第48話 — 野営地での戦い
全員が即席のテントを張り終え、焚き火を囲んで座っていた。彼らは、ミコネコが釣ってきた魚を食べているところだった。
「これ、すごくおいしい……」
アウェレンが感心したように呟いた。
ミコネコは得意げに笑った。
「でしょ? これが私の得意料理なの! あはは!」
アウェレンは少し疑わしそうな目で彼女を見た。
「焚き火で魚を焼くのが得意料理なの?」
「そ、そうだよ……まあ、だいたいそんな感じ? へへっ」
アウェレンはため息をつき、仲間たちを見回した。しばらく全員の様子を眺めたあと、ライセラに視線を向けた。
「そういえば、ここに来てからあまり話していないわね」
「わ、私? ああ……いろいろありすぎて、まだ頭の中が整理できていないだけよ」
アウェレンはわずかに目を細めた。
「あなたの周囲に漂っているマナ……なんだか……」
そこで言葉を切り、何か気になるものを見つけようとするかのように、ライセラを注意深く観察し始めた。
ミコネコは興味深そうに首を傾げた。
「んん~? ライセラに興味があるの? あはは!」
アウェレンはため息をついた。
「違うわよ! ただ、少し様子がおかしいと思っただけ」
「様子がおかしい? どういう意味? このメンバーを見てよ! みんな、何かしら変なところがあるじゃない!」
アウェレンはすぐには答えず、再びほかの仲間たちに目を向けた。
レンは相変わらず口数が少なく、まるで自分の考えに没頭しているかのように、焚き火をじっと見つめていた。
一方、ミレリアは時折、気づかれないようにレンへ視線を送っていた。
ライセラは倒木に腰掛け、片手で頬杖をつきながら、魚を焼く炎を眺めていた。
そのとき、彼女の視線がガリックの視線とぶつかった。
ほんの一瞬、二人は見つめ合った。
しかし、ガリックはすぐに目を逸らした。
「そ、そういえば……あ、明日は雨が降るかな? はは……」
ライセラは何も言わず、彼を見つめ続けた。
数秒後、ガリックは再び彼女を見た。
だが、またしても目が合った瞬間、慌てて視線を逸らしてしまった。
アウェレンは呆れたように息を吐き、立ち上がった。
「少し休んでくるわ」
彼女が自分のテントへ向かうと、ミコネコが手を振った。
「おやすみぃ~!」
それからミコネコは、相変わらず地面を見つめているレンに目を向けた。
「ねえ、レン!」
レンは顔を上げた。
「ん? どうした?」
ミコネコは手招きした。
「ちょっとこっちに来て」
レンは何をするつもりなのか分からず、わずかに眉をひそめた。
彼が返事をする前に、ミコネコはため息をつき、一瞬でレンの隣に移動した。
「は、速っ!?」
レンが驚くのも気にせず、ミコネコはライセラ、ライセラ、ミレリアの三人へ視線を向けた。
「みんな、落ち着いて! 私はレンにちょっと聞きたいことがあるだけだから。誰かさんたちから彼を奪ったりしないって!」
その瞬間、ミレリアとライセラは顔を真っ赤にし、焚き火へと視線を逸らした。
「な、何を言ってるのよ、この猫っ!?」
ライセラが抗議する。
「ぬ、盗むって……! こんな時間に変なことを言わないでください!」
ミレリアも慌てて声を上げた。
ライセラは二人を交互に見て、困惑した表情を浮かべた。
「……何の話をしているの?」
ミレリアとライセラが瞬きすらせず、焚き火を見つめているのに気づくと、ライセラは少し考え込んだ。
「……やっぱり、聞かないほうがよさそうね」
その頃、ガリックも立ち上がっていた。
「俺もそろそろ寝るよ。明日は長い一日になりそうだからな。特に、エルフたちの土地に着いてからは……」
彼はそれ以上何も言わず、自分のテントへ入っていった。
ミコネコはレンにもう少し近づき、声を潜めた。
「それで、レン……あの力を使ったとき、何を感じたの? そのときもちゃんと考えられていた?」
レンは数秒間黙り込み、質問の意味を考えた。
「俺は……意識を失ったんだ。自分じゃない何かになったような感じがした。まるで、何かに身体を乗っ取られたみたいだった」
彼は言葉を探すように、そこで一度口を閉じた。
ミコネコは首を傾げた。
「どういうこと?」
レンは自分の手を見下ろした。
「自分の恐怖とか悩みとか……そういうものが、一時的に全部消えたんだ。でも同時に、もう何も心配する必要なんてないような気がして……うまく説明できない。で、でも……あのときのことは、もう思い出したくないんだ」
ミコネコはわずかに目を見開いた。
「ごめんね、レン。でも、やっぱりそのことについては話しておいたほうがいいと思う。だって、あの力はここにいる全員を殺しかねなかったんだから」
レンはうつむいた。
「俺は……」
ミコネコはしばらく黙っていた。
やがて、静かに尋ねた。
「……自分が死ぬと思った?」
次の瞬間、ミコネコは爪を伸ばした。
レンが反応するよりも早く、彼女は彼の首に向かって、ほとんど目にも留まらない速さで斬りかかった!
レンは反射的に横へ跳び、間一髪で攻撃をかわした。
ミコネコの爪は彼の身体をかすめ、そのまま近くの木に深々と突き刺さった。
「お前、正気か!?」
ミレリアとライセラは、ミコネコの行動に目を見開いた。
ライセラは即座に立ち上がった。
「何があったの!?」
彼女はすでに片手を短剣に添え、いつでも抜いてミコネコに斬りかかれるよう身構えていた。
ミコネコはそんなライセラにちらりと視線を向け、心の中で呟いた。
(へえ……反応が速い。まだまだ、この子の本性を暴く余地がありそうね)
騒ぎを聞きつけ、ほかのテントも次々と開いた。
アウェレンとガリックが飛び出し、周囲を見回した。
「敵襲か!?」
ガリックは警戒態勢を取り、辺りに敵の姿がないか確認した。
アウェレンは信じられないといった表情で一同を見た。
「ほんの数分、あなたたちだけにしただけなのに……どうしてこうなるのよ!?」
ガリックは一瞬で彼女の前に移動し、かばうように立った。
「アウェレン、俺の後ろに! 君に何かあったら、俺たちは……」
そこで言葉を止め、彼は周囲を見回した。
「……いったい何があったんだ?」
ミコネコは、自ら名乗り出るように片手を上げた。
「私が悪いの! ちょっとレンの反射神経を試していただけ!」
レンは怒りを露わにして彼女を振り返った。
「反射神経を試しただと!? お前、俺を殺そうとしただろうが!」
ガリックは二人を交互に見ながら、困惑した声を上げた。
「つまり……ただふざけていただけなのか?」
「ふざけていただけ!? 俺は本当に死にかけたんだぞ!」
ようやく事態の深刻さを理解したらしいガリックは、アウェレンに向き直った。
「す、すまない。必要もないのに、つい君の前に出てしまって……それで……」
彼はアウェレンの表情を見て、言葉を止めた。
アウェレンの顔は、わずかに赤くなっていた。ガリックの行動に、まだ驚いているようだった。
彼女は慌てて首を振り、平静を装った。
「べ、別に心配する必要なんてなかったわね……。もう一度寝てくるわ」
返事を待たず、アウェレンは再びテントの中へ入っていった。
ガリックは数秒間その場に立ち尽くし、頭を掻いた。
「……俺、怒らせたのかな?」
ミコネコが意地悪そうな笑みを浮かべた。
「本当は、あなたのたくましい身体に見とれていたんじゃない? この色男!」
ガリックは凍りついた。
「……え?」
ライセラはミコネコを厳しい目で見た。
「どうしてこんなことをしたのよ、猫! 本当にレンを試したかっただけなの?」
レンはまだ怒りが収まらない様子で、大きくため息をついた。
「もう二度とやるなよ、ミコネコ……。本当に避けきれないところだったんだからな!」
ミコネコは悪びれもせずに笑った。
「最後の瞬間には止めるつもりだったよ、レン。みんなを本気で傷つけるつもりなんてないから! へへっ!」
ライセラはしばらく彼女を観察してから、小さく笑った。
「ふうん。今のあなたの言葉、ちゃんと誓ったことになるのかしら? へへっ」
ミコネコは眉をひそめ、再び口を開いた。
「誓いの話が出たところで、あなたもみんなの前で誓ったらどう? 私たちの誰一人として、絶対に傷つけないって」
ガリックは不思議そうに彼女を見た。
「どうして急にそんな話になるんだ?」
「何かあったの?」とミレリアも尋ねた。
ライセラは何も言わず、注意深くライセラの様子をうかがっていた。
「な、何を言っているの? どうして私がみんなを傷つける必要があるのよ?」
ライセラは明らかに動揺していた。
ミコネコは無邪気なふりをして首を傾げた。
「今日はどうしちゃったのかな?」
レンは少し離れたところから二人を見ていたが、何が起きているのかさっぱり分からなかった。
(どうして急にこんなことを……?)
ミコネコは小さく笑った。
「別に何もないよ。ただ、あなたがちょっと怪しいと思っただけ。へへっ」
ライセラは目を細めた。
「レンを殺しかけたのはあなたでしょう!? それなのに、怪しいのは私だって言うの!?」
ミコネコは口の端を吊り上げた。
「でも、あなたは私の爪を一本切り落としたよね。私の後ろを見てみなよ。ダイヤモンド級より下の冒険者にしては、ずいぶん速いじゃない」
全員がミコネコの示した方向を見た。
彼女のすぐ後ろの地面には、短剣が突き刺さっていた。
ミコネコは片手を上げ、切り落とされた爪を見せた。
「元に戻るまで数時間はかかるけど、ライセラは見事に当てたね。もし私が本当にレンを殺すつもりだったら、この爪は彼の首に突き刺さっていたはずだよ」
レンは反射的に後ずさり、二人を交互に見た。
「い、いったい何が起きてるんだよ!?」
ミレリアはライセラに視線を向けた。
「初めて会ったとき、あなたは自分の速さには自信があるけれど、力が足りないって言っていたわよね、ライセラ」
ミコネコは傷ついた爪を持ち上げ、じっと見つめた。
「私の爪はものすごく頑丈なんだよ。低ランクの冒険者が一本切り落とせるとは思えないな……レンなら別だけどね! あはは!」
レンはますます困惑した。
(どうしていつも俺の名前が出てくるんだ……?)
一方、ライセラはライセラを注意深く見つめ続けていた。
「以前、一度あなたと戦ったことがあったわよね。あのときは、あなたがレンを誘拐したと思っていたけれど……。あの戦いで、あなたは本気を出していないように感じたの。うまく説明できないけれど、そう思ったわ、ライセラ」
ライセラは突然立ち上がった。
「あなたたち、いったいどうしちゃったの!? どうしてそんなに私のことばかり話すのよ! 何をほのめかそうとしているの!?」
彼女はミコネコを指さした。
「私は攻撃が来ると感じたから、短剣を投げただけよ! 狙いを定める余裕なんてなかった。ただ投げたの! でも、そうして正解だったわ! この猫はレンを殺そうとしていたのよ! どうして誰も分からないの!?」
全員がミコネコへ視線を向けた。
しかし、ミコネコは相変わらず落ち着き払っていた。
「まだ誓ってくれていないよ……」
ライセラは歯を食いしばった。
「どうしてあなたの前でそんな誓いを立てなきゃいけないのよ!? そもそも、こんなことを始めたのはあなたでしょう! 私は……あなたを信用していないの!」
その瞬間、ミコネコの笑顔が消えた。
表情が真剣なものへと変わる。
次の瞬間、彼女は突然後方へ跳び、地面に突き刺さっていたライセラの短剣を拾い上げると、信じられない速さで前方へ駆け出した。
次の瞬間には、すでにライセラの目の前にいた。
ミコネコは、彼女の心臓を狙って短剣を突き出した。
ライセラは本能的に反応し、もう一本の短剣を抜いた。
**キィィンッ!!**
鋭い金属音が野営地に響き渡った。
二人は真正面から向かい合い、互いの刃を押しつけ合っていた。どちらも相手を押し切ろうと、全力で力を込めている。
ミコネコはわずかに首を傾け、囁いた。
「私たちのために、誓って。お願い」
ライセラの目が大きく見開かれた。
(待って……これって、何かの魔法なの?)
考える時間はなかった。
ライセラは素早く身を沈め、ミコネコの脚に蹴りを叩き込んだ。
バランスを崩したミコネコの身体が傾く。しかし、彼女は片手を地面につき、その反動を利用して再び跳ね上がった。
ライセラも軽く跳び、短剣を構えて踏み込んだ。
「爪……」
「続けて。言ってみて!」
ミコネコが言葉を促した。
ライセラは眉をひそめたが、何も答えなかった。代わりに、短剣を突き出して攻め込んだ。
二人の刃が再び激突した。
今度はミコネコが、その衝撃を利用した。
ライセラの身体に手をついて勢いよく飛び越え、そのまま彼女を地面へと叩き倒した。
ライセラは素早く転がって距離を取り、すぐに立ち上がって戦闘態勢を整えた。
二人は再び激突しようと身構えた。
「**紫炎よ!**」
その瞬間、二人の間に紫色の炎が噴き上がり、互いの進路を遮る壁となった。
二人は即座に動きを止め、魔法が放たれた方向を振り返った。
そこには、厳しい表情を浮かべたライセラが立っていた。
「もうやめなさい!」
野営地に静寂が戻った。
数秒間、誰も口を開かなかった。
やがて、一つのテントの入り口から人影が顔を出した。
アウェレンだった。
眠そうで、明らかに不機嫌な顔をした彼女は、全員を見回した。
「これ以上騒ぐなら、私は今すぐここを出ていくからね」
ミコネコは彼女を振り返った。
「ああっ、ごめんね! もう寝るから!」
そして、まるで何事もなかったかのように、自分のテントへと歩いていった。
ライセラは深く息を吐き、気持ちを落ち着かせようとした。
「あの猫……信じられないわ」
ライセラは彼女に厳しい視線を向けた。
「あなたも休みなさい。最初の見張りは私が担当するわ」
「私はあっちにテントを張るわ」
レンは、まだ目の前で起きたことを理解できずにいた。
「……お前たち、いったいどうしたんだよ!?」
ライセラは驚いたようにレンを振り返った。
「ど、どういう意味よ、レン!? あなたも見ていたでしょう!?」
ミレリアは腕を組み、興味深そうに彼女を見た。
「あなたがここまで怒るなんて珍しいわね。何があったの? 毒に侵されたときでさえ、ゴロに対してここまで怒っていなかったじゃない」
ライセラは長いため息をついた。
話がさらにこじれる前に、ライセラが口を挟んだ。
「もういいわ。休ませてあげましょう。みんな、疲れとストレスがたまっているみたいだから」
ライセラは小さく頭を下げた。
「そ、そうね……きっとそうよ。私は、みんなが見ていたとおり、自分を守るために必要なことをしただけ。もうこの話はしたくないわ。寝ることにする」
彼女は毛布を手に取り、身体にぐるぐると巻きつけた。
まるで繭のような姿になってしまった。
レンは彼女を見た。
「テントを張るんじゃなかったのか? 手伝おうか?」
ライセラはほかの仲間たちに背を向けたまま答えた。
「必要ないわ。ありがとう」
その後、ライセラはレンとミレリアをそっと近くへ呼び寄せ、小声で囁いた。
「このことについては、明日二人に話すわ。いい?」
二人は彼女を見て、静かに頷いた。
ガリックは口元を手で覆いながら、あくびをした。
「俺も見張りをするよ」
「ありがとう」とライセラが答えた。
レンは二人を見た。
「俺の番になったら起こしてくれ」
「交代で見張りましょう」とミレリアも付け加えた。
その間も、ライセラはほかの仲間たちに背を向け




