§ 第二十一章:破滅と路傍の……2 §
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エルベリア教皇国の大司教達が集う集会場。ここは彼らが議論をする場所だ。ここで彼らは様々な議論を行い、教皇に対しての提案策を熟考してきた。そして今も彼らは議論を行っている。しかし、今回は様相が若干異なっていた。
「さて、ハーヴィスがいなくなったことで、これからの提案の儀は我々のみの特権となりますな」
司祭の一人がほくそ笑む。大司祭はそんな彼を制した。
「ハーヴィスの情報網はかなり手広いと聞く……むやみな発言をせず我々は我々の職務を全うするのだ」
そう言うと大司祭は資料を司祭達に配った。その内容を彼らに一読させる。すると彼らはニヤリと笑った。
「そういうわけだ。皆の者、この件に関して是非を問おう。賛成の者は挙手をしてくれ」
大司祭が賛同を求めると、次々と司祭達が挙手をした。その姿を見て彼は満足げに微笑んだのだった。
旧ローヴァス帝国領、シウダー・デ・フエルテ。これからマサムネ達独立政府が活動拠点とする城塞都市だ。今この都市はラスコーが独立した際に集まった兵士三万人が詰めている。都市の食料は満載にしていたが、これだけの大所帯になると欠乏が心配される。なので、ハーヴィスはこの都市から離れる前に彼らに言伝をしていた。
” マサムネ殿が戻るまでの間、ソナタたちは城外にて田畑を作り耕作をしていてほしい ”
と伝えていた。そして、都市から少し離れた土地に彼らの耕作用の集落を点在させ食料調達を行わせていた。簡単に栽培できる野菜を中心に作らせている。狩りや放牧もさせて兵士というより一般市民のような生活を行わせている。あくまで兵士として動くのは国の有事であり、戦闘訓練をすれども普段は必要ないものなのだ。
「さて、うまく行ってるかな……」
「大丈夫だと思いますよ。かなり反発ありましたけど、生きていけないなら仕方ないと動いてくれたようですし……」
ハーヴィスの言葉にマサムネは答える。マサムネはハーヴィスと一緒にローヴァスに向かっている際、ずっと情報収集をしていたようだ。概ね事は順調に進んでいるようだ。
「ま、それでも不満を訴える人は多いみたいですけどね……そういう人は狩りなどをして発散させているようです」
「そっか……狩りで発散できるならなんとか……だな。これからマサムネの対応次第ってやつか……」
「……ハーヴィス殿……無駄にハードルを上げないでください……僕も結構この仕事に不安を持っているんですから……」
視線を落として俯くマサムネ。彼女のその姿を見てハーヴィスも気を引き締める。マサムネが抑えられなければ、自分が抑えなければならない。マサムネの落ち度は自分の落ち度ともなりえるからである。ここで失敗は許されない。
「ああ、そうだな。俺も不安なんだ……すまんな、マサムネ殿の気持ちを考えずに言ってしまった」
「……いえ、こちらこそ……ハーヴィス殿も……不安なんだ。ちょっと安心した」
「……え? 」
ハーヴィスは良く分からずに聞き返した。するとマサムネは頬を赤くして「なんでもない! 」と答えた。それから数日後、彼らは聖なる山の街道を越え、旧ローヴァス領へと入った。途中ハーヴィスが作ったエルベリアとローヴァス兵の慰霊碑に祈りを捧げ、通り過ぎた。
かつてエルベリア側のハーヴィス。ローヴァス側のマサムネ。戦争当時、彼らはお互いの総大将だった。その二人がこの道で再び通るとは思いもかけなかった。かつては敵。今は主従があるが、仲間である。奇妙なものだ。祈りをささげている間、二人の胸中は複雑であった。
「さて、行くか」
「……うん……ハーヴィス……」
「ん? 」
「……いや、なんでもない……」
マサムネは聞き返したハーヴィスの視線を避けるように俯いた。ハーヴィスはしばらく首をかしげていたが、予定があるため直ぐに気を取り直し再度マサムネに出発を促した。すると、マサムネはさっきまでの俯いた表情から普段の表情に戻り、ハーヴィスについてきた。
マサムネはハーヴィスと並び歩く。聖なる山の渓谷、五本峰を見つめながら一人考えていた。
壮大な計画を練っていたのに、勝ったような、負けたような複雑な戦争を行ってしまった。戦いでローヴァスが勝利したのに対して、エルベリアは戦いに負けたが、戦局として勝利した。
意味合いが違うが、お互いが勝利している。しかし、ローヴァスは局地戦での勝利。エルベリアは大局においての勝利だった。初めに手懐けていた土民を奪われ、戦略拠点としてローヴァスが使えない状態になった。そして、お互いの戦争の犠牲者による慰霊碑の設置。それにより、お互いが聖なる山付近において戦争ができなくなった。それはローヴァスにとってとてつもない痛手となった。この戦いにより、エルベリアとローヴァスの立場は攻める側と守る側が一転したのだった。
(正直、この戦いが僕たちの運命を決定させてしまった。僕があそこで負けていなければ、運命は変わっていたかもしれない。ラスコーがハーヴィスを倒してエルベリアを取っていた)
ふと視線を感じ、視線を上げると、ハーヴィスと目が合った。ついさっき考えていた事を思い出し、バツが悪くなり視線を逸らす。そんな彼女をハーヴィスは微笑みながら見つめていた。そして、おもむろに言った。
「懐かしいな。一年前、俺たちはここで戦火を交えた。ラスコー殿を敵ではなく、一人の漢として認識した日だった。あれ以来、俺はマサムネ殿、ラスコー殿二人と手を携えて共に生きたいと考えていた」
ハーヴィスの言葉にマサムネは驚きの表情を見せた。ハーヴィスは相変わらず微笑んでいる。その顔はまるで、近くにラスコーとチョメ助がいるようなそんな雰囲気を持たせるものだった。
「そう……なんだ」
マサムネは恥ずかしくなって頬を染める。何故だか分からない。ハーヴィスと居ると心地よさが得られる。それがとても恥ずかしかった。
「ラスコー殿がマサムネ殿の行方が分からないと焦っていた。その中、俺たちはラスコー殿の軍を包囲した。彼は俺の姿を認めると単騎で駆けてきた。そして一騎打ちをしたんだ」
マサムネはハーヴィスの言葉を聞く。その話はラスコーからも聞いている。ハーヴィスの言うとおり焦っていた。そして一騎打ちをした。しかし、ラスコーはそれ以上のことは語らなかった。マサムネの行方を探すため、撤退したとは聞いていた。だが、その理由ではしっくり来なかった。今ハーヴィスの口から真実が語られるのかもしれない。マサムネは恥ずかしさを感じながらも、期待していた。
「本当に強かった。初めて対決した時よりも数段強く……ラスコー将軍は常に自分を律していた。それが戦いの中で分かった。だが、それはラスコー殿個人の力ではない……」
” マサムネ殿。貴女がいたからこそ、彼は強くなった。そして、最大の強敵として、俺の前に立ちはだかったんだ。それが分かった ”
ハーヴィスから真正面に言われ、マサムネはゆでダコのように赤面した。まるで自分とラスコーの関係が分かっているかのようなそんな発言だった。だが、その当時はまだラスコーはマサムネのことを” 女 ”であることを知らない。特別な、大切な仲間として接していた。
「多分マサムネ殿は真実を知らないと思う。それはラスコー殿がとても恥ずかしくて言えなかったからだと思う。その当時、俺は確信はなかった。でも、今なら分かる……」
ハーヴィスはそこまで言うと一呼吸置いた。マサムネはそれがもどかしく、恥ずかしいのを忘れてハーヴィスを凝視した。その視線に気が付き、ハーヴィスは苦笑いをした。その表情はやはりラスコー殿は言えなかったんだなという感じだった。
「そう、だな。ラスコー殿との一騎打ちは俺が防戦一方、ラスコー殿は攻撃一方だった。消耗戦のようにラスコー殿は疲れ切った。その合間を縫って俺はラスコー殿に言ったんだ。” 貴方の大切な人が、貴方を待っている。なのに、貴方はここで死ぬ気か? ”とね」
マサムネはラスコーが戦闘の最中、ハーヴィスからそんな言葉を投げかけられているとは想像もしていなかった。マサムネの予想外の顔を確認してハーヴィスは話を続ける。
「ラスコー殿は躊躇した。そして俺が自分たちの負けだから兵を引いてほしいと言うと。兵を引いてくれた。その時、俺はラスコー殿という” 漢 ”に魅かれた」
その言葉を聞いたとき、マサムネは胸が熱くなった。ラスコーが自分を心配してくれていた事。そして、そんなラスコーを認めたハーヴィス。お互いの通じ合う姿が目に浮かんだ。
「ラスコー殿は貴女、マサムネ殿の為に兵を引いてくれた。その思いを貴女は忘れてはいけない。貴女は” 最高の漢 ”に思われているのだ。誇りに思っていい」
ハーヴィスの言葉にマサムネは涙ぐんだ。ラスコーの優しさが身に染みるほど感じられたからだ。マサムネは泣き出した。その姿をハーヴィスは静かに見守っている。しばらく泣いていたマサムネは涙を拭うとハーヴィスに微笑んで言った。
「ハーヴィス殿に認められたラスコー殿を私は誇りに思います。そして、ラスコー殿に思われる僕は……幸せでした……」
最後の言葉で微笑みに陰りが見えた。今隣にいるべき人がいない。それがマサムネの微笑みに陰りを示している。ハーヴィスも表情が曇った。お互いにラスコーがいないことに暗い雰囲気を見せる。
「僕はまだ諦めない……ラスコーが戻るまで、この国を守るよ」
「そう、だな。マサムネ、辛いがそれまでこの国を守ってくれ」
マサムネの言葉にハーヴィスは努めて明るく答えるが、マサムネは頬を膨らませて反論した。
「何言ってるんだよ。僕とハーヴィス殿二人に決まってるでしょ! 」
人差し指を立てて怒るマサムネはとても可愛かった。
ハーヴィス一行は無事シウダー・デ・フエルテに着いた。都市の市長と防衛担当の将軍、そして独立政府の主だった重臣たちが二人を出迎えた。一日を置いて、早速ハーヴィス達は事情を説明した。その内容は独立政府はマサムネを盟主として領長とし、旧ローヴァス領全てをハーヴィスが国主として管理するという内容だった。その話は重臣を中心に反論が相次いだ。ハーヴィスを今にも刺し殺そうと動き出さんばかりだ。そんな彼らにハーヴィスは説明をする。
「今は辛抱の時期です。私がここに来たのはこの国、旧ローヴァス領を略奪の地にしたくない。その思いからきている。今、私を殺したとして状況は良くなるどころか増々悪くなる一方です」
それでもローヴァス帝国の騎士としての面子があるためか、強硬な反発がある。しかし、ハーヴィスは根気よく説明をした。そのキーワードは
” ローヴァスの地を略奪の地にしたくない ”
その言葉だった。反発の強い者には自分以外の者がここに来たらどうなるのか、 事の顛末を伝えた。
例え、ハーヴィスを殺したとしても、次の者が赴任される。そして、我が国のように重い税を課し、反発する者は皆殺しになる。そして、ローヴァス帝国は資源だけではなく、大切な民も全て根絶やしにされるだろうと伝えた。
その話を聞くと、大抵の者は皆顔を青くし、俯いた。そして完全に意気消沈した後、ハーヴィスがこれからこの国で行うこと。そして、ラスコーが戻った時に、彼の帰る家を守る為に来たことを伝え、彼らを納得させた。
” ラスコーが戻るまで、力を蓄え、しかる後独立政府は完全な独立を達成する ”
その言葉で彼らは納得した。致し方ないが、ラスコーを偶像化することでこの難局を抑えるしかない。取りあえずは内部の鎮静化はうまく行った。次は末端部の鎮静化と役割を決めなければならない。それは兵士というカテゴリを無くし、彼らを政府に賛同する市民として編成することであった。兵士というものはそもそも生産性は無い。むしろ維持に金銭、食料を消費する。大国として機能しているならば、貴重な戦力として動かせるが、今は従属国、そしてシウダー・デ・フエルテの領域のみの小国となった独立政府ではとても維持しきれない。
” 彼らを生産性がある市民として帰化させる。これが独立政府の初めの課題だった ”
「さて、どうしようかな」
ハーヴィスとマサムネは考えていた。まだ明確な案はないそんな時だった。
新たな問題が旧ローヴァス国内で起こり、それどころではなくなってしまったのだった。
以降 3




