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『 Legend of the wars  』   作者: 桐生清一
旧ローヴァス領国主編
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§ 第二十一章:破滅と路傍の……3 §

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆3◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



ハーヴィス達が今後、兵士たちをどう扱うか議論をしていた時、本国聖エルベリア教王国から通達があった。その書状は二つあり、一つは正式にハーヴィスを国主として旧ローヴァス帝国領内を統治する権限を与えるというオスカーからの文書と、教会からの書状だった。


「ハーヴィス殿……一体何が書かれているのですか? 」


マサムネは不安そうな表情で尋ねてくる。ハーヴィスはしばらく無言で書状を見ているがかなり渋い表情になっていた。しばらくハーヴィスは言うか言わないか悩む表情をしたが、ため息をつくとマサムネに伝えた。


「早速だが、聖エルベリア教皇国の教会からの通達が来た。その内容は私、法騎士パラディンと同じく教皇様に提案権を持つ者たち。つまりは……彼らの提案がオスカー様に提出されたという内容だ」

「……提案……まさか、僕たちの国に関してのこと……? 」


マサムネの震える声にハーヴィスは頷いた。

 かつてのエルベリアでは、教皇を頂点として教会の頂点に立つ大司祭と東西南北八つ方向に八支部ある司祭達、そして聖エルベリアに貢献した貴族の末裔である貴族院がいた。教皇は決定権があるが、提案権がなく、提案権は大司祭のいる教会側、そして血統を重んじる貴族院の二勢力が提案をし、教皇に提出するというシステムだった。だが、貴族院はハーヴィスの謀略により壊滅し、力を失った。その後、教会側がハーヴィスを推薦、エルベリアの教皇オスカーがその意を受けハーヴィスをパラディンにしたのだった。


「そう、だね。今俺が旧ローヴァス帝国領に行ったことから、後任の筆頭政務官のオズワルドがパラディン代理になったんだけど……やはり無理だったか……」

「え? 無理ってどういうこと? 」

「うん、俺と違って、組織の歯車だった……ってことかな」


ハーヴィスは暗い表情をしていた。ハーヴィスはマサムネに説明する。説明の内容とは、今後協議をする際、ハーヴィスは国外にいることから代理を議題の席に着かせ、ハーヴィスの意を受けずとも案件についての決定権を代理に一任することができる。というものだった。そして、この件が送られてくるということは……


(つまりは代理になったオズワルドが彼らの権力に屈したということだな……)


そして、オスカーがこの件に決定を下したということは……ハーヴィスの役目もそろそろ終わりを迎えているということでもあるだろう。ここまで早く進むとは正直思っていなかった。ハーヴィスは国主になってすぐに窮地に立たされた。


「さて、どうしようかな……」

「………ねぇ……ハーヴィス。僕たちどうなるの? 」

「……分からない……」


ハーヴィスは悔しそうな顔をしてそう言ったが、分かっていた。自分の国主という立場が形骸化するのは時間の問題だろう。とにかく、自分の持ち場とマサムネのいる独立政府だけは守らなければならない。


「マサムネ……いづれ分かるが、今立案していた兵士の生産性向上による市民帰化政策は当分お預けになりそうだ」

「え? ……! ま、まさか……」


マサムネは表情を変えた。ハーヴィスの意図をなんとなく悟ったようだ。今考えている政策が先送りになる。つまりはこの戦力が必要な時がすぐに到来するということだろう。


「ま、また国が荒れるんだね……」

「すまない……」


ハーヴィスが謝ると、マサムネは首を横に振った。


「ううん。ハーヴィスは悪くない。……これも運命ってやつかな。一言でいえば” 破滅と路傍の……序章 ” だろうね」

「……それだけは食い止めてみせるよ」

「いいの? 僕たちと居ると本当にそうなるよ? 」

「構うものか。一度は捨てた命だ……マサムネを守って見せる」


マサムネはハーヴィスの言葉に顔が赤くなった。まるでラスコーが自分に言ったことのように思える。それだけハーヴィスが頼もしいのかもしれない。


「……ハーヴィス……ありがとう」

「……これから大変になる。今のうちに資材を集めよう。これから半年以内にこの地域全ての状況が一変するはずだ。俺も覚悟を決めるよ」


ハーヴィスはそういうと表情を改めた。その表情は戦争に向かうラスコーと同じ表情だった。


「な、なんじゃと! 」


エルベリアにいる老将軍は、同僚の部隊長から話を聞き狼狽した。その噂はとても信じられないものだった。


” ハーヴィスの追い出しが詰めに入った ”


という内容だった。内容が内容だけに末端まですぐに浸透する内容ではなかったが、上層部ではその内容が伝わっているようだ。


「やはり、オスカー様は信頼できなかったか……」

「……部隊長殿。その件はあまり話さぬほうがいいかもしれぬな……」


二人はしばらく無言だったが、頷きあうと、何もなかったかのようにその場を立ち去った。ギルトはまたしても自分の無力さを思い知ってしまった。かつての自分とは違い大局を見て動く行動力はついたと思っていたが、やはり自分は凡人なのだろうかと思ってしまう。


(やはり、ラスコー殿がいなくなってしまったことが決定的じゃったようだ……ハーヴィスに隙ができてしまった)


やはり、包囲してでもラスコーの行動を止めるべきだったのでは……と今更ながら思ってしまう。ハーヴィスの言葉があったにもかかわらず、軽率な行動をしたラスコーを恨んでしまう。しかし、しばらくするとギルト自身ラスコーと同じ立場だと同じ行動をしてしまうと思い立ち、イライラが募ってしまった。


(わしも、ラスコー殿を責めることはできぬな。ハーヴィス殿を信じると言いながら……)


ギルトはなくなった自分の片目に手を触れた。かつてのふがいない自分を戒めるため、敢えてガイストの拷問を受け、その結果失ったものだ。これがあるから今の自分がある。


(結局は全てハーヴィスに委ねるしかないのだろうか……)


外は既に日が落ちようとしている。振り返るギルトは夕刻に染まるオレンジの光を見つめた。落日の時は近いのかもしれない……と一瞬恐ろしいことを考えてしまい、その考えを振り切った。


 ギルトが夕日を見つめている中、同じく同じ夕日を見つめている者がいた。彼は司祭の一人、ユーシスの叔父であるアントニオだ。しばらくエスターナに滞在することとなる。彼らの” 妄想 ”の詰めをするためだ。


「……申し訳ございません……ハーヴィスにやられてしまいました……」


一人の男がアントニオに話しかける。アントニオは彼に一瞥することもなく言った。


「何故あの時、死ななかった? 」

「……はい? 」


男は訳が分からず答えた。アントニオは不快な表情を見せながら男に振り返った。その表情で男は悟った。


「まさか、俺を消す気か? 」

「お前のせいで、ハーヴィスに感付かれた。というか、確信させた」


「!! 」


その一言で男の表情が変わった。懐のモノを握る。


「……俺がいなければ、お前は重要な情報が手に入れられんぞ」

「大丈夫だ。既にお前の” 妹 ”からは了解を得ている」


「!! 」


男が動く前に既に彼の背中に剣が深々と刺さっている。それは胸を貫き、心の臓は既に役目をはたしていない。止めどもなく血があふれる。それに合わせて生命活動が弱まっていく。意識が弱まる中、彼は襲った相手を見た。


「……お、まえ……もか……」

「お兄様、安らかにお休みください」


女はそう言うと兄だった男の亡骸から剣を抜き取った。女は苦笑いをしつつアントニオに言った。


「アンタは相変わらず人をモノ扱いだねぇ」

「兄を裏切るお前も大概だがな」


二人はお互いに笑った。甥を殺害させた者。兄殺しの妹二人は非情な者たちだった。


「さて、やっとひと段落した。ハーヴィスには気付かれたが、奴から勝手に旧ローヴァス領に行ってくれた。おかげでわしの命も繋がれたわ」

「私も不甲斐ない兄のせいで消されかけた。ハーヴィスがいなくなってやっと邪魔者を排除できたわ」


二人は既に落ちた日を見つめる。薄暗く静かだった。女はフゥとため息をつくと飽きもせず外を見続けるアントニオに尋ねた。


「ねぇ。これからどうすんのさ? 」

「そうだなぁ……何しようか」


「……アンタ本当に何考えてんの? わけわかんないんだけど! 」


そう言うと女は手下に死体の後片づけをさせ、呼ばれたからと姿を消す。一人残ったアントニオは彼女のさっき言った言葉を思い出す。


” ねぇ。これからどうすんのさ? ”


彼女の言葉に対してアントニオは答えを持っていた。既に前から考えている。


「そうだなぁ……” どこから手を付けたら ”いいんだろうな……」


答えは見つかっているが、手段が分からなかった。ある意味彼女に言った言葉。彼の偽らざる言葉であったのだった。


 次の日、早朝から慌ただしく三頭会議が始まった。出席者は教皇オスカーと教会の者たち、そしてハーヴィスが後任に残した法騎士パラディン代理のオズワルドだった。完全に彼は呑まれている。どんなに聡明な者でも権力の枠に入ってしまうとまともな考えができないようだ。実務であれば有能な彼もこの場では凡人以下の考えしかできなかった。


「さて、三頭会議を開始する。今回の出席者だが、パラディンのハーヴィス殿が不在ということで、我々がオスカー様に提案をし、代理のオズワルド君がこの会議に参加することとなった。オズワルド君よろしく頼むよ」

「は、はい……謹んで、お受けいたします……」


オズワルドは雰囲気に完全に飲まれた表情で答える。それを大司祭は満足そうに微笑む。オスカーは無表情で彼を見つめていた。三者三様の雰囲気がこの会議を複雑な雰囲気へと変えていく。


「では、紹介も終わったことだし、議題に入ろう。今回は旧ローヴァス帝国の赴任地域の見直しについてだ」


「……え? 」


オズワルドは素っ頓狂な声を上げた。それに眉をひそめて見つめる大司祭。慌てて何でもないと恐縮する。しばらく無言の圧力を受け、さらに彼の思考は真っ白になる。オズワルドは焦るばかりで内容を覚えていない。


「……というわけだが、意見はあるかな? 」


全く内容が分からない状態で話は進んでいく。オズワルドは脂汗が滴る。その時、大司祭から指名があった。


「では、オズワルド君聡明なソナタの意見を聞きたいのだが……」

「え? ええと……」


話を聞いていませんでしたなど言えるわけがない。完全に自分の首が飛んでしまう。どうしたらいいのかわからず焦る。そのとき、司祭の一人が助け船を出した。


「オズワルド君は我々の提案に対して賛成のようだ。……それでいいかね? 」

「あ、はい! 賛成いたします」


オズワルドは藁をも握る思いで答えた。そして内心安堵の吐息を吐いた。その姿をオスカーは無表情で見つめていた。


「……というわけで、この件についてオスカー教皇様へ提案いたします。いかがでございましょうか」


大司祭の声とともに視線がオスカーに注がれる。オスカーは目を瞑り、瞑想するように考える。そして答えた。


「この件は、保留すべきかと思う」


予想外の言葉に一堂が立ち上がる。彼らは必死になって話す。オズワルドは困惑するばかりだ。そのとき、アントニオが答えた。


「この件はオスカー様に一任されます。余計なお言葉は失礼に値するでしょう。後日、オスカー様のお答えをお聞きいたしましょうや」


この言葉で彼らは収まった。そして、大まかな議題を終え、今回の会議は終了した。オスカーが去り、司祭たちはひそひそ話をするようにその場を立ち去らない。その中、アントニオだけは涼しい顔でその模様を眺めていた。


 後日、オスカーの答えがもたらされた。それは” 採択する ”という言葉だった。それにより、大司祭達は小躍りするように喜んだ。オズワルドは相変わらず要領を得ていない。アントニオは当たり前だという表情だった。そして――


” その答えを出したオスカーの表情は乏しく、無表情だった ”


という。この日を境に、聖エルベリア教皇国は大陸一混乱した国という暗黒の時代を迎える。



以降4


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