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『 Legend of the wars  』   作者: 桐生清一
聖エルベリア教皇国軍所属編
50/100

§第十一章 エルバランコ・デ・トントス 3 §

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆3◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



ギルト邸はいつもより賑やかだった。普段から三姉妹がいて、華やかなのだが、今日はお客様が2人いる。その二人も陽気な為、更に賑やかになっていた。


「と、まぁこんな感じだよ」

「へぇ、チョメ助さんの故郷すごいですね。是非行ってみたいわ」


チョメ助は、元々この国の住人ではなく、海を隔てた島民族であり、しかも、海を股にかけ商いをしている為、その話は、皆にとってとても興味深い話しばかりだった。食事が終わった時には皆、チョメ助が中心で皆から話を請われていた。


「ギルトさん……ちょっと宜しいですか? 」


チョメ助の話で、皆が集中している時、マサムネはギルトに話しかけた。ギルトは少し不審そうな顔をしたものの、了承し、書斎へと向かった。それにマサムネがついていく。ハーヴィスは二人がこの場から立ち去るのを確認したが、特別な事情を感じ、敢えて気が付かないふりをした。ギルトとマサムネは書斎に入った。そして、ギルトが振り返ったその刹那、マサムネは意外な行動に出たのだった。そう、土下座をしていたのだ。


「ギルトさん、生きていてくださったのですね。本当に、本当に良かった……」


土下座をしながらもマサムネは声を絞りだした。ギルトはかなり戸惑っていた。敵のはずのマサムネからこのような対応をされるとは思っていなかったからだ。


「マサムネ殿、顔を上げてくだされ……我々は元々は……」

「ええ、分かっています。ですが、私にとって貴方の存在は大きすぎました」


顔を上げたマサムネは目から涙を流していた。この言葉に嘘偽りはないようだ。だが、ギルトには全く意味が分からなかった。


「い、いや、どういう意味なのか全く分からんのだが……」


ギルトは混乱してなんと言えばいいのか分からなかった。しかし、マサムネは泣きながらも、ギルトの目を見つめていた。しばらく土下座だったが、立ち上がると、ギルトに話しかけた。


「実は、僕は元々ローヴァスの人間ではないのです。僕は、港湾都市国家の人間です。チョメ助に至っては、この大陸の人間でもない」

「……そうか」


ギルトは答えた。確かに、エルジング領域においての戦争の際、マサムネは姿をごまかしつつ、ギルトの前に現れ、そして、火計において、ローヴァス軍を蹴散らしていた。その時はまだ、港湾都市国家は一つの国だった。ローヴァスに組みしてから、彼はローヴァス帝国の軍師となっている。


「僕は、裏切り者です。国を守るためとは言え、婚姻をし、ローヴァスと関係を持ってしまった。国民の総意を聞くことすらしなかった」

「…………」


ギルトはなんとなくマサムネの言いたいことがわかった気がする。


「僕は、故郷を裏切った。そして、何より、自分が認めた人間を、死においやろうとしかけた。僕は、僕は……」


マサムネは辛そうに顔を歪めた。そんな彼をギルトは優しく頭を撫でた。すると、驚いたようにマサムネは” アッ ”と声を出した。


「今は戦争の世の中じゃ。ワシはお前を恨んでおらん。それよりも感謝している」


「!!? 」


マサムネは目を見開いてギルトを見た。そんな言葉をかけられると思っていなかったようだ。何より、ギルトから一言でも恨み言を言われるのではないかと、それすら覚悟をしていたのだ。そんな彼に、ギルトは声をかけたのだ。とても、とても優しい声で。


「お前は、ワシに計略の全貌を教えてくれた。それにより、ワシは覚悟を決めることが出来た。そして、何より、国を愛することよりも、もっと大切なものを見つけたのだ。その事にワシは感謝している」

「国を愛することよりも、大切なもの? 」


マサムネは尋ねた。すると、ギルトは優しく微笑んで答えた。


「そうじゃ、大切なもの、それは、人を愛することじゃ」

「人を、愛する? 」


マサムネはオウム返しに呟いた。ギルトは相変わらずマサムネの頭を撫でている。


「ワシは、国を愛しておる、それはもちろんじゃが、もう愛国心だけに盲信はしておらん。家族を愛し、自分と関わった人達を愛し、それに、マサムネ、お前もワシは愛しておる。等しくな」


そう言われた瞬間、マサムネは顔をクシャクシャにして泣き出した。自分が感じていた贖罪、それを全て拭い去った上に、このような言葉をかけられたのだ。もうマサムネの心に垣根はない。


「ありがとう。ありがとう!! ギルトさん、本当に、本当にあなたに会えてよかった!! 」


ギルトに抱きついて泣き出した。まだ傷が癒えていないギルトは軽く顔をしかめたが、優しく、彼が落ち着くまで、抱きしめていた。しばらく抱き合う二人、高ぶった感情が徐々に落ち着いていく。すると、今度は暖かな感情が芽生えてきた。これがギルトのいう” 愛 ”というものだろうか。しばらくこの暖かな気持ちを名残惜しそうにマサムネはギルトから離れた。


「……ギルトさん、僕は本当は、あなたが死んでしまったと思っていた。だから、僕はガイストを見殺した。いくらでも助けられる機会はあったけど、許せなかったんだ。でも、結局は僕もガイストと同じ裏切り者だから……」


「そんなことはない、お前ははるばるここまで来てくれた。それだけでもガイスト殿とは違う。あやつはあくまで自分のことのみに注力しておった。その為にはどのような非道なことでもやっておった。部下も全員奴に処刑されてしまったしな」


そう言うと、ギルトは恨みを込める顔ではなく、とても寂しそうな顔をしていた。これはガイストを恨んでいるのではなく、志半ばで命を落とした部下のことを思っての表情だった。その時、マサムネの心にチクチクと痛むものを感じた。だが、ギルトと自分は敵同士……


「ギルトさん、自分の心に巣食っていたモノが取れました。今日は自分にとって、とても有意義でした。今度会うときは、敵同士になりますが、お互い自分の理想に向かって行きましょう」

「敵同士、そうじゃな。ラスコー殿によろしく伝えてくれ。あの男、我々が聞いている噂よりも、思ったよりいいヤツだとワシは思っておる」


それを聞いたとき、マサムネは何故かとても嬉しくなった。彼のことを分かってくれる人間がここにもいたのかと思った。彼らが同じ陣営なら、そうしたら掛け替えのない親友になれたに違いないと思った。


「ええ、ラスコー殿はとてもいい方です。自分が仲間と認めた人間は、命を掛けてでも守ってくれます」

「!! そうか、彼は道を間違えないで欲しいな。できれば、同じ陣営にいて欲しかった……」

「彼も、そう思っていると思います。だって、僕もそう思っているから……」


二人は見つめあった。この二人が敵同士など、誰が思えるだろうか、それほど、彼らの目には敵意というものがなかった。願わくば、平和な時代に会いたかった。二人は互いにそう思っていた。

 しばらくして、二人は皆がいる居間へと戻った。相変わらずチョメ助を中心に女性陣は話に花を咲かせていた。特にアリアは積極的に外の世界の話を聞いては興奮していた。初めに彼らに気がついたのはやはりハーヴィスだった。振り返ると、にこりと笑って表情でお帰りと言っていた。ギルトも軽く微笑んだ。反対にマサムネは彼に違和感を感じていた。まるでずっと監視をされていたような、そんな感じがしたのだった。


「チョメ助。もう夜も遅いから帰るよ」

「ええ~まだ聞き足りない!! 」


マサムネの言葉に真っ先に反論したのはアリアだった。チョメ助の話の途中だった為、その思いが強いようだ。そんなアリアにマサムネはちょっと” ムッ ”とした。全然、多分、チョメ助が取られていることに嫉妬したわけではないはず……


「今日はもう遅いの!! 帰るよチョメ助」

「やだやだやだ~まだお話するの!! 」


マサムネとアリアはチョメ助を挟んで睨み合いをしている。ハーヴィスは完全に苦笑い。チョメ助は自分の話を中断させられた上に余計なトラブルが発生し、またもや” エ~ッ ”という顔をしていた。


「アリア、今日はここまでに……」

「やだぁ~」


ギルトの言葉に最愛の孫娘はごねた。


「ムツキもう少し……」

「ダメ、帰るの!! 」


二人は何故か譲らなかった。二人の間に因縁か何かあるのだろうか。チョメ助は話の腰を折られたことに不満顔で、せめてその話が終わってからにしてほしいと言われた。その言葉にマサムネはカーッとなり勝手にしろと走り去っていった。居間では急な静けさを起こした。皆が変な雰囲気になりどうしようかとなっていた。その時ハーヴィスは立ち上がり、皆に話しかけた。


「ムツキさんを連れ戻してくる。安心して」


そう言うと、ハーヴィスは静かに家の外に出て行った。ギルトは慌てて、チョメ助に話を振り、チョメ助は中断した話を再開させたのだった。


「クソッ、何だよ、チョメ助……」


マサムネは完全に嫉妬していた。アリアを思い出すだけでムカムカしてきた。普通に可愛く、皆に愛されているのがよくわかる。自分のように、特異な世界で生きてきた人間にはあのような幸せな空間は慣れていなかった。よくわからないが、悔しかった。そんな時、不意に後ろから気配がした。振り返ると、金髪の細身の男。印象の薄い優男、ハーヴィスだった。


「あ、き、君は……」

「あ、ごめんね。急に来て邪魔だったかな? 」


マサムネの言葉に、遠慮がちながらハーヴィスが答えた。マサムネは大丈夫と言うと、ハーヴィスはマサムネの横に座った。しばらく無言の時間、だが、何故かマサムネは彼に不快感を感じなかった。まるで、空気のように、ふと隣にいるような、そんな不思議な感覚だった。不思議な感覚だったが、彼がいることで安心感も感じた。


(何だろう、この男といると、チョメ助とラスコーがいる時と同じような感じがする……)


気になって隣の男を見てみる。彼は、透き通った瞳で、マサムネを見つめていた。ハーヴィスに見つめられていると思っていなかったマサムネは、慌てて顔を伏せた。


(ちょっ、ちょっと……僕を見てるなんて、全く思わなかった……恥ずかしい……)


マサムネは顔を赤くして俯いていた。出来るだけ隣の男に自分の赤くなった顔を見られないために……。そんなマサムネにハーヴィスは話しかけた。


「ムツキさん、ありがとう」

「……え? 」


急な言葉にマサムネは驚いた。ハーヴィスが何を言っているのか分からなかった。キョトンとしてるマサムネにハーヴィスは続けた。


「ギルトさん、ムツキさんと書斎で話終えてから、スッキリしてた。まだ気負っていた部分があったから。ムツキさんとの久しぶりの再会がとても嬉しかったんだろうな」


(いや、違う。反対に僕の方がスッキリしたんだ……僕の心に残ったしこりを全部ギルトさんは取り除いてくれたんだ……)


この言葉は思うだけに止め、口には当然出せるわけがない。事情を話せば、この男は多分自分に敵意を向けてくるはずだと思った。何故、彼に敵意を向けられるのを恐れたのかは分からない。だが、自分の本能が彼に対してこの行動は慎むように警告していた。


「ううん、こっちこそお礼を言いたい。ギルトさんは僕の恩人だからね」

「そっか、俺も、ギルトさんに恩がある。ずっと、俺を自分の家に置いてくれる。その心遣いだけでも感謝している」


二人は、同じ景色を見つめていた。二人の見つめる場所は遥か彼方のローヴァス帝国。そして、近い未来、この二人は彼の地にて、激戦を開始するのだった。そのようなことはお互い知る由もなかった。


「さて、そろそろ戻ろう。外は寒いでしょ。女性の方にはこの寒さはキツいよね」


「なっななっ!! 」


マサムネはハーヴィスの言葉に顔を真っ赤にした。そして、ハーヴィスのスネを思いっきり蹴っ飛ばした。ハーヴィスは避けようとしたが、偶然かかとに石がありよけられなかった。


” ガツッ!! ”


「うあっ!! イタタ!! 」


あまりの痛さにスネを抑えるハーヴィス。そんな彼に、マサムネは怒気を露わにしつつこう言い放った。


「僕は男だ!! 」


「……え? 」


ハーヴィスはとても意外そうな顔をした。足を抑えながら謝罪の言葉を言う。


「ご、ごめん……ムツキさん、肌が白くて、可愛かったから。ずっと女の子だと思ってた」

「か、可愛いっだと!! 」


マサムネは目を回しながら狼狽えた。言葉も少しおかしい。


「ぼっ、ぼぼ、僕は可愛くない!! し、失礼なことを言うな!! 」


マサムネは完全にへそを曲げた。いくらハーヴィスが謝っても決して許しはしなかった。だが、何故か、マサムネは怒っている以上に、心の中に” 可愛い ”という言葉がグルグル駆け巡っていた。そんな中もハーヴィスはひたすらに謝った。


「も、もぅ……いいよ」


マサムネはもうどうしたらいいのかわからなくなり、耳まで顔を真っ赤にしつつハーヴィスの謝罪を受け入れた。その後、ハーヴィスは気まずい顔、マサムネは耳まで真っ赤にしてうつむいた顔でギルト邸に戻った。出迎えた皆はこの二人の姿に” ? ”という表情を隠せなかった。

 ギルト邸で、一応、アリアとムツキことマサムネは和解した。アリアも一時の感情で喧嘩をふっかけたことに対して罪悪感があったためでもある。その後、本当に夜も遅くなったので、チョメ助とマサムネはギルト邸を後にした。


「フゥ、ムツキが出て行ったときはどうなるかと思ったけど。あの男、言ったとおりに連れ帰ったね」

「……最低な奴だったけどね……ブツブツ……」


マサムネは何か不平不満をずっと言い続けていた。その時、チョメ助は” アア~ッ ”と声を上げた。マサムネは驚いた。


「な、何だよチョメ助!! 急に声上げないで、びっくりするだろ」

「あ、ああ、ごめん、思い出したんだ」

「え、何を思い出したの? 」


マサムネの言葉にチョメ助は” え~っと ”という素振りをしてから答えた。


「あの金髪の優男……あれがハーヴィスだよ」

「…………え? 」


マサムネは目が点になった。ラスコーやチョメ助の話で” 化物 ”や” 武神阿修羅王 ”とか言われていたため、ごつい男を思っていた。まさかあの優男だとは露とも思っていなかった。


「あれが……ハーヴィス……」


マサムネは積年のライバルと思っていたハーヴィスを思い出したが、彼の謝っている姿ばかりが目立った。イメージが全然違う。そして、とどめに” 可愛い ”という言葉が彼の頭の中にこびりついてしまった。


「み、認めない!! あれがハーヴィスだなんて認めないんだから!! 」

「お、おいどうしたんだよムツキ」


急に暴れだした相棒にチョメ助は困惑するばかりだった。


旧港湾都市国家が持ってきた桐箱は貴族院の面々達により丁重に葬られた。そして、彼らは葬儀が終わると早速議論を始めた。だが、議論は名ばかりで、全員の意見は一致していた。そして、意見書を作成すると、それをオスカーに渡したのだった。その意見書をオスカーは快く印を付けた。成立したのだ。その意見書はローヴァス帝国との新たな戦線を開始する案だった。



以降 4


閲覧2万達成!! ということでゲリラ投稿です。今後ともlegend of the wars を宜しくお願いいたします。

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