隊で持って、住民たちへ圧力をかけている。そして何も言えない住民たちは皆、泣き寝入りをしている状態だ。まだ国司軍からの弾圧は始まったばかりで、今後住民たちが傷つけられる事態に発展するだろう。そして、溜りに溜まった不満が爆発し、それが挙兵に繋がるだろう。分かっているが動けない。
「ハーヴィス……どうするのさ……」
「まだ、その時じゃない……」
ハーヴィスはそう言うしかなかった。現状ではハーヴィスの力では抑えられない。守護職や国司をどうにかすればいい。だが、下手に教会の息が掛った者たちを処断すれば提案権がないハーヴィスはたちまち断罪裁判に掛けられる。そして処刑となるだろう。
何より気がかりなのが、今のオスカーがどうなっているのか分からない状況だ。パラディンとしていた時の情報網はほぼ機能停止している。今改めてフエルテを中心にした情報網を作り出しているところだ。それもあり、下手に動けなかった。
「皆傷ついちゃうよ? それでも……ダメ? 」
今にも泣きそうなマサムネ。ハーヴィスの心が痛む。
「…………ダメだ。今動いたら俺たちが処断される……」
「…………」
マサムネは泣き出し部屋を走り出た。耐えきれなかったのだろう。マサムネはまだ若い。感情に左右される部分が大いにある。軍略の天才も情が湧いてしまうとこうも脆くなってしまうのだろうか。
「ハーヴィス……ごめん」
しばらくすると目を真っ赤に腫らしたマサムネが戻ってきた。心の葛藤に区切りをつけたのだろう。まだ悲しい気持ちがあるようだが、ハッキリと言った。
「もう、迷わないよ。僕……フエルテだけでも守って見せるから」
「……非情な選択をさせてすまないと思っている。だが、そうしないと今あるものが全て失くなる」
マサムネとハーヴィスは暗い表情で頷きあった。
しばらく今後の予定を話しているとエルベリアから一通の手紙が届いた。それは筆頭政務官のオズワルドからだった。その内容は予想通りのモノだった。
エルベリアの行っている行動は非道である。それにより、ハーヴィス達の運命は逆転したのだった。それは正しく――
“ 今の旧ローヴァスの民は” 破滅 ”に向かって動いている。そして、ハーヴィスたちはそこに佇むただの” 路傍の石 ”だった ”
二十一章END




